第百九十一話:天月翔吾
「えっ、今の……アルマン様……」
「ルキ、少し黙っていろ」
困惑したようなルキの声に返した言葉の口調が気付かぬ内に強くなった。
単に彼女からすれば一度だけ聞かれて答えた俺の前の名前が出てきたので、聞いてきただけなのだろうが……こちらとしても不意のことで余裕がなかったのだ。
〈まず初めに言っておこう。君たちを用意したのは我々だ。ある条件に適合していたが故に、我々の勝手で選ばさせて貰った〉
〈条件は三つだ。一つ、『Hunters Story Online』のプレイヤーであったこと。一つ、ゲームプレイ時間が一定以上であること、そして十代から二十代前半の年齢で何らかの理由でゲームを辞めていること。一つ、エルフィアン作製の際に集められたDNAマップ提供者の一員であること〉
「どういうことだ……?」
俺は思わず困惑の声を上げた『Hunters Story』のプレイヤーが重要であったのは……まだわかるとしても残り二つが意味がわからない。
特に三つのエルフィアン作製云々については特に。
〈エルフィアンについて……一部の君たちにとっては未来のことだ、知らないこともあるだろう。だから説明するとしよう〉
〈彼あるいは彼女らエルフィアンはこの「楽園」を彩る
〈エルフィアンの製造計画が立ち上がった際、当時に大規模なDNAマップの提供キャンペーンが行われることになった。何せこの「楽園」は広大だ……エルフィアンも相応に膨大な数が必要になる〉
〈単純にクローン技術で量産することも可能ではあったがそれでは同じ顔ばかりということになる。確かに効率的で最も簡単ではあったが……〉
「まあ、やらないだろうな」
俺は思わず呟いた。
――この「楽園」を作った奴らは拘りが深いというか無駄に完璧主義というか……。
ゼロから創り上げるという手間をかけているのだ。
そこを妥協で我慢するとも思えない。
そうなると、だ。
〈かといって一人一人をデザインするのも手間がかかる。なのでエルフィアンの製造には、人間のDNAマップを基礎として創られたわけだ。その数はおよそ数千人のほど……キャンペーンによって民間からの提供されたDNAマップの中から更に選別された個体のDNAによって製造されたのが
〈つまりは三番目に言った条件とはそういうことだ。エルフィアンの中のDNAの中には君たちのDNA情報が記録されている。これが重要だった〉
「えっと、そうなんですかアルマン様?」
「……俺は知らんぞ」
そもそも俺が生きていた時には「楽園」の計画なんて無かったのだ。
つまりは死後にそのデータがキャンペーンとやらに参加して提供されたということになる。
こちらの困惑を他所に話は進んでいく。
〈君たちの疑問についてはわかっているつもりだ。恐らく何故自分たちは記憶を持ったままに生まれたのか……と。あるいは場合によっては旧時代においてあった思想、輪廻転生の一種を疑うかもしれないが――実態はそうではない〉
〈一つの目の条件、『Hunters Story Online』のプレイヤーであったこと。……これが関係している。君たちは知っているかどうかは知らないが、フルダイブ式のVRゲームである『Hunters Story Online』はプレイ中のプレイヤーの全ての電子情報化して保存している。行動や言動、その時何を考えていたか、脳内の物質の反応、電気信号から解析しダイレクトに集積している〉
〈あくまでもゲーム会社としてはゲームのクオリティを上げるための目的でプレイヤー情報を集めていただけであったらしいがな〉
「アルマン様……? 何か顔色が……」
ルキの言葉も耳を素通りする。
俺は確かに思い出していた。
ゲームの質の向上のために、プレイヤー情報を随時集めさせて頂きます。
流し読みしたゲームの規約にそんな一文が書いてあった気がする。
〈エーデルシュタインの役割はそれだった。≪深海の遺跡≫にある記録庫から条件に合ったデータを引き出すこと。そして、選別し入手した人格と記憶のデータをシステムのネットワークを使って胎児へと転写すること。それが最も重要な役割だった〉
〈エルフィアンというのは基本的にシステムのネットワーク内に組み込まれている。それを利用した形だ。とはいえ、基本的に
〈条件を絞ったからそもそも候補数自体が少なかったがね。少しでも失敗のリスクを避けるために三つ目の条件をかけた。二つ目の条件は人格と記憶データがバイタリティのある若い状態が好ましいと判断したからだ〉
「アルマン様……ちょっ、アルマン様?」
こちらを見るルキの声が少し慌てている。
恐らくは酷い顔色をしているのだろうな、と俺は他人事のように考えた。
〈ここまで言えば諸君らにも納得して貰えたかと思うが……。キミたちはキミたちであってキミたちではない。その人格と記憶のデータを転写された――この時代に生まれた人間だ〉
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