第百九十三話:英雄計画②
「よし、とりあえず細かいことで悩むのは後回しにして。資料集めに勤しむぞ」
「露骨に棚上げにしましたね、アルマン様」
「ここに来た当初の目的を思い出すんだルキ」
シラーっという少女の目を全力で無視しながら、俺は雰囲気を切り替えるように言った。
一人で今回の事実と向き合うことになっていればもっと引き摺って居たかもしれないが、ルキが居ることで早く衝撃から立ち直ることが出来た。
そう考えれば感謝の一つでもした方がいいのかもしれないが……。
「やーい、ヘタレ、ヘタレー! 女の子相手にビビってるー!」
「えーい、やかましい! さっさとデータを集めろ!」
「はーい」
何というか凄く感謝の言葉を言いづらい少女だ。
べーっと舌を出して揶揄うように笑いながらルキは端末へと向き直った。
その様子を見ながら一つ俺は溜息を吐いた。
――気を使ってくれているのはわかるんだけどな……。それにしてもそうか……そうなると俺って十八で……だったら、いや……でも。
ふと冷静に考える。
俺が実際は十八年分の記憶を持って生まれただけのアルマンだとして、だ。
そうなると確かにエヴァンジェルとの関係も問題は無くなる。
無くなるのだが、そうなってしまうと俺は彼女と正真正銘の同年代ということになってしまうわけで……。
――……あれ? 俺、大丈夫か? これまで通り付き合えるのか……?
どうしよう、今までは男女経験がないとはいえ一回り年齢が上だからという精神的余裕があったわけだがそれもなくなるわけ……。
――今更になって困惑している……だと?
俺は頭を振って一先ずその悩みを思考から追い出した。
後回しにしただけともいうが。
「どうかしました?」
「……いや、何でもない」
「なんで溜息を吐いたんですか??」
一瞬、ルキだって女の子なんだから女性との付き合い方について相談すれば何か参考になるのでは――などという世迷い言が頭を過ぎったのだが……。
「疲れてるんだな、俺も」
「私に対してとても失礼なことを考えなかったですか?」
それはともかくとして俺たちは英雄計画なるプランについて調べた。
既に音声データは切れて、好きにデータを調べられる状態だ。
そして、調べた結果。
概要については男の説明通りであることがわかった。
正当な手段で≪龍種≫を六体討つことは出来ないと判断し、≪龍殺し≫――つまりは≪龍種≫に対するオリジナルの特攻武具の作製を決意、それを以て≪滅龍闘争≫を戦い抜く計画を立てる。
無論、この計画は思いっきり不正行為であり、ゲーム内の仕様に無いチート武具を作るのだ、「ノア」に見つかってしまえば対処が行われるだろうが……最悪ストーリーイベントが始まった後ならバレても問題はない。
少なくともかつての記録から推察するに、「ノア」はストーリーイベントの遂行を最優先事項としているため、イベントを中止してでも不正行為の処罰は行わない。
同時並列で新生プロトコルの実行は行うだろうがイベントは問題なく進む。
そこが狙い目だ。
チートを使用した武具での勝利でも、重要なのはプレイヤーに≪龍種≫が全て倒されることが重要で――イベントの達成を「ノア」は認識するはずだ。
その後の反応については予測が割れてはいるものの、「楽園」において発生していた「ノア」のコンフリクト状態は解消されるはず。
アンダーマンらが目指しているのはその結末だ。
だが、このプランにおいてもっともネックになるのが≪龍殺し≫を使う狩人の存在である。
如何に強力な武具を作っても使い手が弱ければ意味はない。
特に≪龍殺し≫に関しては必要となる素材が素材だ。
まだ倒していない≪龍種≫の素材についてはまだいい。
だが、計算上精製できるアンプルの量は今回の時期に間に合うか間に合わないかのギリギリのタイミング。
予備までは用意は不可能というのがアンダーマンの出した結論だった。
それ故に≪龍殺し≫を振るうに足りる完全な狩人――主人公の如き、龍を討つ英雄に足り得る存在を用意する必要性をアンダーマンらは考えたのだ。
だからこその英雄計画。
ゲーム内で既に何度も戦い勝利した経験を持った少年少女プレイヤーの記憶と人格データを転写。
彼らを自然と狩人への道に誘導し、狩猟を通して成長させることで来るべき日に向けて英雄候補を用意する。
つまりはそういった計画だったのだ。
「何というか多分に運の要素が大きすぎる計画だな……」
壮大な計画ではあるし、俺の貧相な発想力では思いも付かない計画ではある。
だが、結局のところこの計画は用意した英雄候補、その八人の行動次第に左右される。
選別とやらはしたのだろうが、流石に膨大な人格と記憶データから最適な個体を見つけ出すほどには時間も労力も足りない。
故に音声ファイルでの言っていた条件は三つだったのだ。
「随分と切羽詰まっていた様子だな……」
三つのうちの二つはあくまで技術的な最低条件。
英雄候補への条件付けといえばゲーム内での人格、記憶データの更新が十代から二十代前半の若者で止まっている人物であること、これだけだ。
あくまでも残っていたデータから転写を行う以上、その記憶と人格も一番最後のデータが参照されるわけで、だからこそアンダーマンはそんな条件を付けたのだろう。
「まあ、精神は若い方がいいですからね」
そうルキが溢し、俺もそれに同意した。
最初に聞いた時はどういう理由の条件なのかわからなかったが、考えて見れば当たり前である。
当然ながら英雄候補の肉体が成長するのは時間がかかる。
アンダーマンらもストーリーイベントが始まる頃に合わせてタイミングは選んでいるはずだ。
肉体的な全盛期はやはり十代後半から二十代前半の頃合い……英雄候補もそれを見越して選定をしたはず。
だが、そうなると必然的は英雄候補のその年月分、時が来る頃には加齢を重ねているということだ。
肉体的なものではなく、この場合は精神の方の年齢。
俺が天月翔吾としての記憶を持つが故に自分の精神年齢を四十代近いと認識していたように、他の英雄候補である彼ら彼女らも同じはず……。
「そもそもある程度若い状態で放り込まなきゃ、環境の変化に前向きに適応しようという気力が生まれないでしょうし」
「まあ、確かに。狩人への道を誘導する……とは言っても、結局は本人の気力次第だ」
それは俺が身を以って知っている。
正直、この世界について知った時はモンスターがそこら辺に居る世界で、怯えながら生きるよりも死んだ方が早いんじゃないかと何度も考えた。
ゲームの中のように戦えるとも思わなかったからだ。
それでも生きて行こうと思えたのは……。
「それにしても狩人への道を誘導する……か。俺がロルツィングを継ぐことになったのも何か介入があったのか?」
「うーん、どうですかね? まあ、どうにも公爵家と陛下がグルであったことを考えれば……」
「影響力を考えればあり得ないことではない……か」
冷静に思い返してみれば、俺とアンネリーゼを送ったギルバートの判断は粗雑に過ぎた。
シュバルツシルトの益を考えるならもう少しやりようがあった風に思えるが、何かしらの圧力があったのかもしれない。
――まあ、今更か。そこら辺は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます