第百九十八話:眠れる森
現状の問題点は二つ。
まず一つは強制的に≪睡眠≫状態にして来る領域が展開され、対抗策はあるもののそれは有限で尽きる前に抜け出すことが出来なければ眠らされてしまうこと。
もう一つは≪冥霧≫が展開されているということは、この一帯のどこかに≪イシ・ユクル≫が居るということだ。
「一番の解決法は発生源である≪イシ・ユクル≫を倒すことだと思うんですけど。そこのところ、どうなんですかアルマン様?」
「無茶を言うな。そりゃ、一応トラブルがあっても対応できるように上位装備で来てはいるが……今回は相手が悪過ぎる」
単純な戦闘力だけでも≪龍種≫は強いというのに、状態異常対策を積んでない今の状況では……。
――ゲームの中ならうっかり≪睡眠≫状態になって無防備に攻撃を受けても、死ななきゃ≪
当然ながら現実にそんなこと出来るわけがない。
モンスターの目の前で意識を失うなど死と同義の行いだ。
「それに何より持ってきた武具が悪かった……」
俺はそう言って持って来ていた武具を示す。
今回、持ってきたのは≪ムーンエッジ≫という武具だ。
探索と調査が主眼だったのもあって、比較的に持ち運びやすい≪片手剣≫というカテゴリーの氷属性の武具だ。
当然のように上位の優秀な武具なのだが、属性武具の悪いところが現れてしまった。
属性武具は相手モンスターの弱点属性を突ければ、強力なダメージを付加して与えられる。
だが、その反面、敵の属性耐性が高い属性でのダメージは途端に通りづらくなるという欠点もある。
つまりは、≪イシ・ユクル≫は氷の属性に高い耐性を持っている。
故に≪ムーンエッジ≫ではダメージ効率が悪過ぎるのだ。
「≪
「いい武具であることは認めるけどね。だが、流石に強敵相手にぶっつけ本番で使うのは……」
「何度か使ったことあるじゃないですかー」
「≪
「カッコいいですし、欲しくなるでしょ!?」
「まあ、それは認める。けど、それはそれとして手に馴染みが無さ過ぎるんだ」
相手が中位や下位のモンスターならともかく、上位の……それもその中の頂点の一角と戦う際に手馴れていない武具を使うというのは色々と心細いものがある。
「でも、≪ムーンエッジ≫よりかはマシでしょう。私が持っていても……所詮は銀級の採取専門の狩人なので。お守り代わりに交換しておきましょう」
「……お守りには大きすぎるな」
そういいながら俺はルキと武具を交換した。
確かに≪
とはいえ。
「今の状況で≪イシ・ユクル≫と戦うのが自殺行為なのは変わらない」
「倒すのが無理となると、どうにか≪冥霧≫の中を抜け出すしかないですね」
時間は有限。
俺たちは少しでも近くにいるであろう≪イシ・ユクル≫の存在から隠れようと、身体を低くしながらコソコソと小声で意見を交わす。
因みになぜかフェイルも俺たちの横で腹ばいになって伏せていた。
指示は出していないが真似をしているのだろうか……?
――いや、それはいいとしてだ。
「≪冥霧≫の中を抜けるにしてもどうする?」
≪冥霧≫は≪イシ・ユクル≫が発しているので≪イシ・ユクル≫が移動してしまうと覆っている領域も動いてしまうのだ。
つまり、≪イシ・ユクル≫本体の位置が重要となる。
こちらの移動先に≪イシ・ユクル≫が居たり、偶然に≪イシ・ユクル≫と同じ方向に移動していたら抜け出すことが出来ないからだ。
「だが、その肝心な≪イシ・ユクル≫本体の場所がわからない。天に運を任せて動くべきか……」
「そんな博打みたいなことはしませんよ」
「……何か考えが?」
「ええ、要するに誘き出してしまえばいいんです。それなら大まかな場所わかるでしょう?」
「誘き寄せる――ふむ、具体的には?」
そう言って自信満々に取り出した物体に――呆れ返った。
「なんでこんなものを……」
「なーに、もしもの時のために備えを用意するのは狩人の心得でしょう?」
「いや、心得というか……これってルキのただの趣味。いや、現状で確かに役に立ってるから言葉に困る」
確かにこれならいけるかもしれない。
俺はそう判断をするとルキとフェイルを交えて段取りを急いで立てた。
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