第百五十二話:A
「『Hunters Story』だと? それは勿論、我のロルツィング辺境伯領特別広報委員会の――」
「言っておくが最近巷で出回っているパチモンのことではないぞ?」
「ぱ、パチモンだとぉ!? 完全オリジナルだァ!」
「タイトルをパクって自分のものにするとか恥はないのか恥は」
「ちが……っ、それは母さんとエヴァが勝手に……っ!!」
「アリー!?」
どこかシラーっとした視線に俺は全力で言い訳をしてしまう。
タイトルを平然とパクッて自分のものにしようとしていた疑惑は流石に堪えるものがある。
特に『Hunters Story』というゲームには人生の最後を救われたと言っても過言ではないのだ。
――でも、小さな時にうっかり言っちゃって……っ! それをエヴァがハッキリ覚えてるから! それで母さんと盛り上がって創作活動を始めちゃうから……っ!!
とても言い訳がましい。
止められなかった時点で同罪だとはわかっている。
――だって楽しそうだったから……。
そんなことを思いつつがくりとうなだれると、俺はパクリ野郎という称号を甘んじて受けようとした……。
「って、そうじゃなくて。質問に答えろ、≪龍狩り≫」
「えっ、なんだっけ?」
「お前にとっての『Hunters Story』とは何だ? という質問だ、ちなみに――本物の方だからな?」
意味深に付け加えたルドウィークに対して驚きはしない。
アンダーマンの先祖のように、どうにも俺以外にも『Hunters Story』のことを知っていたらしい存在の痕跡は掴んでいる。
そして、それと敵対していたらしい≪神龍教≫の人間なら知っていてもおかしくはない。
だから、俺も素直に答えることにした。
エヴァンジェルに伝えるには段階踏んでからの方がいいと思い、ルドウィークだけに聞こえるように言った。
「……ゲームだ」
「ほう?」
「『Hunters Story』とはゲーム……だった」
「どんな?」
「どんなって」
この質問に何の意味があるのだろうか?
『Hunters Story』をゲームという言葉で結ぶ……それだけで前世というか前の記憶がありますよ、という意思の疎通には十分だと思うのだが。
とはいえ、別に隠す必要もない常識といってもいい問いかけ。
俺は特に何か思うこともなく答えた。
「そりゃ……全世界で2500万本の売り上げを誇った、人気なフルダイブ形式のVRゲーム。圧倒的な迫力に多彩なモンスター、環境を作り込んだ仮想世界を楽しむゲーム。それが『Hunters Story』……いや、正確に言えば『Hunters Story Online』だ」
◆
科学技術の発展によって、仮想現実の世界で遊べるようになったのは俺――こと、
詳しいことは覚えていない。
そう言うのにそれまでは興味は持てず……だが、どうやらこのまま最後になりそうだと病院で思うようになってから、俺は『Hunters Story Online』を手に入れた。
それは正解だった。
残り少ない人生を俺は存分に一人の狩人として生きれたのだ。
当時のニュースでふと耳にしたことはあったが、フルダイブ形式のVRゲームのせいで、現実に興味が持てなくなってしまった人間が多いというものがあった。
初め聞いた時はそんな愚かな奴らも居るものだと思ったが……なるほど、実際に体験してみなければわからないものがある。
そんな風に考え方を改めたものだった。
俺は最後の時間を『Hunters Story Online』に費やした。
その世界で狩人としての自分のまま、生きて、生きて、生きて、死んで。
そして、気付いた時にはこの世界に生まれていたのだ。
「それがどうかしたか?」
「……意外だな」
「何がだ?」
「なに、そこまで覚えているのなら普通はもっと悩むべきところがあるんじゃないか?」
「ああ、そのことか」
つまりはこの世界が
仮想現実に入り込めるゲームをしていた記憶があるのだ、普通はそこで悩むべきではないかルドウィークは問うているのだ。
別に悩んだことがないわけじゃないし、≪災疫事変≫の頃まではそこら辺を結局引きずっていた自覚はある。
ただまあ、
「単に割り切っただけだ、そこら辺は……」
「割り切った、か」
「結論を出す意味がないと思ってな、どっちであろうともここが俺の――アルマン・ロルツィングが生きている世界だ。それは変わりようがない」
仮に仮想であったしてもアンネリーゼやエヴァンジェルに出会えたのは……それだけで価値はある。
「そうか」
「もしかして、だけど世界の秘密とやらは……実は仮想現実の世界でした、とかじゃないよな? いや、想定の一つとしては考えてはいたけど……」
「それなら安心しろ、ここは
「また意味深で曖昧なことを……はぐらかすつもりか? 説明する時は結論からさっさと話せ。シェイラはそうするぞ? 回りくどい言い方しかできないのか? 胡散臭いムーブばっかりしていると」
「貴様とて≪龍の乙女≫相手には話してないようじゃないか。重要なことだぞ、関わり合いという意味でな。貴様が居た世界のことは……」
「……いや、言おうとは思ってるけど……色々と難しいだろ。どう切り出すか、タイミング……とか」
「私も似たようなものだ。口で説明するのも難しい事柄だからな、どうにも遠回しな言い回しになってしまう。どうやら貴様は全てを知らないようだからな」
「……俺が何を知らないって?」
ルドウィークは俺の質問には答えなかった。
ただ、呟く。
「不思議ではあった、≪龍狩り≫……お前のような存在はもう居ないはずだった。それなのに現れ、それでありながらこの世界について無知であった」
「そこがおかしかった。だが、貴様の認識を確認して納得した。そこで止まっているのであれば、なるほど……転生などという言葉も出てくるのかもしれない」
「答えを教えてやる。先に進もう、目指すべき場所はエーデルシュタインの屋敷跡。その地下にあるであろう――」
「――入口だ」
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