第百六十九話(2/2):世界の真実


「そんな……馬鹿な」


「ここで多くのプレイヤー、そしてエルフィアンが死んだ。だが、あくまでもノアにとっては運営を脅かす者の排除が重要だったのか首謀者の仲間たち以外はある程度逃げ伸びることは成功したらしいがな……だが、後のことを考えればあえて逃がしただけなのかもしれない」


「どういうことだ?」


 立ちふさがる敵を斬り伏せて強引に突破。

 後ろから追おうとしてきたプレゼントにルキから貰ったビー玉のような赤い結晶を放り投げ、そしてそれに爆炎を放った。

 高熱を浴びせられた≪紅烈石ダナディウム≫の結晶は爆発、まとめて吹き飛ばした。




「再起動したノアは何を思ったのか


「それはもしかしてテロリストのせいでイベントが中止になっていたから、再起動して改めてってこと……か?」


 そんなバカなと思う一方で、そう言えばノアに命令を出来る権限を持った人間は居ないことに気付いた。

 中止のための命令が出されていないのなら、運営管理システムの総合統括AIはそれを実行しようとするだろう。


 スピネルへ向かって襲い掛かってきた敵を一刀に斬り伏せながら俺は思い直した。


「……助かった。それで、だ。それが一番の問題なんだ。ノアが一度「新生プロトコル」を発動した後は良かった。相も変わらずモンスターは殺しにはかかってくるが、生き残ったプレイヤーや「楽園」のエルフィアンは協力して帝国という国の中で生きることにした。ノアは不正認定さえされなければプレイヤーの味方だ。ノアはその権限の及ぼす限り、直接干渉するのが難しいが故、上位エルフィアンであるエルフィアンの皇帝を介して、ただの設定だったはずの帝国を本当の意味での国として機能させた」


「国のトップがエルフィアンというをよくもプレイヤーが許したな」


「皇帝の存在は設定に組み込まれているからな、排除して新たな皇帝に……なんてのは不正の範疇に入り兼ねないからな」


「確かに過度にわざと設定を変えようとするのもダメだと言っていたな」


「不満はあっただろうがな、それでも彼らはこうなっては仕方ないからと救助を待ち生活に馴染んでいったのだが……おかしさに気付いたのはしばらく経ってのことだった」


 一度切ったスピネルの言葉待つように、俺は刃を一振りし前方の敵を燃やし尽くした。



「時の皇帝は東の砂漠の向こうへ赴く開拓団の募集を行った。人類の生存圏を伸ばすために東に新たな帝国の地を築くのだ――とな」


「おい、それって」


「そうだ、ロルツィング辺境伯が生まれ、物語の中心地である≪グレイシア≫が築かれることになった……その経緯、創作の歴史。それをなぞるようにノアがやらせたのだ」


「「新生プロトコル」でロルツィング辺境伯領が抹消してしまったから、一から歴史を作ってまた築いてからイベント始める……ということか? 馬鹿な、壊れているだろう!?」


「命令をやめさせられる存在が居ないからこそ、一種のコンフリクトが発生していると推測している。ともかく、ノアはイベントを始めるための下準備をありとあらゆる干渉を行って実行した。二十年の歳月をかけて開拓団役が後の≪グレイシア≫に拠点造り、ロルツィング辺境伯が誕生し、そして百年ほどをかけて原作開始の時期の設定に追いついた。ちゃんとネームドキャラクターの≪鍛冶屋のゴース≫、そして≪ギルドマスターのガノンド≫という名と記憶を持った特殊なエルフィアンも用意してね」


「…………」


「……彼らは何も知らないさ。エルフィアンであることすら知らないはずだ」


 俺の雰囲気を察したのかその声は何処か慰めているかのようであった。




「そして、だ。十年に一度のドルマ祭が始まり、それを以てノアはイベントを発生させる。勿論、やって来るのは最初の龍。災疫龍≪ドグラ・マゴラ≫だ」


「それで……どうなった?」


「負けたよ、当時の≪グレイシア≫に居た狩人たちは災疫龍≪ドグラ・マゴラ≫を討つことは出来なかった」


「馬鹿な……プレイヤーが数人いればその程度――」


「≪龍狩り≫。プレイヤーは居ないのだ。彼らは既に百年以上前の人間で、戦ったのはその子孫だ。出来る限り、子孫には知識等は伝えてはいたのだろうが……ただの伝聞の知識だけで勝てるほど、甘い相手ではなかった。そうだろう?」


「…………」


「当時の≪グレイシア≫は蹂躙され、都市機能も崩壊するほどの壊滅的な打撃を受けた。だが、問題はここからだった」


 ここからも更に何かあるのかと俺は驚愕した。

 だが、確かにこの歴史からは今の歴史には繋がらない。


 ――いや、待てよ? 「新生プロトコル」、禁書令、それに≪神龍教≫がやってきた技術や知識の消去……。



「気付いたか? イベントは失敗した。プレイヤー側の敗北という結果に≪グレイシア≫は崩壊した。それは本来、想定に入れていない結末で、この結果をノアは「楽園」の運営における重大なバグの発生と認定。「新生プロトコル」が実行された」



「そして全てが消されてまた一から……と。禁書令とかもそのためか?」


「君たちは百年以上前の歴史を知らないだろう?」


「お前たちがあれだけスキルや技術に関して目を光らせていたのは?」


「「不正行為審判機構」がどこまでを認定するかはノアの裁量による。流石に「新生プロトコル」は乱発はこそしないが、それでも≪エンリルの悲劇≫程度の処罰はあり得る。どこまでも『Hunters Story』の世界に殉じていた方が安全なのだ。だからこそ、プレイヤーの存在も「楽園」の秘密を継承することを許さず、可能な限り排除した」




? この世界は」


「そうだ、この「楽園」は物語の終わりストーリークリアを求め、破壊と再生を繰り返している閉じた空想の世界に成り果てている」


「……なるほど、それが真実か」


 俺は周囲で動く最後の一匹を斬り捨てると徐に息を吐いた。

 思った以上の重圧があった。



「俺が失敗したら、全て無かったことになるか」


「――そうだ。まあ、≪龍狩り≫の場合はそれ以前に色々とやらかしているが……」



「一応、聞いておく。何度繰り返した?」


「七度の失敗の果て、それが今だ」





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