第百七十九話(1/2):夕食会
「助けて、助けて……」
「それでですね! スピネルさんやルドウィークさん、エヴァンジェル様やアルマン様の血、あとは他多数の善意の協力者から血液を貰い、それを比較して調べることでE・リンカーとやら自体の存在を確認、抽出することには成功したんですよ! いやー、あるものだとわかっているとやはり打つ手というもので――」
「あれは善意の協力じゃ……そして、謝らされる私……」
「それでそれで! 抽出したE・リンカーは素材アイテムによって感応することを確かめたんです! いえいえ、そこら辺は聞いてはいましたがそれはそれとして実証は必要ですし、私が直接確認することも大事です。それに何より、ルドウィークたちって主に概要のことは知ってても技術的な詳しいことについての説明がてんでダメでだからこうしてわざわざで――」
「車の使い方や仕組みを知ってても、ゼロからの作り方まで知ってるかどうかは別問題だろ」
「やはり、ナノマシンという技術は素晴らしい! 目に見えない繋がりがナノマシンを介して至る所へと繋がって、この世界は形作られているのです! 世界を一つ生み出した先人たちの技術に尊敬の念しか感じません! 私が指をかけたのは本当にごく僅かでしかないことがわかり、私はもう時間が惜しく惜しくて――」
「ルキちゃん?」
「はい」
「今は夕食の時間ですから……元気なのもほどほどに、ね?」
「はい」
研究の進捗状況でも聞こうと思い夕食に呼ぶも、完全に徹夜明けのテンションで捲し立て続けていたルキは、怒りのオーラを纏うアンネリーゼの一言によってようやく沈静化した。
◆
「また、やってしまいました……」
夕食後のデザートもちゃっかりとぺろりと平らげつつルキはそう呟いた。
「またってそんなに何度もやってたのか?」
確か俺とエヴァンジェルが向こうに行っていた間、アンネリーゼが面倒を見ていたはずだ。
完成したルキの研究所が近所ということもあり、それなりに親交を深めたのだろうが……。
「あはは、私って熱中すると周りが見えなくなるタイプでして」
「「知ってる」」
照れ笑いを浮かべたルキに対し、ゲッソリ顔をしたルドウィークと声が重なった。
――というかこの男、少し見ないうちにやつれてないか? まあ、≪エンリル≫から持ち返ってきた話を聞いてから、元から無かったブレーキが壊れたようなテンションと付き合っていたら仕方ないことだけど……。
なるほど、スピネルが嫌がるわけだ。
可哀想な気もするがルキは今後のことを考えるとキーパーソンなので……まあ、頑張ってくれとしか。
「アルマン様たちが向こうに行っていた間も、研究に夢中で籠っていたら何度か無理矢理に……「ご飯食べなさい!」って」
「ああ、うん」
ちょっと……というかだいぶ覚えがあった。
俺自身も若い時に色々と熱中し過ぎた時に同じようなことをやられた記憶がある。
――大変な世界の中心地に来てしまったと、あの時は余裕が無かったからなぁ……。
まあ、その時のアンネリーゼは怒るというよりも涙目でじっと見てくることが多く耐え切れなくなった俺が根を上げるのが何時ものことだったが。
「まあ、夢中になるのもほどほどにな?」
「はーい」
「いや、もっと注意をして欲しいのだが……」
ルドウィークがブツブツと言っていたが俺は聞こえていないふりをした。
「それで研究の方はどんな感じだ?」
「はい、一応、報告書としてまとめたんですけど」
「いや、まとめたのは私で――」
「では、報告を始めます」
ルドウィークの主張も虚しく無視され、ルキはウキウキと自身の研究成果を発表した。
一度怒られてクールダウンしたせいか、ちょくちょく暴走しかかりそうもなるも彼女は簡潔に要点を抑えた報告であった。
現状ではE・リンカーの抽出に成功したのでその解析を急いでいるらしい。
理由としては色々あるらしいが、
「アルマン様は来るべき≪龍種≫との戦い、何が重要となると思いますか?」
「火力」
ルキの問いに俺は端的に答えた。
火力、攻撃力、それらが足りないのだ。
そもそものゲーム設定的に所謂「いい勝負」が出来るように調整されているためか、余程極端なスキル振りをしない限りは上位以上のモンスター相手だと必然的に時間がかかってしまう。
