第百五十九話:偽りの歴史
「まあ、ともかく話を戻すとして……ここが人工的に創られた世界、というのは何とか理解した」
「陛下が言っていた真実とやらはこれか。僕たちをここに向かわせたのは……」
「見た方が早いし、そんなことを口頭で言われても納得は出来なかっただろうから……かな?」
――この世界は創り物です。遊興のために大陸も植物もモンスターも一から創り上げました。なんて言われても受け入れるのは無理だっただろうし……。
ただ、そう言われると納得できる部分もあるにはあるのだ。
長年は微妙に感じていたゲーム世界とこの世界の差異、スキルの内容が変化していたり、アイテムボックスなどが無いのは流石に再現が出来なかったと考えれば納得がいく。
採取時の取得アイテムを増加スキルであった≪植生学≫などが、妙にそれらの系統に関して勘が鋭くなる……等の仕様になっているのがその例の一つだ。
逆を言えばそれら以外のスキルの発動は技術力で再現できたということなのだろうが……。
――……待てよ? となると≪赫炎輝煌≫とかも当然そうなわけだよな?
そこで俺はふと気づいた。
全てが人工物というのならスキルとて人工物ということになる。
今まではこの世界特有の法則か何かで素材から不思議なパワーが得られる――ぐらいの理解だったのだが、それでは一体どういう仕組みでこれらは発動しているというのか。
――バイオテクノロジー、遺伝子工学などを駆使して未知の鉱物、植物、生物を創り上げる……ここまではまだわかる。ただゲームの設定のようなオカルト染みたパワーまで再現できるものなのか?無論、俺の矮小な想像のスケールを超えて科学技術がそこに辿り着いた……という可能性もあるが。
思い出すのはルキとの会話だ。
――今までスキルを既存の防具や武具の形以外で発動する試みは失敗している。ルキがオリジナルに創り上げた物は加工による≪追加スキル≫の発生が出来ないし、同じ材料でデザインを変えて衣服のようにしつつスキルも使えるように……というのも成果は出ていない。
アンダーマン一族も素材に関する解析は時間を費やしたが、スキルに関する結論は得られなかったという結果しか残っていない。
スキル発動の仕組みは解明できなかったのだ。
――……スキルとはなんだ?
今まで気にしていなかった疑問が浮かんだ。
それだけではない、この時代が人工的に創られたものだとすると更に次々と疑問が湧き上がってくる。
――そもそも帝国ってなんだ? 皇帝ってなんだよ……元はテーマパークだろ? 貴族とか……なんでそんな存在が居るんだ?
人工的に創られたというのならそんなのが存在しているのはおかしい。
確かに帝国の存在や皇帝、貴族の存在は設定上はあったが……。
――というか、地名とか都市の名前とかそれが変わらず残っているというのはどうなんだ? 軽く流してしまったけどここは俺が生きていた頃の約八百年後……「楽園計画」とやらが始まって、テロリストの手によって破綻したのがどれくらい昔かはわからないが、百や二百年前とかそのレベルではないはず。最初はそうであったとしてもずっと変わらないなんてあり得るのか?
あり得ないだろう。
というよりも、だ。
――……俺の知っているロルツィング辺境伯領の歴史はそれほど古くはない。いや、そうだ……歴史、歴史だ!
俺はその疑問にようやく辿り着いた。
改めて考えれば最初に抱かなくてはならない疑問であったが、やはり情報量に頭がパンクしているようだ。
「疑問だ、疑問がある」
ルドウィークに問いかける。
「ほう、なんだ?」
「この世界が創り物から始まった……という事実を受け入れるのに重要な問題点がある」
「ふむ、それは」
「何故、今の時代がゲームの設定通りの世界になっている?」
「…………」
「俺は今まで多少の違和感を覚えつつも、疑問に思わなかった。ゲーム通りの設定の土地や都市、そして……歴史だってそうだ。ゲーム開始時の世界設定と同じ設定だった、城塞都市≪グレイシア≫は開拓団によって百年ほど前に建てられ……そこを中心にロルツィング辺境伯領は開拓された――そういう歴史だ」
だが、この世界が人工物であるならこの歴史はおかしいことになる。
「そうだ、僕の知っている歴史も……だが、だからこそおかしい。貴様の言っていた通り遊興の場として創り上げたというのなら、既に≪グレイシア≫は存在していたはずだ。それなのに何故そんな歴史になる?」
「ああ、ないはずだ。そんなことをする理由は……。最初、この世界が人工物であるというショッキングな真実を隠すためのカモフラージュのための、偽の歴史かとも思ったがそれもよくよく考えておかしな話だ。当時の時代の人間は当然この大陸が創り物であるということを知っていたはずなのに……」
そう、理由が無い。
この大陸は元はテーマパークとして創られた施設で、テロの標的となりシステムは暴走。
参加していたプレイヤーたちは救助が何時まで経っても来ないことに業を煮やし、決起することで戦いを挑み、多大な犠牲が出るもテロリストたちを排除した――
「そこまではいい」
「…………」
「だが、そこから何故こうなる?」
普通に考えてその後の選択肢と言えば、危険なテロリストは排除したのだし大人しく外界の救助を待つか……あるいは大陸からの脱出を考えるかの二つぐらいだろう。
特に後者に関しては試していないとも思えないが、ルドウィーク曰く外界からの干渉は全くなかったという言葉を踏まえると、失敗に終わったと考えるのが妥当だろう。
それはまあ……いいのだ。
問題は。
「海に浮かぶ孤島だと諦めてここに残ろうと考えたプレイヤーは相当数いたはずだ。……というか大半だったんじゃないか? どうしたって海の方が危険だからな。優れた狩人でも溺れれば死ぬ。それを考えれば……」
定住派の方が多かったとは思うのだ。
だが、そこで疑問が出来る。
「それが何故……こんな風に『Hunters Story Online』に寄った形になる? 皇帝を、皇族を作り、貴族があって、更には歴史の改竄までして……」
こうして真実を知ってしまうと、明らかにロルツィング辺境伯領の歴史が百年ほど前から始まっているというのはおかしい。
ファン心理というやつか、とも思ったがそれも変な話である。
「それにそもそもとして大量に居たプレイヤー、プレイヤーたちの子孫はどうなった? 何故彼らの存在が残されていない?」
「アンダーマン一族の手帳によれば彼らは世間から隠れるように生きていた……。そして、彼らは≪神龍教≫を敵視しているような言葉も残していたわけだ」
「それは……そうだろうな」
ルドウィークはエヴァンジェルの言葉を何とも言えない顔で肯定した。
その表情からは悔恨の念のようなものを俺は感じた気がした。
「わからないんだよ。孤島から奪取する手段もなく、残るしかなかったプレイヤーたち……だが、彼らの存在はまるで塗りつぶされるように消され、偽りの歴史が世に蔓延っている。それも不思議なほどに『Hunters Story』という作品に沿っている。一体、その後に何があった? テロリストを排除した後の彼らに……」
それこそが今直面している問題の本質であると勘が囁いていた。
「≪
「……そうだな、強いて言えば、彼らは失敗をしてしまったのだ。致命的な……な」
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