第百六十五話:エルフィアン
エルフィアン。
元はファンタジーなどの話に出てくるエルフを語源とした言葉らしい。
「楽園」を管理運営する側が創り出した、プレイヤーが享楽を楽しむためのサポートをする手伝いをする存在で、ギルドや宿場、商人、鍛冶屋などの直接的にプレイヤーと関わってサポートをするエルフィアンや、主に世界観を演出するための賑やかしに近いものまでその役割は多岐に渡っていた。
全てはプレイヤーと運営の活動を円滑に行うため、そのために奉仕的な長時間の稼働にも耐えきれるよう、あとはコストの面も考えエルフィアンは非常に長寿にデザインされた。
更に言えばどうせ創るならと多様性を持ちつつ容姿も端麗に創られている。
若く、美しく、そして長寿。
その性質からエルフを連想し、そこから派生して彼ら彼女らを表す言葉として人型人造生命体「エルフィアン」は誕生した。
「ここに居るのは恐らくは当時の第一世代のエルフィアンだろうな。回収されていたのか……」
「モンスターだけでなく人まで創るとは……」
「空想の中に存在する生き物すら創り上げるのだ。それを考えればヒト種を創り上げることなど大して難しくもなかったのだろう、古代人――我らが創造主らにとってはな」
「いや、技術的な話ではないんだが……」
「それにエルフィアンは人間ではない。人型人造生命体という限りなく人間に近いが違うモノとして定義づけられている」
「…………」
何というか、言葉が出ない。
一つの大陸を一から創り上げる存在なのだ、物事の捉え方自体がそもそも根本的に異なっているのだろうと僕は無理矢理に納得することにした。
理解や共感をするにはあまりにもかけ離れた考え方だと感じたからだ。
「それで……そのエルフィアンとやらの血が僕にも流れている、だって?」
「それに関してはいささか語弊があったな。エルフィアンの血を引いていること自体はさほど珍しいことではない」
「そう……なのか?」
「ああ、先程も言ったが「楽園」にはプレイヤーとエルフィアンだけが残されたからな。その子孫である人間の大半に大なり小なり血は流れていてもおかしくはない」
「それはそうか……いや、でも、それはおかしくないか? エルフィアンとやらは要するに≪森の民≫の特徴を持っているのだろう? 若く、美しく、長命で……だが、そんな特徴を持った人間、僕が会ったのはアンネリーゼ様ぐらいだが……」
「エルフィアンは子供を産むことは出来るが、その性質は基本的に遺伝し辛い。プレイヤーとの間だと、特にな。血が薄まれば薄まるほどにほぼ意味を無くす。アンネリーゼ・ヴォルツが例外的と言ってもいい」
ルドウィークは淡々と僕の問いに答えながらもその脚を止めることはない。
水槽が並ぶ通路を進んでいく。
「ふむ、では僕に対しては何故あえてエルフィアンの血が云々と言ったんだ? 血が流れていること自体は不思議ではないんだろう?」
「わかっていることを尋ねるのは良くないな」
「……公爵家の血。いや、この場合は皇帝に連なる者の血という意味か?」
「ああ、そもそもおかしいとは思わなかったか? 本当に創り物の世界ならば皇族や貴族という存在は一体何なのか、と」
「……事件とやらが起こったのは遥か昔、ならプレイヤーとやらの一部が「楽園」内でその座に就いたのでは、と考えてはいたんだが」
「半分は当たりだ。だが、半分は間違いだ。そもそも皇帝と皇族、帝国の存在は設定の中に存在していた。故に「楽園」の運営開始の際には既にあるものとして用意する必要があった」
「皇族が人間ではなく、エルフィアン……。それなら当然エーデルシュタイン公爵家も……いや、当然か。この≪深海の遺跡≫がある領地を治めることを任せられていることを考えれば……」
だからこその裏切り者か。
僕はルドウィークらの言葉に納得した。
「そういうことだ。そして、皇族のエルフィアンは他のエルフィアンとは違う。ある特徴を持たされてデザインされた特別なエルフィアンだ」
「特徴?」
「権限だ。他のエルフィアンとは違い、上位の存在として特別な権限を有した上位エルフィアンだ」
エルフィアンはプレイヤーと「楽園」の運営サポートのために存在し、あらゆる活動を行う。
そのため、膨大な数のエルフィアンが「楽園」内には必要なのだがその行動を逐一ノアが把握するのはロスが多い。
だからこそ、エルフィアンの中にも纏め上げる立場の上位個体を用意しる必要があった。
「それが皇族……」
「というよりも皇帝という立場のエルフィンだな。創造主らからすれば誰に持たせても良かったのだろうがな。皇帝が持っていた方が「らしいから」という理由だとか」
「それで……その特別な権限とは?」
「アクセス権限だ。ノアへの」
「問題の原因とかいう存在への?」
「ああ。ただ、まあ、あるのはアクセスをする権限であって干渉できるわけではない。運営管理システムの総合統括AIのノアとエルフィアンにの間には明確な上下関係が存在するからな。とはいえ、それでも他のエルフィアンが有していない特別な権限であることも確かだ。そのお陰でこの施設の中に入ることも出来た。私の権限では許可はされなかっただろうからな」
「なるほど……それが僕を一緒に連れてきた理由か」
「それもあるがな、重要なのは力の方だ」
「力、ね」
カツンとルドウィークは脚を止めた。
彼の目の前には一際大きな水槽があり、その中では見たこともない銀色の液体で満たされていた。
しかも、よく見れば時折発光し、そして渦を描くように流動していることも見て取れた。
「何だこれは……」
「ある意味で……この「楽園」にとって最も重要な秘密、その正体だ」
ルドウィークはそっと水槽の表面に手を伸ばし僕に尋ねてきた。
「スキルとはなんだ? スキルの力とはどこから来る?」
「それは……素材になったアイテムから?」
「残念だが不正解だ。≪素材アイテム≫という存在は必要ではあってもそれだけでは意味を為さない」
「スキルの基は――貴様たちの内側に存在しているのだ」
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