第二百八話:魔霧は晴れて
敵は脅威だ。
攻撃も苛烈で一つのミスが命取り、そのまま無惨な死体へと変わる未来など容易に想像が出来る。
正しく生と死が隣り合わせの闘争の中――
俺は何時しか……笑っている自分に気付いた。
気が触れたとかそういうことではない。
ただ単純に何時の間にか楽しんでいたのだ。
≪イシ・ユクル≫との戦いを――狩猟を。
「はぁああああっ!」
理由は色々とあるのだろう。
ある意味でずっと引っかかっていた生まれの謎が解けたこともあるし、先程まで好き放題されていたのもあってリターンマッチに昂っているというのもった。
「これで!!」
≪龍殺し≫――≪
裂帛の気迫と共に横薙ぎに振るった≪
両刃の片側がギミックのように動いたかと思うと一気に闇色のエネルギーが放出、それは刀身の勢いに物理的な加速を促し横薙ぎの一撃をより強大な一撃へと変え、≪イシ・ユクル≫の胴体へと叩き込まれた。
鮮血が舞い、≪イシ・ユクル≫の絶叫が一帯に響き渡る。
「はははっ!」
怒気を露わに反撃をしてくる≪イシ・ユクル≫の攻撃を捌き、俺は思わず笑みを零した。
「全く、ルキは良い趣味をしている……っ!」
――見た目的にもどこか人工物っぽいという、近未来的でメカニカルなデザインをしているとは思ったのだが、まさか変形機構まで備わっているとは……。わかってるなぁ、アイツ。
コレだから問題児とは思っていても嫌いにはなれない。
天才だからという以上になんだろう……浪漫を理解しているのでどうにも可愛がってしまう。
――≪
いったい、どういった技術なのかは不明だ。
だが、≪
ナノマシンによる信号受信を利用しているのかもしれない。
しかし、それにしても清々しいほどのパワー全振りの機構である。
シンプルで豪快というか何というか……。
――だが、嫌いじゃない。
俺は静かに心の中で思う。
ああ、悪くはない。
楽しい、と。
未知の武具で敵へと挑む。
新しい可能性を模索し、試行錯誤する。
≪イシ・ユクル≫という強敵相手に。
いや、だからこそというべきか。
まるで『Hunters Story』を始めたばかりの時のような高揚感を――。
――でも違う、それは天月翔吾の記憶だ。であるのなら……。
「ああ、そうか……。純粋にアルマン・ロルツィングとして狩猟するのはお前が初めてなんだな」
不意に自分の中でかちりっと何かが嵌った気がした。
自分でも不思議なほどに気分が昂っていたのは――つまりはそういうことなのだろう。
これがただのアルマン・ロルツィングとして初陣だから、だ。
変な話だ、あれだけ戦ってきてそんな気分になるなんて。
だが、ずっと刺さっていた小骨が取れたような解放感。
そして、天月翔吾の記憶にない武具というのはいいスパイスになった。
闘志が湧いてくる。
ただ純粋に勝ちたい、負けたくないという気持ちが――活力へと変わる。
笑みを浮かべている。
きっと悪い顔をしているな、と思いながら……。
「――行くぞ」
天月翔吾の記憶を想起し、その経験を取り込んでいく。
アルマン・ロルツィングという狩人の動きにフィードバックして、随時更新を行いより効率的な動きを模索する。
既存の知識が通用しない≪
一つ一つ組み合わせ、そして最適化を目指していく。
無論、常に上手く行くわけではなく手痛い反撃を貰いかけるも――それすらも俺は楽しんでいた。
夢中でやっていた天月翔吾の記憶をなぞるように。
だが、紛れもないアルマン・ロルツィングとしての記憶で上書きするように
「これで……っとぉ!?」
恐らく、これがマードックらが求めていたものなのだろうとは薄っすらとだが理解した。
ゲームをしていた時の記憶と経験、それを持ちながら確かな覚悟を持つ狩人となる。
今の俺は確かに狩猟をゲーム感覚で楽しんでいた。
アルマン・ロルツィングと天月翔吾、その二つを切り分けた影響なのだろうか……何処か別物に感じていた。
だからこそなのかもしれない。
あまりゲーム感覚で楽しむというのはいい意味では使われない。
特にこんな命のやり取りに関わるものならば――尚更だ。
だけど、今の俺は真剣に楽しんでいた。
生死に関わることというのがわかっていないわけでもない。
死ぬのが怖くないいわけでもない。
大事な人が待っていることや領主としての責務もあり、必ず生きて帰らなければならないということを忘れているわけでもない。
それを十分に理解しつつ――それでも楽しむことが出来ていた。
「いいように誘導された気がするのは……癪には触る、けど」
俺も≪イシ・ユクル≫ももはや互いに傷だらけだ。
だが、それでも形勢はこちらの方に傾いた。
無数の傷を負い、荒れ狂っていた勢いにも陰りが現れた≪イシ・ユクル≫に対して≪
とどめの一撃であるということを察したのか、荒れ狂うように≪龍≫属性のエネルギーが迸った。
「お望み通りになってやろうじゃないか。
≪イシ・ユクル≫がその力にまるで慄くようにこちらを近づけさせまいと攻撃を放つも、俺はその間隙を縫うようにして近づくと同時に――一閃した。
その一振りは狙い違わずに≪イシ・ユクル≫の首へと届き、そして――
この日、第三の龍はここに討ち取られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます