第百八十四話:二人と一匹
天候は晴れ。
絶好の出発日和だ。
俺は振り返って今回の旅の仲間へ向かって言った。
「点呼! 番号ー、いーち!」
急遽発した言葉だが、元気に答える声が一つ。
「はい! にー!」
毛先の方が黒い白髪と言う奇妙な特徴を持った髪が、ぴょんと手を挙げ跳躍したルキの元気をあらわすかのように揺れる。
そして、続いて答えるのは第三にして最後の参加者。
「オンっ!!」
灰色の毛並みをした≪ノルド≫。
フェイルが元気よく吠えた。
俺にルキ、フェイル……以上、点呼終わり!
まさかの三人チーム、というよりも二人+一匹である。
物がものである以上、知らない人間を入れるのも難しく。
また、研究所を首尾よく見つけたとしても、施設内を調べられる人間が居なくては意味がない。
そのため最低人数の俺とルキのペアでのパーティーを結成。
そこにある理由で連れて行くことにしたフェイルを加えることで、とても異色なパーティーとなってしまったのだ。
「私、まさかモンスターと一緒に≪
まあ、異色のパーティーの意味合いの大半はフェイルの存在だ。
ある程度受け入れられ、エヴァンジェルのペットとしての認識が広まっているとはいえ、モンスターはモンスターだ。
≪
「まあ、な。でもコイツ思った以上に優秀でな」
「というと?」
「≪ローマック≫はわかるな?」
「知ってますよー、馬車を引いているやつでしょ?」
≪ローマック≫はルキの言った通り、馬のような小型モンスターだ。
草食でとても温厚、長い四本の脚を持ち、持久力も高いために主に荷車を引かせたり、馬車を引かせたりと
基本的に大人しく性格なため、人を襲うことも滅多にない。
そのため、飼育や調教も難しくないという特徴を持つ反面、彼らはどうしようもなく臆病であるという特徴も持っていた。
具体的に言うと大型モンスターなどにあってしまうと、怯えて命令を無視して勝手に逃げ出したり、パニックを起こしてしまうという特徴だ。
場合によっては肉食の小型モンスター相手でも引き起こしたりする。
この特徴が彼らがあくまで荷を運ぶ
「狩人として活動するなら絶対何度か思っただろう? アイテムなり何なり、運んでくれるやつが居たら助かるのになーって」
「あー、ありますあります。特に鉱山に籠って思いの外に良質な功績が手に入った時とか、泣く泣く選別して持ち帰るのを選んだりしなくちゃいけなくて……ああ、だからこの子なんですか?」
「理由はそれだけじゃないんだが……まあ、試験的導入ってやつだ」
既に何度もエヴァンジェルを介して対面したことのあるルキは手を、伸ばして彼の頭を撫でた。
フェイルは大人しくお座りのポーズのまま受け入れている。
その様子は完全に前世見た
場合によっては相手が大型モンスターでも牙を立てる獰猛さも併せ持っているのだから騙されてはいけない。
「フェイルは強靭な足腰を持ち、そして大型モンスターにも怯まない強さもある。上手く運用できるなら狩人の友になれる日も来るかもしれない」
森で色々とエヴァンジェルが試した結論だ。
小型モンスターと区別されてはいるが、普通にかつての世界の大型犬と呼ばれる品種より一回りも二回りも≪ノルド≫は大きい。
更にモンスター全般に言えることだが運動能力を通常の動物よりもモンスターとして強化されている。
試したところ、百キログラム近い重量を背負わせても苦も無くフェイルは進むことが出来た。
無論、流石に足は遅くなるが狩人の街から狩場の往復をサポートできるのならこれほど画期的なものではない。
「楽園」での狩人生活で一番何がきついって、ゲームのようにアイテムボックスがないため持ち物に重量制限がかかることだ。
パーティー単位ならある程度分散も出来るが……やはりそれにも限度がある。
「単純に採取した素材アイテムの持ち返り量が増えたり、貴重でもしもの時のための回復アイテムを持たせて守らせたり、≪弓≫とか≪ボウガン≫使いからすると矢を持たせてグッと継戦能力を向上させることも出来る。……おおっ! 凄い、偉いじゃないかフェイルー!」
「まあ、そこら辺の確認も兼ねて同行させることにした。ある程度周知されてきたとはいえ、まだ一般的な狩人に任せるには時期尚早ではあるし……」
「だからこそアルマン様ということですね? うーむ、なるほど。だから背嚢とか背負っていたり……あっ、アルマン様! これって
「ああ、エヴァが楽しそうにこの前用意してな」
フェイルを撫でまわしていたルキが目敏くそれに気付き目を輝かせた。
「つまり、こうやって」
「あっ、待っ――」
当然と言わんばかりに乗ろうとするルキに咄嗟に声をかけるも遅く、
「わひゃ!?」
ぺいっ、と身を捩じらせたフェイルに振り落とされたルキは無様に地面に転がった。
「今のところエヴァしか乗せてないんだよ。残念だったな……くくっ」
「むぐぐ……っ!」
ウキウキとした調子で乗ろうとして反撃に合い、顔面から落ちたルキの様子が面白くてついつい笑ってしまいながら手を差し出した。
不満げな顔で手を取りながら起き上がった彼女だったが、ふと何か気づいたかのように漏らした。
「今のところはエヴァンジェル様しか乗せてない……もしかしてアルマン様も?」
「…………」
「あー、アルマン様も失敗したんだー? フェイルに振り落とされちゃったんですねー? やーい、やーい……って、あだだ!? ちょっ、頭を鷲掴みにするの禁止! 辺境伯領の至宝とも言える私の頭脳があだだだっ!?」
――こいつは本当に妙に勘が鋭いというか……何というか。
揶揄い交じりの笑みを浮かべたルキにイラッとし、俺は容赦なく握力で懲らしめて黙らせる。
……別に気してなんかは居ない。
普通に乗れたエヴァンジェルが羨ましいなんて思っていたりもしないのだ。
「……はあ、そろそろ行くとしようか」
「はーい! いやー、楽しみですねー! 宝探し!」
「わォん!!」
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