第百八十六話:森の中の黒き石
ゼドラム大森林北部表層アルサ地区。
そこに辿り着くまでの道のりは当初の予定通りにスムーズに進んだ。
大きなトラブルもなく、想定していた程度にはモンスターの襲撃はあったが……。
「まあ、私たちの力を以てすればこんなところですね!」
「メインで戦っていたのは俺なんだけどな」
「だってアルマン様が敵意を引きつつ、スキルの火力で暴れて私が横合いから殴りつけるのが一番効率的ですし」
「それはわかるし、俺も納得しているけどルキがデカい顔をするのが……イラッとする」
「酷くないですか!?」
ルキが抗議の声を上げるが……まあ、実際彼女の言っていることが正しい。
俺が今回着てきた防具は≪エンリル≫に行った時と同じ溶獄龍の防具である≪煉獄血河≫だ。
上位防具の防御力にダメージカットスキルに回復スキル、それに火力スキルとバランスがよくスキル構成が纏まったこの防具は割と万能タイプだ。
特化型のスキル構成ではないがどんな≪
特にスキルも含めた防御力の高さと希少な回復スキルの組み合わせは≪煉獄血河≫のみの特徴。
下位モンスターではプレイヤーを倒すには、システム的にプレイヤー側から攻撃に当たりに行くぐらい必要があるほどだ。
故に俺がヘイトタンクをやりつつ攻撃で削り、ルキが不意打ちで狩るというのは非常に有効な手段だった。
慣れてしまえばあとはパターンで処理で出来るくらいには。
「下位モンスターだと≪状態異常≫や≪属性攻撃≫も碌に行わないからなぁ……」
良くも悪くもゲーム的には初級者が戦うモンスターたちと言うのもあって、攻撃パターンは素直で攻撃自体も嫌らしいものは少ない。
こちらが上位装備というのもあって、ハッキリ言ってカモであった。
道中、何匹かの大型モンスターと接触するもそのどれもが苦労をすることはなかった。
――懸念だったフェイルも問題は無さそうだな。こちらの邪魔にならないように位置取りをして逃げてどっかに行くということもなかった。本格的に考えてもいいかもな……。
「いい運動にはなりましたね。ただ、放置していくのは勿体ない気が……」
「今回の目的とはズレるから諦めることだな。それにしても噂には聞いていたが、この辺りは本当に他の狩人の気配が無いな」
「まあ、基本みんな炭鉱の方に行きますし、それに≪バビルア鉱山≫が≪ジグ・ラウド≫のせいでえらいことになってからそれほど経ってませんから……」
「報告にもあったな」
「楽園」の件で色々とあり過ぎて随分と昔のように思えるが、溶獄龍≪ジグ・ラウド≫を討ってから一年も経っていない。
致命的な被害は避けられたとはいえ、≪バビルア鉱山≫の地下から地表までをぶち抜かれて鉱区の一部が吹き飛んだりとかなりの被害を受けており、≪ニフル≫はそこから立ち直るために大忙しらしい。
狩人の多くもそっちに割かれていてもおかしくはない。
となると適当にその後の処理までを含めて譲って、格安で売りつけるという手段も出来ない。
「まっ、だから諦めて放置するしかないというわけだな」
「希少部位だけ採っていきません?」
「却下。ほら、いくぞ」
「うーん、勿体ない。まー、しょうがないですね。でも、研究費の足し……」
歩き出した俺の後を追いつつもルキは未練がありそうだ。
まあ、解体費や手数料などで実際はかなり差し引かれるとはいえ大型モンスター丸ごととなれば下位モンスターでもそれなりの大金だ。
それも複数体となれば勿体ないという気持ちもわかる。
俺もこれが普段の≪
「優先順位の問題だ。さて、アルサ地区には無事についたとはいえ――」
「問題はここから……ですね。アルサ地区も広大ですし」
「ああ、確かに」
あくまでも仮説の上の推論として探しに来ているだけで、居場所を特定できる手がかりがあるわけではない。
ある程度範囲を絞っているとはいえ、人の手が入っていない森の中を当てもなく探し回る……というのは普通に考えて無謀な試みだ。
「一応、手がないわけではないが……」
俺はチラリッと飛んでいる蝶に気を取られているフェイルを見ながら言った。
「まっ、何事も地道に。足で探すのが一番ってことだな」
「宝探し! 探検って感じですねー」
◆
三十分経過。
「見つからないな」
「そうですねー。あっ、≪
一時間経過。
「見つからない」
「あーっ、≪ハッスルダケ≫だ! 加工すると活力を与える薬に……生だと精力を――採っておこう」
二時間経過。
「……うーむ」
「おっ、≪七色紫陽花≫。使い所が限られるけど薬品の配合には便利。流通量が少ないからか購入しようとするとお高くて……よし、自分で使う用に――」
三時間経過。
「…………」
「いひゃい、いひゃい~~っ! ひゃんひょひゃがひまひゅから~~!」
「何でかんでも拾うのやめなさい」
「だっひぇ、ふぇいりゅぎゃもっひぇくりゅきゃりゃ……」
「滅茶苦茶、迷惑そうな顔をしていると思うが?」
ルキのほっぺたを抓りが歩くことしばしば。
俺たちは大した手がかりも得られず、そろそろ日が沈む頃合いになって来たので野営地をどこにするか……それを相談しようとした矢先にことだった。
「ん?」
「んん?」
歩いていると不意に今まで大人しく後をついて来ていたフェイルが立ち止まったことに気付いた。
俺とルキは顔を見合わせ改めて歩き出そうとするも、何故かフェイルは嫌そうにぐるぐるとその場を回り進もうとしない。
「これは……」
「当たりかもしれませんね。アルマン様」
ルキはそういいながらポシェットから縄を取り出した。
それにはフェイルの首輪に繋がる様に機具が付けられていた。
しばらくして。
「くぅううううん、きゅぅん……」
俺たちはフェイルの反応を頼りに森を彷徨った。
当然、フェイルは嫌がるもそこはリードで繋げた縄で引きづるようにして。
そして、見えてきた場所にあったのは――
「あれは……」
「間違いありません。あれはうちにあったのと同じ……」
木々に囲まれた場所ひっそりと佇む、黒い墓石のような物体だった。
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