第二百六話:≪屠龍大剣・天翔≫
背負った≪大剣≫を抜き放った。
それは唯一の≪龍殺し≫。
≪龍種≫を討つために生み出された「楽園」には存在しないはずの武具。
――≪
引き抜き構えると同時に柄頭に嵌められていた宝玉が輝いた。
ルキ曰く、陛下から託された六つの宝玉の一部を削り取って合成させた物。
『Hunters Story』には六つ全ての≪龍種≫の素材アイテムを使う武具は存在しない。
多くても二種類が精々だったはずだ。
それも希少アイテムである≪宝玉≫を六つ必要とするとなると……大層な素材集め難易度になるな、と俺は思ったものだ。
――「まだ、まるで解析は進んではいませんけど。それでも≪龍殺し≫としての力は使えるはずです」
ルキの言葉を思い返しながら強く握りしめる。
≪
蒼銀色の光が全ての溝を満たした瞬間、紫黒色のオーラのようなものが刀身を覆った。
『Hunters Story』において属性武具がその属性に応じたエフェクトを発生させるが、その漆黒と紫を綯交ぜにしたような不気味さを感じる昏い輝きは――今までのどの属性にもなかった輝きだ。
≪火≫でも、≪水≫でも、≪氷≫でも、≪雷≫でもない。
その色は――
――「名付けるなら≪龍≫属性……とでもいいましょうか。宝玉から抽出されて生産されたそのエネルギーは≪龍種≫に対する特攻ダメージを与えるはずです。例えるならウィルスのようなものと思ってくれれば」
ルキの言葉を思い返しながら俺は≪アトラーシス号≫の後方ハッチから飛び降り、迫り来る≪イシ・ユクル≫に対して勢いよく――≪
絶叫が響く。
手応えあり。
≪大剣≫という武具種の攻撃力の高さを考慮に入れても、その振り下ろしの一閃は確かな傷を≪イシ・ユクル≫へと刻み込んだのだ。
あれほど、強靭であった≪龍種≫の肉体。
外皮、その下の筋肉を共々に深々と抉り裂いた感触。
――「≪龍種≫を討つために≪龍種≫の力を利用する……変な話ですけど、利には敵ってますよね?」
「ああ、全くだ。いい出来だよ、ルキ」
≪イシ・ユクル≫は離れていく≪アトラーシス号≫を無視し俺へと向き直った。
今の一撃に危機感を抱いただろうか、盲目の龍でありながら刺すような視線を向けられた感覚に襲われた。
ノーモーションからのブレス。
圧力を高めた放水のようなものではなく、連発の弾幕のような酸のブレス。
俺はそれを≪
「楽園」の規格の外にある≪
横薙ぎに振るわれる尾の攻撃を、≪
鮮血が舞う。
爪が振るわれる、牙が向けられる。
受け流し、掻い潜り、刀身をその身体に突き立てる。
憤怒の声が上がる。
一際大きな咆哮が上がったかと思うと全方位へと手当たり次第に放たれるブレスの嵐。
俺は瞬時に距離を取って、そして息を整える。
二度目の改めての対峙。
唸り声をあげ、≪イシ・ユクル≫は姿勢を少し沈み込ませて臨戦態勢を取った。
俺もそれに対するように≪
何度か振るったので大体の感覚は掴めた。
深く一つ呼吸を整え深く握り込むと呼応するかのようにに紫黒色のオーラが刀身から溢れ出た。
――≪赫炎輝煌≫
更にそれに加え、今度はスキルを発動させる。
溶獄龍の力、血の如く赫き爆炎もまた絡みつくように刀身へ……。
真白に染まった霧の世界。
昏き闇色の光と煌々たる紅き輝きが周囲を照らした。
「……始めよう」
今のはただのじゃれ合いだ。
本番はこれから。
今度は≪冥霧≫を気にすること無く戦うことが出来る。
エヴァンジェルに飲まされたアイテムの効果によって一切の枷がない。
それどころか一定時間のバフ効果ありのアイテムを遠慮なく飲まされ、力が漲ってすら居る状態だ。
傷も回復アイテムによって全て癒えた。
気力もまた大切な婚約者や母親の見て居る前だと思うと充実していくのを感じた。
――ああ、そうだ。英雄である前に、こうもお膳立てされてしまうと負けられないというものだ。
先程までの折れかかった俺はもう居ない。
ただ、超えるべき障害としか目の前の敵を――冥霧龍≪イシ・ユクル≫を見れなかった。
「お前を除いてあと三体か。先は長そうだ。だからこそ、この程度で足踏みをしている暇はない」
そして人と龍との戦いは。
「後の予定も立て込んでいる。さっさと済ませてやる」
「――ギュルォォォオオ!!」
俺の言葉によって火ぶたが落とされた。
応えるように≪イシ・ユクル≫は咆哮が一帯に響き――そして、最後の戦いは始まった。
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