第百七十三話(2/2):一息
――人をパクリ魔のように……客観的に見て否定はできないけども。
「というか今更言ってもアレだが、これは十分に不正……世界観を壊す行為に抵触しかねない所業だぞ。始めにこれが流通していると知った時、私達がどれだけ肝を冷やしたか、お前たちにはわかるまい」
「流石にこれだけで「新生プロトコル」が発動するということはないだろうがな」
「そうなのか……。いや、そうなるのか」
恐らく本当の意味で『Hunters Story』……エヴァンジェルに語った方の内容をそのまま本にして流通させていたらアウト判定だったのかもしれない。
あくまで題名が同じ名だけの内容は俺の伝記に近いものだから大丈夫だっただけで。
――なんというか全く知らないところで危ない橋を渡っていたのか……。
知らなかった事実を知り、若干冷や汗をかきつつも俺は切り替えて帝都の観光を楽しむことにした。
フィオが案内してくれる店はどれも一流であり、≪グレイシア≫とは違う格式の高いものが多かった。
中でも印象に深く残ったのは食事処として誘われたレストランだろうか。
美食、その多彩多様さはやはり帝都の方が分があるなと認めざるを得ない。
――「くっ、美味い……連中はこんなものを」
――「飽食など……飽食など堕落の要因だ」
特にスピネルとルドウィークの反応は劇的だった。
口では文句を言いつつも、結構な勢いで食べていた。
――「もしかして普段は良いものを食べていないのだろうか?」
――「まあ、こいつら組織犯罪者だし……わりと貧乏?」
そんな会話をエヴァンジェルとしつつ、食事が終わると改めて最新の歌劇の鑑賞、美術展を巡ったりと何とも帝都を堪能できた一日となった。
一日となった。
「これって失敗したらこれ全部なくなるからなって無言で圧かけて来てないか? 陛下……」
「いや、純粋な思いやりとかそういう感じのだと思いたい」
「あの老王は結構性格が悪いからな」
「うむ」
そんな感じの会話が四人の中であったりなかったりしたが、それはともかくとして……。
「今日は楽しい一日でした」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
何だかんだと≪エンリル≫での出来事はストレスとなっていたらしい、色々と衝撃的過ぎる展開の連続だったの仕方ないとは思う。
それをリフレッシュできたのは良かった。
恐らくは戻ればまた忙しくなるだろうし。
そんなことを思いながら俺はフィオと握手をした。
第一皇子と握手をする立場になるというのは少し前まで思ってもみなかったな……などと思う。
「船の手配は済みましたので明日にはお別れですね。ロルツィング辺境伯は東の要。これからもよろしくお願いします。ああ、それとこれは父上からです」
そう言ってフィオが両手を叩き用意させたのは大きめの箱だった。
頑丈な金属で出来た直方体で帝国の紋様が刻み込まれている。
「中身は私も知らされておりませんが「上手く使うように」と後は……失礼。辺境伯にのみ言伝があるのですが」
「……わかりました」
俺は箱をエヴァンジェルに預けると促されるままにフィオと少し場を離れて耳を貸した。
「私自身、よく意味はわかりません。ですが、そのまま伝えさせて頂きます」
「頼みます」
「「辺境伯よ、―――」
◆
「アリーどうしたんだい? 難しい顔をして」
「いや、何でもない。ただ、色々と考えることがあってね」
「陛下からの言伝? どんな内容だったんだい?」
どうにも顔に出ていたらしい。
宿屋に戻り、明日の出立のための準備の最中にエヴァンジェルにそう尋ねられた。
「……あー、うーん。いや、もうちょっと待ってほしい」
「えー、ケチ」
ちょっとだけ拗ねたように言うエヴァンジェルだが、本気ではないのはわかっている。
俺は苦笑して彼女の頭を撫でた。
――相談するべきか……。いや、よく意味を考えてからの方がいいか。最後の最後に謎を投げつけてくる。
何というか本当に抜け目のない御人であると感心する。
「あっ、フィオ皇子から頂いた箱はどうする? 上手く使え、だなんて……」
「ん? ああ、そういえばそうだな。どういう意味なんだ……」
「あれ? 言伝って箱と関係しているんじゃないの?」
「いや、たぶん関係は無いとは思う。じゃあ、何なのかと言われると察しも付かないが……まあ、確認をするか」
箱には頑丈な錠前が付いてる。
だが、その鍵については既に貰っているので問題ない。
紅い宝石が付けられた銀色の鍵によって錠前はあっさりと外された。
「まるで宝箱を開けている気分だね」
「宝箱って……まあ、確かに」
箱自体は大きくとても重厚で厳重に中身を保管している。
そうなると中身に期待をしてしまうという気持ちは……確かにわかる。
エヴァンジェルの言葉に苦笑しつつも、俺はその箱を開けて――
「なるほど……」
その目に飛び込んできた光景に思わず唸った。
「エヴァが正しかったか」
六つの色とりどりの宝玉の輝きを見ながら、俺はそう零した。
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