第百七十四話(1/2):現実か仮想か


「何ですかー、!!」


 俺の目の前でシェイラが「うがー」とばかりに荒ぶっている。


「うがー!」


 いや、実際に口に出している。

 それぐらいの怒りということなのだろう。


「シェイラ……キレてるな」


「まあ、だろうとは思っていたけど」


 豊富に怒られた経験があるが、その中でも最上級に怒り具合だなとーどこか他人事のようにエヴァンジェルと話す。

 シェイラの怒りの内容は勿論……。



「なんでコイツらと一緒に帰ってくるんですか!? 帝国特級の犯罪者ですよ!?」



 シェイラがビシリっと指さした先にはスピネルとルドウィークの姿が……当然と言えば当然の抗議であった。


「な、流れで……?」


「どういう流れですか!?」


「いや、本当に色々あって……」


 まなじりをつり上げて、怒りの表情を浮かべるシェイラに俺は小さくなるばかり。

 床の地面が冷たさが染みる。

 せめてカーペットのある場所で正座をさせてくれないだろうか。


「ダメです! そのままです!」


「はい」


 ダメらしい。

 仁王立ちをするシェイラの前で、俺は大人しく正座の姿勢を維持する。

 ちなみにエヴァンジェルは普通にソファーの上だ。

 ちょっと理不尽な気もしないでもないが、下手な口答えは油を注ぐだけなので耐えるしかない。


「≪龍狩り≫……それでいいのか」


「威厳というか何というか」


 その光景を見て、スピネルとルドウィークが何かを言っているが俺は答えてやる。



「ふっ、いいか。シェイラが仕事をボイコットした場合、≪グレイシア≫の機能は停止すると言っても過言じゃない。……頭が上がらないんだ」


「「情けない……」」


「そこ! うるさい! 黙っていなさい!」



 二人が何とも言えない眼で見ているが平身低頭してシェイラ神の機嫌を取れるならそれに越したものはない。

 恥ではないのだ。


「いや、その……ね。何ていうか色々あって捕まえたから」


「死罪でいいじゃないですか。後腐れないですし?」


 シェイラの彼らへ向ける眼は冷え冷えであった。

 まあ、普通にテロ活動していたやつらを都市へ入れるなど言語道断と言ってもいい行為だ。

 実際、彼女の言う通りなのだから。


「その……なんだ……保護観察……的な? 感じのアレで俺が面倒を見ることになったというか……ほら、陛下からの命令もある」


 俺はそう言ってギュスターヴ三世からの勅命書を懐から取り出してシェイラに渡した。

 要約すると、罪人である二人の身柄を俺が預かり、帝国の利益のために働かさせるようにと書かれている。


「まあ、そういうことだから……」


「じゃあ、≪ニフル≫に送って炭鉱労働を死ぬまでやらせておきましょう」


「いや、監督義務もあるから手元において置かないと」


 だが、シェイラは勅命書を見ても頑なだった。

 この帝国において皇帝の勅命以上に優先するものは無いのだ、反抗する意味は存在しない。


 普段の彼女ならばそれぐらいわかっているはずなのだが……。




「彼らは犯罪者です! 帝国に対して何度となく事件を起こし! も――」


 キッと二人を睨めつけるように視線を飛ばしてシェイラは続けた。



! そんな連中と共にいるなんて……っ!」



 激昂する彼女の様子を見て、俺はポリポリと頬を掻いた。


「アリー……キミが悪い」


「……そうだな」


 エヴァンジェルの言葉に同意した。

 俺の身を案じて怒っているシェイラに対して、勅命書を見せて押し通そうとしたのは流石に不誠実な行為だった。


「シェイラ」


「なんですか……ふんだ。勝手にすればいいじゃないですか」


「すまない」


「…………」


「心配してくれてありがとう。色々あったし別に俺だってエヴァや母さんごと襲われたことに思うところが無いわけじゃない。だが、それを脇においてものことについて二人の力が必要となると判断した」


のことって何ですか?」


だ。≪グレイシア≫の、俺の領地を襲うことになる。それに対処するために彼らの存在は必要だと――俺は


 俺はシェイラの目を見てハッキリと告げた。

 彼女もまっすぐに見返してくる。


「…………」


「…………」


 体感としては二、三分ほど見つめ合っただろうか。

 根負けをしたようにシェイラは視線を逸らした。


「わかりましたよ。領主様の判断を信じます。それにしても危機……ですか。詳しくは話して頂けるんですか?」


「大まかには、な。多分言ったら色々一杯になって潰れると思うぞ?」


「はーい、じゃー、聞きたくありませーん。領主様の方で何とかしてくださーい」


「ああ、任せろ」


「……その分の協力は惜しみませんけど」


 はぁっとシェイラはため息をついて肩を落とした。


「何時も面倒事ばかりすまないな」


「私の面倒なんて領主様ほどじゃないですよー、だ。とりあえず、関係各所の方にはこっちで伝えておきます。変に拗れると問題ですからね。問題なく過ごせるように努力はします。――ただ、言っておきます!」


 シェイラはスピネルとルドウィークの二人に向き直り宣言した。




「領主様がそう判断した以上、こちらとしても不当な扱いを受けないようには手を回しましょう。ただし、領主様を裏切ったり、≪グレイシア≫に被害を与えたりした場合はわかっていますね?」


「……善処しよう」


「その場合は城壁に吊るして啄まれて全部なくなるまで、飛行モンスターを誘き寄せる餌にして有効活用してあげます」


「……ぜ、善処しよう」




 シェイラのとんでもない発言にルドウィークの声が震えた。

 そんなことなどどうでもいいと言わんばかりに彼女は俺に向き直ると尋ねた。


「それでこれからどうしますか?」


「とりあえず、色々と相談したいこともあるしルキの奴を呼びたいんだが……アイツ何か起こさなかったか?」


「安心してください。工房の爆破はギリギリ両手の数で足りる程度です!」


「出頭させろ」

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