そして、時間がかかるというのはそれだけミスの可能性が増えることにも繋がる。
「この「楽園」内がアルマン様の言う通りのゲームとやらの設定に準拠している以上、仕様通りの武具やスキルの使い方では攻撃力に上限があり、≪龍種≫と真っ当な手段で戦って倒そうとすると相応の時間がかかってしまう。だからこそ、アルマン様は≪ジグ・ラウド≫を討伐する際にはああいった手を使って短時間に処理する方法を取った。それも全ては攻撃力の低さが原因です」
ルキの言葉に頷いた。
最高の攻撃力を誇る武具種の≪竜槍砲≫ですら、単発でいいダメージを与えられるレベルであって一撃や二撃を急所にぶち込んだところで≪龍種≫が倒れることはない。
モンスターの最高峰なだけああってその
まともに削るとなると苦戦は余儀なくされるのは間違いはない。
「だからこそ、重要なのは火力。それをアップさせるためにはやはりスキルが一番。そして、そのスキル発動のシステムの根幹がE・リンカーにあるというなら解析をすることであるいは――」
「スキルを強化出来たり、あるいは追加が出来たり?」
「そこまではまだわかりませんけど、それぐらいはしないとダメだと思います」
「何というかゲームの根底を揺るがすような行為の話を……いや、いいが」
とりあえずルドウィークのことは無視して俺はルキの話を真剣に考える。
確かにそれが出来れば最高だ、勝ちの目が増える。
「どのぐらいの可能性で出来そうだ?」
「うーん、何とも……現状の解析能力だとこれ以上に詳しく調べるのは難しくて。いえ、色々と挑戦は行っているんですけど」
「というよりも、よくもまあE・リンカーの抽出なんて……」
「あの救護船n――「≪アトラーシス号≫」……アトラーシス号のお陰だ。あれにはもしもの時のためにメディカルチェックが行える機材が用意されていたからな。それを見つけたルキが勝手に使って改造して……と言う流れだ」
「なるほど」
というか、である。
「ルキのやつ、やっぱりおかしくないか? ただの天才とかそう言うレベルじゃない気がするんだけど」
自分の話に熱中し始めたルキを尻目にひそひそと俺はルドウィークに語り掛けた。
正直、ルキの詳しい技術理論の話の半分もわからない。
一応、これでも英才教育を受けて科学全盛時代の出身であるはずなのに、純粋なこの時代の生まれの人間であるルキにあっさり負けているというのはどうも……いや、確かに理工を専攻していたわけではないのだが……。
「……恐らくは何らかの改造の影響だろう」
「改造って」
「お前の時代ではまだ一般的ではなかっただろうが、その先の時代だとわりと普通に行われていた行為だ。そうでもしなければ遊興の為だけに身体に
「……なるほど」
よくよく考えれば目の前に居るルドウィークとて人型人造生命体という、俺の時代の倫理だと普通にアウトな存在だ。
そこら辺、俺の常識は通用しない存在だったんだろう。
「自己改造の中でも人気だったのは脳機能の強化だ。フルダイブ式のVRゲームをする際にも有利になるし、研究職の人間にも研究の効率が上がると人気でな、直接的に手術したり薬の服用だったりと色々とあったらしい。「楽園」に囚われたプレイヤーの中には知識人も多くいたという話だし、アンダーマンの一族の祖辺りはその辺りじゃないかと睨んでいる」
「まあ、一族単位で研究に費やそうなんて発想は中々ないからな」
「子孫に簡易的な脳改造の技術を何らかの手段で用いていた可能性はある。機能を強化し過ぎると異様にハイテンションになることも多いと聞くし」
「ああ、なるほど」
ルキの今までのやらかしを思い出し、俺は少し遠い目をして頷いた。
ひとまず、納得が出来る話ではあった。
「……単純にルキがただの天才で、あの性格がただの素である可能性も十分にあるが」
「それは何というか」
人工天才少女説か、ただの野生の天才少女説か。
まあ、どちらにしろ今目の前に居るルキが若干……いや、だいぶエキセントリックな少女であることには変わりはないのだが。
――それにしても改造……か。
少しだけその言葉が引っ掛かった。
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