第百六十九話(1/2):世界の真実



「「新生プロトコル」……?」


 聞き慣れぬ言葉に俺は走りにながらも思わず聞き返した。


「「楽園」の運営管理システムに組み込まれているプロトコルの一つだ。一応、聞くが「楽園」の事実については?」


「大まかなことに関してはルドウィークからは……」


「そうか、それなら知っている前提で話しを進める。「楽園」の実態を知っているならわかると思うがこの世界は極めて人工的に創られている。その維持には緻密で膨大な処理がかかる。何せ生態系そのものを管理維持しているのだからな。当然、予期せぬ問題の発生やナノマシン等のマシントラブルも予期される。細かい物なら逐一対応すればいいが、小さな問題も積み重なってしまえば容易に解決できない重大な問題へと発展する場合もある。その場合、一番簡単な対処の仕方はわかるか?」


 スピネルの問いに一瞬だけ考えた。

 彼女の言った例をコンピューターで例えるなら……。

 飛び掛かってくる敵を切り裂きながら、俺は答えた。


「再起動。言い換えればやり直しか?」


「正解だ。複雑に絡まり合い、対処が難しくなった問題はいっその事やり直した方が速い場合が多い。「新生プロトコル」とはそういうものだ」


 曰く、流石の古代……俺にとっては未来の世界でも大陸に等しい島を創り上げ、生態系を一からデザインするというのはかなりの難行であり、予想不可能な問題を発生させる可能性があった。

 そのために組み込まれていたのが「新生プロトコル」。



 重大な問題として認定された部分一帯を消去し、改めて一から創り直すプロトコル。



「本来であればそれほど問題があるプロトコルでも無かったが……暴走したノアの現状とコレは嚙み合いがよすぎた。そのせいでこんな世界になってしまった」


「……どういうことだ?」


「この世界の真実を知ったのなら、貴様は疑問を持っているはずだ。何故、この世界は『Hunters Story』という世界の設定をなぞっているのか……と。もっと言えば≪グレイシア≫の≪鍛冶屋のゴース≫、そして≪ギルドマスターのガノンド≫というネームドキャラクターの存在は何なのか、とな」


「それは……」


 今まで考えないようにしていた部分だ。

 あくまで過去にゲームの世界を模倣して創られた世界……というだけならば、今の世の中もそして彼らの存在はおかしいのだ。

 曲がり角から出てきて道を塞ぐように現れた敵を爆炎で焼き飛ばしながら聞いた。



「お前が考えている通り、これはノアによる仕業だ。ノアはこの「楽園」において『Hunters Story』のストーリーを再現するための装置と成り果てている」



「……意味が解らないんだが?」


 俺は困ったように眉を顰め、両側から同時に襲い掛かってきた敵を斬り捨てる。

 先に右から来た敵へと敢えて近づき斬り捨て、すぐさまに切り返してから一閃。

 血飛沫が舞い、スピネルの顔にも飛んだのか抗議の眼を向けられるがそれは流石に許して欲しい。


「だろうな。だが、事実だ。そもそもの始まりは「エイプリルフール事件」だ。その日の前にあるイベントが行われる予定となっていた」


「イベント?」


「ああ、当時はまだ本格的な稼働に向けたあくまでも先行予約に受かったプレイヤーのみが楽しめる期間でな」


「所謂テストプレイというやつか」


 死体となった敵を他の生きた敵の妨害のために蹴り飛ばしながら俺は答えた。


「そうだ、実際にプレイヤーを大量に受け入れた状態でも問題なく運営管理できるかの試験運用の時期でそれも終わりに差し掛かった頃だった。そこでテストプレイヤーへの感謝の意味を込めて、一般参加者が入る前にイベントを行う予定だったらしい。それが――」



「『Hunters Story』のストーリーを体験するイベント?」



「その通り。実際は電子空間内とは違って「楽園」では個々人でストーリーを追体験なんて出来るわけもなく、あくまでも雰囲気を楽しむためのものだった」


「まあ、予約してまで来るようなゲーマーはストーリーなんてクリアしているだろうからな。それでも楽しそうではあるけど」


「そうだろうな、ストーリーと言っても≪グレイシア≫を中心に、災疫龍≪ドグラ・マゴラ≫の襲来を皮切りに≪龍種≫が次々と現れ、それを討伐する≪依頼クエスト≫が発生するという単純なもの」


 スピネルの言葉に俺は懐かしい記憶を思い出す。

 ゲームのメインはモンスターとしての狩猟バトルな為、ストーリークエストというのは言ってしまえば単純というかシンプルだ。

 一応、≪龍種≫の情報を知るために≪森の民≫から情報を聞くというイベントもあった気がするが、そもそもプレイヤー全員が≪龍種≫については知っているので意味は特にない。


 本当に雰囲気を楽しむためのイベントだったのだろう。

 だが、それでもコアなユーザーとしてはそれをリアルで体験できるのは楽しみだったことは想像に難くない。


 俺は倒れ伏した敵に止めに刃を突き刺しながらそんな思いを馳せた。


「だが、そこに「エイプリルフール事件」が起き、「楽園」はそれどころではなくなった」


「…………」


「そして、大きな犠牲を出しつつもテロリストを排除し、脱出のためにノアへの強制的なアクセスを実行したプレイヤーらは再起動したノアによって運営における重大な不正実行者だと認定された」


「「不正行為審判機構」……」


「そうノアには不正行為を行った者を処罰する権限がある。だが、プレイヤーたちは強く、そして数も多い。排除はとても困難であり、問題解決もまた同様だと判断したノアは一つのプロトコルを実行した」


「――まさか」


 俺は今まで繋がりそうで繋がらなかった何かが繋がり始めたことに気付いた。



「そうだ。ノアは「新生プロトコル」を実行し、当時のプレイヤーたちが拠点にしていた≪グレイシア≫を消滅させることにした。全ての≪龍種≫、そしてモンスターを誘導し、当時の



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