第百七十四話(2/2):現実か仮想か
「ひ、ひゃぁ~~~っ!!!」
俺は思うのだ。
「楽園」のことを知って、どうしてギュスターヴ三世やルドウィークたちの口が重かったのか、それがとてもよくわかった。
当たり前だと思っていたこの世界。
大地から植物、鉱石、モンスター、唯一の国家である帝国という存在すら、一から人の手によって創られた存在。
そんなことを説明されてあっさりと納得できるだろうか?
口で説明するより実際に見た方が早い、そう判断するのも当然と言えば当然だ。
俺やエヴァンジェルだってあの≪深海の遺跡≫に入ったからこそ納得できた部分が大きい。
仮に口で説明されたとしても理解は出来ても納得は出来なかっただろう。
だというのに――
「E・リンカー!! なるほど、確かにそれならば納得が出来ます、私達の体内にあるナノマシンとやらと素材を感応させることによってスキルは発現する! ならば確かに素材だけをどれだけ詳しく研究してもスキルなんて発現させることは不可能! 理屈が通ります! 人の手によって創られた「楽園」! そしてそれを楽しむプレイヤー! 私の祖先はその系譜……ですが、恐らくは途中で知識の失伝が起こったのでしょう、それでも回帰する世界を打ち破るべく研究を進めていた! そして、そのために≪龍殺し≫の必要性に辿り着いた! ≪龍殺し≫とは即ち≪
「何だコイツ」
「何だコイツは」
「俺にもわからん」
五時間にも及ぶ質問攻めによって疲労困憊したスピネルとルドウィークが尋ねてくるが、俺は正直に答えるしかなかった。
――何なのコイツ。
なんか普通に受け入れていた。
いや、五時間も質問攻めにしていたが主に知的好奇心を満たすためのものが多く、特に疑いもせずに俺が語ったこの世界のことをルキは受け入れたのだ。
普通、今までの常識がひっくり返るようなことを言われればもっと嘘をついているのではと疑う者ではないのだろうか?
話しが早くて助かると言えば助かるのだが。
「えっ、だってその方が筋が通るのならそれは受け入れるでしょう? 今までの常識と比較してより道理に合っているものが現れたのなら、間違っているのは今までの常識の方でしょう?」
あっけらかんと言い放った目の前の少女の思考がわからない。
理屈の上では正しいのだろうが……。
――まっ、まあ、頼もしいのも確か……か。
それは間違いないと俺は自分に言い聞かせた。
「とにかく、まあ。状況は理解してくれたとは思う」
「ええ、勿論! 結局のところ、≪龍殺し≫を創り上げる――私のやるべきことは変わりませんが、より正しく現状を把握出来ましたとも! 失敗すれば世界は巻き戻し、無かったことになる! そして、時間の猶予もあまりない! ……燃えますね!」
「意気軒昂でよろしい」
世界の真実を知ってなお、ルキ・アンダーマンはルキ・アンダーマンでしかなかった。
「で、私に何を求めますか? アルマン様」
「俺たちが乗り越えるためには足らないものが多すぎる。だからこそ、お前の力が……そして、知恵も居る」
それを成せるのはルキしか居ない。
ゴースでは……≪鍛冶屋のゴース≫としての役割を与えられた男には出来ない事がある。
「
「……あまり不正行為を使い過ぎるとそれに応じてより修正も強くなる。やり過ぎると手痛いしっぺ返しが来るぞ?」
「だとしても、今更だ。どのみち正攻法ではクリアできそうもない、ならそっちにベットするしかないだろう」
スピネルの言葉に俺は答えた。
確かにこっちが手段を選ばなくなれば向こうも手段を選ばなくなるだろう、その程度のことは予想が付く。
だが、今のままではイベントクエストをクリアできるかは難しい……いや、不可能だと言ってもいい。
災疫龍との戦いはギャンブルだった。
溶獄龍との戦いは策を弄して罠に嵌めた。
どれもまともには戦っていない。
それほどまでに≪龍種≫は強く、強大な力を持っているからだ。
それが残り四匹、襲撃してくるのは確定……となると。
――ゲームの設定の括りの中で戦えばどうしたって力の差は変わらない。狩人とモンスターの関係はそういうものだ。
最高位の防具に身を固めても、相手が最高位のモンスターならば一つのミスがそのまま敗北に直結するという調整。
それはある意味で『Hunters Story』というゲームの良いところでもあったのだが、
残機もない、現実でやるにはハッキリ言ってクソゲーだ。
――ノーミスノーコンテニューであと四回、正攻法で≪龍種≫と戦って勝利する……無理だな。
戦える自信が無いわけではない。
だが、ミスも起こさずにやりきれるかと言われれば、是と答えられるほど自信家でも俺は無いのだ。
だからこそ、
「力を貸して貰うからな、ルキ」
「勿論ですとも! 私の力……我が一族の叡智をもって道を切り開きましょうとも! それでは何から始めますか!」
「そうだな、とりあえずお土産が二つほどある。大きいのと小さいのがあるけど……まあ、楽しみにしておけ」
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