第三幕:Strong World
第百六十一話:救出作戦始動
「どういうつもりだ」
「契約の話だ。私たちは協力体制を築いた。こちらは情報提供、そっちは
「ああ、だからこうしてここまで来ているだろう?」
「だが、話の根幹は≪
「……そうだな」
ルドウィークの言葉を俺は肯定した。
それは事実だ。
でなければ一度は命を狙われた犯罪者相手にある程度とは言え自由を保障したりはしない。
「つまるところ、今回の話は≪
「「…………」」
俺とエヴァンジェルはルドウィークの言葉に何となく視線を絡ませた。
そして、同時に口を開いた。
「「……ソンナコトハナイヨ」」
「嘘をつくな」
奇妙なまでに揃ってしまった俺たちの言葉にルドウィークは突っ込んだ。
いや、思わないわけではなかったのだ。
ある程度事情も知れたし、本当に≪
そりゃ、契約を反故することになるため、それ以上の情報提供の目途は無くなるというデメリットはあるが色々知ってそうな陛下に改めて尋ねるという手段だってある。
エヴァンジェルの敵ではあるし、将来的には決着をつける必要性はあるが変に急ぐ理由も無くなるとなると……。
――一回様子を見て手筈を整えてからの方が確実……メリットは高く、リスクは一回殺しに来た犯罪者の身の安全くらいなら……。
まあ、許容範囲内というやつだ。
とはいえ、エヴァンジェルの感情的な問題もあるし、特に口には出していなかったがあの様子だと彼女も考えてはいたようだ。
憎しみはあるのだろうが、理智的で聡明さを無くさないのが俺の婚約者の長所と言える。
「ほんとだよ」
「信じて」
「やはり、その様子から察するに強引にでも話を進めたのは間違いではなかったようだな」
だが、そんな俺たちの考えはルドウィークには見抜かれて先手を取られてしまったようだ。
「無理やりにでも付き合って貰うぞ」
「くそ……っ、わかったよ。何をすればいい」
俺は諦めて彼に尋ねた。
言いたいことがなくも無いがこの状況だ、ここで言い争ったところで益は無い。
――少なくとも現状でルドウィークがこちらの助力を必要としているのは嘘ではない。罠に嵌める気ならもっと上手くやるだろうし……。
「スピネルは恐らく、第五区画に居るはずだ。私たちはそこまで行かなければならない」
「私たちって……」
「私と≪龍の乙女≫だ。彼女の力が必要となる。だが、正規手段で入ることは出来ない以上……どのみちこの状況になるのは想定の範囲内だった」
俺たちが話し合っている間にも警報音は鳴り響いたまま、そんな中で物々しい音を立てて近づいてきている存在を狩人としての鋭敏な感覚は捉えた。
「つまりは強行突破だ。≪龍狩り≫にはその間に陽動を頼みたい」
「陽動……ね」
「ああ、目的の場所に辿り着いたとしても時間稼ぎが必要となる。作業している間に踏み込まれても困る。特に≪
「ふむ、だから二手に分かれて行動するということか。だが、向こうは全員を侵入者として認定している以上、上手く釣れるかわからないぞ」
「例えば貴様が施設の管理者だとして、だ。重武装で暴れている侵入者とただ逃げているだけの侵入者……どちらを優先する?」
「なるほど」
「なに、施設内は丈夫に出来ている。好きに暴れて、存分に危険視されて欲しい」
俺はため息をついて≪宝刀【天草】≫を抜き放った。
「仕方ない、了承した」
ルドウィークの言葉に従うのはあまりいい気分ではないが、こちらとしても対案があるわけではないし、俺としても連れが居るよりも一人の方が色々と自由に動けるのも確かだ。
無数のガリガリと金属を擦る音が近づいて来ていることを、鳴り響く警報音の中から聞き分けながらエヴァンジェルに一瞬だけ目をやった。
――二手に分かれる必要性と有用性については理解した。唯一留意するべきことがあるとすれば……。
「問題ないよ、アリー。自分の身は自分で守れる! 幸い、こいつへなちょこだし」
「おい」
「僕より腕力も体力もなさそうだから襲われても大丈夫だ!」
「それは……そうなんだが」
「いざ、危なくなったらそいつを盾にして逃げていいからな?」
「わかった!」
「…………」
ルドウィークは何とも言えない顔でこちら見ている。
変な反発もなく、彼の思惑通りの流れになったというのに不思議な話だなぁ。
俺は一度だけエヴァンジェルに近づいて抱きしめる。
彼女も抱きしめ返してきて……そして、離れた。
「気をつけて」
「アリーもね」
「いくぞ」
そう言って通路の奥に向かっていく二人を見送って振り返る。
音はすぐ側にまで近づいていた。
「さて、やるかな」
こちらを見つめる無数の眼と向き合いながら、俺は改めて≪宝刀【天草】≫を構え直した。
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