第百五十六話:楽園計画
全ての原因は科学技術の発展。
ブレイクスルーと言うべき急速な発展が各方面で同時に起きたことが原因だった。
仮想現実にダイブして遊ぶことが出来るゲーム機なんてのもその時に生まれた例の一つだ。
例えば遺伝子の組み換え研究の発展は、既存の植物の改良に留まらず、新種の植物を生み出したりしたし、医療技術は発展はかつて多くの難病を克服し、人の寿命を拡大した。
他にもたくさんの技術が同時期にお互いがお互いを高め合うようにして発展していったのだ。
人は豊かになった。
品種改良どころかゼロから生みだした植物は、その風土に適合して大量の食糧を生み出し飢餓は減った。
それどころか国が互いに奪い合っていた天然資源すらも生み出すことが出来るようになった。
医療技術の発展によって癌さえも飲み薬で治り、高性能なAIの開発、ドローン技術の発展に労働も格段に楽になった。
人は豊かになったのだ。
そして、豊かになれば人が求めるものと言えば――娯楽だ。
「そんな時期に登場したフルダイブ式の仮想現実世界を楽しめるゲームというのは……それこそ麻薬のように広まっていった。貴様も聞いたことがあるのではないか?」
淡々として口調で語るルドウィークに促され俺は思い出す。
色々とアルマン・ロルツィングとしての人生が濃すぎるせいで、だいぶ記憶としては薄くはなっているもののそのぐらいのことなら確かに覚えていた。
「ああ、記憶にある。俺は『Hunters Story Online』が最初で最後のゲームだったから他は詳しくは知らないけど、ニュースになっているのを聞いた覚えがある」
「その通りだ。人間の欲望というのは果てしない……というやつだな。これが一つや二つなら人によって合う合わないがあったのだろうが、公式には百を超える仮想世界が生み出され、裏でも違法に作られた仮想世界が日々生み出された。それらによる中毒者は増え続けていった」
「俄かには信じ難い……ピンと来てない、というのもあるんだろうけど。その時代はとても豊かで平和だったのだろう?」
「そうだね、少なくとも人なんて軽く餌にする大型モンスターがそこらを徘徊していたわけではないし、水も食べ物も豊富だった」
「それなのにどうして……偽物の世界に?」
「豊かだったからこそ、というべきか。良く悪くも余裕があったからこそ、偽物だからこそ理想的な仮想世界を求めたのだろう」
「そんな……」
エヴァンジェルは驚いていたが事実ではあった。
発展した科学技術は効率化のために労働の現場から人を追いやった。
それが最も効率的に運営できるからだ。
無論、全ての仕事が無くなったわけではないし、管理者という存在も必要ではあるのでゼロになることはない。
だが、それでも旧時代に比べて圧倒的に社会は人という存在に対する依存度を減らしていた。
定期的な休息が必要で、精神的な状態で効率にもむらが発生し、不慮の病気やケガ、ならびに人間関係の軋轢などの問題のリスクを常に抱える人間よりも、AIやドローンの方が安定的な成果が出せるのだから。
事実、社会システムのAIによる効率化をはかることで国は安定的な成長に成功し、その結果を還元し国民に対する安定的な生活の保障も可能とした。
要するにただ生きるなら働かなくても良くなったのだ。
無論、人の仕事が無くなったわけでもない。
専門的な研究職や管理運営に携わる上級職、プロスポーツや趣味も兼ねてクリエイティブな仕事をする者だってたくさんいた。
「だが、大多数ではなかった。思い直してみると労働というのは人間が生きる上で一つのモチベーションとして大事だったのだろう。熱中できる趣味を持てた者は幸いだ。専門的な勉学に励み、研究職や上級職を目指せる者もまた……だが、全てではない」
ただ生きるには不便なく、労働をする必要はない。
明日に不安はなく、だが何か夢中になれるものを持っているわけでも無い。
そう言った人たちが誰かが作り上げた理想の仮想世界、それに引き込まれてしまうのは……ある意味では必然だったのかもしれない。
「気付いた時には既に遅く、仮想世界へのフルダイブ形式のゲームは浸透しきってしまっていた。今更、禁止などしても反発が生まれ大規模な暴動に発展してしまうかもしれない。だが、仮想世界に依存してしまっている現状は何とかしないといけない。そこである計画が立案された。――現実世界に目を向けず、仮想世界に耽溺するというのなら。仮想世界を現実世界に持ってくればいい。そのモデルケースに選ばれたのが当時最もユーザーが多かった『Hunters Story Online』だ」
「仮想世界を現実世界に持ってくる? 言っている意味が……」
ルドウィークはエヴァンジェルの問いには答えずに俺に向けて話を振った。
「時に≪龍狩り≫。貴様はレトロの映画は好きか?」
「……は? 映画? 何を急に」
「アリー、「えいが」とは?」
「あー、わかりやすく言えば動画という媒体で見る劇……という感じかな? 役者が演じて物語を作るのは一緒だが……」
「なるほど、そういう使い方も……」
興味深げに考え込んむエヴァンジェルを尻目に俺はルドウィークに答えた。
「好きか嫌いかで言えばまあそこそこだな。娯楽関係は疎かったから最新のものは知らないが、古典映画は教養の一部として学んだことはある」
「では「恐竜王国」という作品は?」
「ん? ああ、それなら知ってるぞ。古典映画の代名詞の一つだからな。実際に幼い頃に見たこともある。結構好きだったなぁ。考えてみれば俺が『Hunters Story Online』を選んだ理由なのかも……」
「どんな作品なんだい?」
「そうだな、エヴァに説明するのはちょっと難しいんだが……恐竜という太古に滅亡したモンスターが居たんだ。あらすじとしてはそれを現代の人間が最新の技術を駆使して蘇らせて、島一つを使った遊興の施設を作ろうとするんだが途中でアクシデントが起こって――」
と、そこでエヴァンジェルに説明をしていた口が止まった。
ある可能性に気付いたからだ。
それはあまりにも馬鹿馬鹿しい可能性ではあったが。
「「恐竜王国」という作品の中で蘇った恐竜という存在は、既に太古に滅んでいた存在――つまりは空想とも言っていい。だが、作中の研究者によってクローンという形ではあるが現実に蘇ったわけだ。有りもしないはずのものを現実の世界に創り上げた……それが作中における「恐竜王国」」
「いや、まさかそんな……お前の言っていた、
「そのままの意味だ。当時の彼らは
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