第百三十三話:再びの帝都
爆発って気持ちいい……。
俺はそんなこの世の真理を垣間見ていた。
「アルマン様ー! もう一回♪ もう一回♪」
「仕方ないな……よし、見ていろよ!」
きゃーっというルキの歓声に背中を押され、俺は調子よく≪グレート・ソード≫を構えた。
――≪赫炎輝煌≫
スキルの発動の感覚と共に豪快に一閃を決めようとして、
「アルマン様、もうそろそろ……訓練場が持ちません」
シェイラの言葉に俺はようやく冷静になった。
気づけば一帯の地面は無数のクレーターが出来ていた。
「…………」
調子に乗って≪煉獄血河≫の≪赫炎輝煌≫を連発した結果である。
本当は数度の試し振りで終わらせるつもりだったのだが、ルキが声援を送ってくるので楽しくなってしまってついつい興じてしまった。
「……ふっ、まあ、スキルの試験運用はこれくらいでいいだろう」
「…………」
シレッとした顔で言ってみたがシェイラの視線がシラーッとしているのを感じる。
「……楽しんでいたでしょう?」
「はい。ごめんなさい」
「よろしい」
――だって爆炎を纏って攻撃できるんだぞ? そりゃ、楽しいじゃん……。
エフェクトも派手で爽快感もあるし、性能で見ても攻撃に追加ダメージを付与してくれるので非常に有用なスキルといえる。
ゲームだとパッシブスキルで全攻撃動作に勝手に発動する形だったが、使って見た感じオンとオフを切り替えられるアクティブスキルになっていたのも評価点が高い、立ち回りや戦いの押し引きに上手く使えそうだ。
≪剛鎧≫と≪地脈≫の防御系、生存系スキルに≪赫炎輝煌≫の火力スキル……≪煉獄血河≫は総合的に見て纏まった性能を誇るスキル構成と言える。
「えー、もうやめちゃうんですかー。もっと見たかったのにー」
「そういうな、また今度だな。それにしてもよく間に合わせてくれたな」
「へへー、まあ、ゴースさんに言われた通りに作っただけなんですけどね」
「それでも、だ。これで格好もつく……。≪災疫災禍≫の≪黒蛇克服≫は強力ではあるが、やはりデメリットがな……。≪ニフル≫での一件も考えると普段使いには向いていないとわかった」
≪災疫災禍≫の≪黒蛇克服≫のスキルは、特に難しい条件もなく全能力を向上させるというとんでも性能ではあるが、その反動としてスキル解除後はとても疲れて動けなくる……という欠点を抱えている。
今まではそこまで重視しては無かった弱点であったが、≪ニフル≫での一件で意識を変えざるを得なくなった。
ただ一戦を考えるだけなら≪黒蛇克服≫はとても有用なスキルだが、継戦能力という意味ではかなり問題を抱えているのは確かだ。
俺はそれで愛する者を危険に晒すという事態を引き起こしてしまった。
それは非常に問題といえる。
とはいえ、≪黒蛇克服≫のスキルを使わない≪災疫災禍≫は精々中堅どころの性能の防具でしかない。
だからこそ、俺は新しく、そして性能の良い防具を欲していたのだ。
そして、≪煉獄血河≫は見事にその条件に嵌っていた。
強力なスキル構成、素の能力ステータス、そして何よりも≪龍種≫産の≪龍狩り≫のアルマンが着るに相応しい格式……正直、格式については個人的にはどうかと思うが、偉い立場の人間というのは色々とあるものだ。
それをクリアした≪煉獄血河≫は俺にとって渡りに船であった。
「それに陛下に見せるに恥ずかしくない姿を見せれるしな」
「そう言えばもうすぐでしたっけ……、確か≪ジグ・ラウド≫の討伐の報告でしたっけ?」
「まあ、な。一連の事件について、臣下として報告しないわけにもいくまい。≪ニフル≫から送られてきた遺骸から≪溶獄龍の赫玉≫も手に入った。頃合いといってもいいだろう」
「いいなー、帝都……私も行ってみたいなー」
「そうですよね、ルキさん。私も一度は行ってみたいのですが……このクソ領主が……」
「お前以外に留守を守れるやつがいないんだ。頼む……」
「……全く、仕方ないですねぇ! 婚約者も手に入れたというのに、このシェイラが居ないと何もできないとは……まあ、私にかかれば留守を守るなど余裕なのですが! いやー、信頼されるってのも大変ですねー」
「うわっ……これが噂に聞く、チョロいという……」
「何か言いました?」
「いえ、何も」
シェイラのとルキが何やら言い合いを始めてが俺はスルーして思案に暮れていた。
――帝都……か。
彼女たちが言った帝都への来訪理由は嘘ではない。
現皇帝であるギュスターヴ三世は≪龍狩り≫であるアルマン・ロルツィングを大層気に入っており、それは周知の事実でもあった。
俺自身も災疫龍討伐の時はあれほどのパフォーマンスをして授賞式に訪れたのだから、溶獄龍討伐について何もなしだと……何というか格好が付かない。
そういう意味で事件についての報告。
そしてまたもや入手に成功した≪龍玉≫の献上というのは都合が良かったのだ。
二重の意味で。
――陛下は何かを知っている。恐らくは……そんな感じがする。
それほど明確な根拠があるわけではない。
だが、俺とエヴァンジェルの目的はそこにあった。
「この後はエヴァンジェル様と市井を巡っての買い物でしょう? 早めに用意することをシェイラはお勧めします」
「っ!? そうか、もうそんな時間か助かったぞシェイラ。それからルキ、しばらくこっちは空けることになると思うけど……あっちは進めておくんだぞ?」
「任せておいてください! 度肝を抜かせるものを完成させておきますよ!」
「シェイラ……目を離すなよ?」
「勿論です」
「信頼力が足りない!?」
ルキの姦しい悲鳴を聞き流しながら俺は思った。
――聞いてみるだけ、聞いてみるしかない……か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます