第五章:滅龍闘争編
第一幕:閉じた世界から進むために
第百七十一話:帝都にて
「おい」
「なんだ」
ガラガラとした音を立てて進む馬車の中、少女の不満げな声が声が響いた。
「色々と複雑な関係ではあったが一応は私たちは協力関係となった……という認識であったが、それは間違いか?」
「いや、間違いじゃないな。認識を共有出来ていて嬉しいな」
「だったらこれはなんだ!」
銀色の髪をした少女、スピネルは俺に対して苛立たしさを隠しもせずに両手首に嵌められたモノを突き付けた。
それは綺麗なエメラルド色をした簡素な装飾の腕輪だった。
「似合ってるぞ」
俺の隣に座っていた少し笑い声を抑えながらエヴァンジェルがそう言った。
――確かに似合ってはいる。
今のスピネルは前に見た時の白い教徒が着る服ではない。
エヴァンジェルが予備に持って来ていた私服を少々手直ししたものだ。
エルフィアンとしての素地の良さもあって非常に似合っており、エメラルド色の腕輪もいいアクセントとなっている。
とはいえ、だ。
「そういう話じゃないだろ! というか装飾品じゃないし! 重いんだよ!」
「まあ、拘束用のためだからな。対外的に……というか普通に犯罪者だから、ほら色々と近くに置いておくのもな」
スピネルの言う通り、この腕輪はそもそも装飾品ではない。
比重の重い特殊鉱石で出来た拘束用具だ。
とはいえ、普通の人間……正確に言えばE・リンカーで強化された人間ならば少し不自由に感じる程度だが、純正であるエルフィアンである彼女には思った以上にきついらしい。
「ルドウィーク……」
恨めしそうにスピネルはルドウィークを睨みつけた。
彼もまたあの白い教徒としての服ではなく、普通の格好をしているがその腕には腕輪は無い。
「なんでお前だけ……」
「私とて足首に嵌めている。そんな眼で見られても困る」
「足はいいだろう足は。手は上げるのもいちいち疲れるんだぞ。私も足がいいのだが……?」
「ルドウィークはともかく、スピネルの方は指名手配で顔写真を出しちゃったからな。わかりやすく拘束している感じを出さないといけないからな。まあ、諦めて」
「だから、仮面は外すなと普段から言っていたんだ。自業自得だ」
「ぐっ……クソ」
ルドウィークに言われて言い返すことが出来なかったのか、スピネルは吐き捨てると同時に不貞腐れるように座席に転がった。
必要性自体はわかっているらしい。
「まあ、行くところが行くところだ。大人しくしておいてくれ」
≪深海の遺跡≫より脱出に成功した俺たちは、一緒に帝都へと向かっていた。
目的は勿論――
◆
≪黒曜の間≫にて。
「よくぞ、戻って来たな。ロルツィング辺境伯」
俺たちはギュスターヴ三世との拝謁の栄誉に賜った。
「真実は知ったかね?」
「はい、これ以上ないほどに」
この場に居るのは俺とギュスターヴ三世。
そして、
「ベルベット嬢は如何か? ≪龍の乙女≫の意味を?」
「はい、陛下」
「よろしい。それは鍵である。開けた先に何があるか、得られるかまでは保証は出来ぬがな。それでも可能性という扉を開けられる鍵であることは間違いない」
エヴァンジェル。
更にもう二人。
「その得られる可能性が良いものとは限らないだろう。それどころかその鍵があるだけで露見すれば滅びを招く危険性を常にはらむというのに――それを隠していたのか? 老王よ」
「隠すなどとそんな大それたことを……それでは「ノア」への反逆になってしまうではないか。ちょっと聞いたが報告を忘れていただけよ。いくら人造生命体とはいえ、機械ではないのだ。まあ、そういうこともあるわなぁ?」
「減らず口を……若造が」
スピネルとルドウィークもこの場に居た。
対外的には俺が両者を捕まえてギュスターヴ三世の前に引き立てて、陛下直々の尋問が行われる……という形になっている。
「それ重くない?」
「うるさい!」
一応、事情を知らないであろう城の人間には留意するように訴えられていたがギュスターヴ三世は「ロルツィング辺境伯が居るのだから問題はない」の一点張りで追い出し、そして五人での会談という形式へとなったのだ。
俺としては詳しく事情を話すほどの暇も無く帝都へと帰って来たので、この状況を作るにはそれなりに面倒になりそうだと覚悟をしていたのだが……スムーズに話が進んでしまったことから察するにギュスターヴ三世の掌の上だったようだ。
陛下は重さに耐えかねてだらんと両腕を下げた状態のスピネルを揶揄っていた。
「くそっ、歴代の中でも相当に性格が悪いなギュスターヴ」
「ふむ、時の皇帝を直に何度も見たであろうお主に言われるのは……光栄であるというべきかな?」
「嫌味ったらしいぞ、若造」
「嫌味じゃからのう、年増」
「~~~~~っ?!」
それはもう全力で煽っていた。
プルプルと震えつつも手枷の重さで両腕をダランと下げてながら立っているスピネルに対し、ギュスターヴ三世はいい笑顔をしながら全力で煽っていた。
「そうだろうなとは思っていましたけど、仲が悪いので?」
「まっ、方向性の違いというやつじゃのう?
しみじみとギュスターヴ三世は語った。
「まっ、エルフィアンといえども別段それほど人と離れておるわけではないのだ。生態的な部分においても人間とはほぼ差が無い。事実として多くのプレイヤーたちと結ばれたエルフィアンたちの子孫が、この「楽園」内に散らばっていることがそれを証明している」
「エルフィアンは人間ではない」
「そうじゃな、そういうことになっておる。とはいえ、自己の改造など当たり前であった旧時代において、人類と人造生命体との間にどれほど差があったというのか……まあ、それはいいわい。ともかく重要なのは人造的に創られたエルフィアンとえども、それほど機械的な存在というわけではないことだ」
「それは……わかります」
俺はスピネル、ルドウィーク、そしてギュスターヴ三世を順番に眺めつつ答えた。
――エルフィアン……人型人造生命体ねぇ?
正直、そう言われてもピンとこない。
何というか容姿がやや創られたように整っていること以外は、ハッキリ言って人間と区別はつかない。
――単に生まれ段階で弄っただけの人間のクローンを人型人造生命体という別のものと言い張ってるだけなんじゃ……。
俺の時代においても技術的には人間のクローンを生み出すことは可能だったが、それは道徳や倫理の観点から禁止されていたはずなのだが……。
「つまるところ、我々にも意思があり、そして個々に考えがあるということよ」
「なるほど……では、陛下に問います」
「申すがいい」
俺が今回この場を設けたのは色々と理由はあるが、この問いかけこそが一番の要点とも言える。
「貴方は誰の味方ですか? そこら辺をハッキリさせておきたい。私の味方ですか?」
「うむ、ではハッキリと言おう。儂はロルツィング辺境伯の味方……というわけではない」
キッパリと言い切ったギュスターヴ三世。
だが、動揺は特にはなかった。
何故ならば続きがあるとわかっていたからだ。
「だが、「ノア」の味方……というわけでもない。儂は常にこの「楽園」の味方よ、そういう役割であるしな」
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