第百二十五話:崩れ落ちる巨山


 ルキに任せたのは、彼女に功績をやろうというのもあったが、偏に最も火薬の取り扱いを熟知し、そして≪龍槍砲≫の機構についても知見を手に入れたばかりで最適だと判断したからだ。


 俺が≪ジグ・ラウド≫との戦いの大まかな絵図を脳内に描いた時、問題としたのは上手く狩場に誘い込めたとしても迅速に仕留められるのかという点だ。

 相手に反撃する余地を与えれば、それだけこちらにも被害出来る。

 故に単に大型兵器を集めて攻撃するだけでなく、更にもう一手を欲したのだ。


 ――「……という感じのは出来るか?」


 ――「うーん、難しくはないですけど」


 そして作られたのが≪ジグ・ラウド≫の外殻すら撃ち抜く、硬い合金の特別製の槍の如き矢。

 だが、ルキに作らせた槍の真価はただ硬く貫ける……という点ではないのだ。


 ――「要するに≪龍槍砲≫のように、火薬の爆発を指向性を持った推進力に変えれるように外付けで何とかしろってことですよね。なら、底の部分に装置を……どうせ使い捨てだと考えれば……」


 その槍の如き矢の名は≪爆槍矢≫。

 見かけにはただの一本の槍のような金属の塊に見えるが、底部には≪紅烈石ダナディウム≫火薬が詰め込まれた推進装置が存在し、また≪爆槍矢≫の内部にも≪紅烈石ダナディウム≫火薬が芯のように詰め込まれている。

 相手に突き刺し、その後に推進装置を発火させて起動すればより奥へと食い込み、内部で爆発するという悪魔染みた兵器だ。


 ――「その推進装置とやらで十分に効果があると思って聞いたんだが……内部で爆発させるって」


 ――「な、なんで引くんですか?!」


 ――「発想が怖いなって。まあ、≪爆裂弾≫と考え方は一緒だけど……モンスター相手とはいえ生き物相手に平然と内部で爆発させればいいじゃんって考え方が怖い」


 ――「酷い!?」


 等というやり取りと共に用意された切り札こそが≪爆槍矢≫だった。

 思ってしまったことをつい正直にルキに言ってしまった程には、攻撃力……というより殺傷能力においてこれ以上のものは存在しえないだろうという凶悪な代物だ。


 ただ、弱点が無いわけでも無い。

 ルキが気にしていたように、この≪爆槍矢≫には肝心の起爆装置が存在しないのだ。

 遠隔式にしろ、時限式にしろ、その仕様から≪爆槍矢≫は相手に突き刺した後に起動させる必要があった。


 だが、それらの仕掛けは今回の≪爆槍矢≫には組み込まれていない。

 やるなら近づいて手動で起動させる必要があるという欠陥品と言える代物だった。

 時間的な制約がある以上、あまり凝ったものは作れないという現実をわかっていながらも何度もルキが確認してきたのはそのためだ。



 だが、まあ……俺はということを知っていたのだが。




「遠隔装置も時限装置もいらない。起爆に必要な点火は――≪ジグ・ラウド≫自身がやってくれるんだから……」


 に炎を纏い、膨大な熱量を発し≪獄炎状態モード≫へと移行する≪ジグ・ラウド≫。

 その獄炎は自らの身体に突き刺さったままの≪爆槍矢≫を起動させるに十分な熱量誇っていた。



 二十四本の≪爆槍矢≫が同時に起動し、爆発と共に≪ジグ・ラウド≫の身体のより奥深くへと突き進み、次いで同時に≪爆槍矢≫の本体部分、それ自体が体内で炸裂した。



                  ◆



「これは……凄まじい威力だな」


 ≪爆槍矢≫の起爆の結果は凄まじいことになった。


「予想外に効いたな……≪獄炎状態モード≫だったからというのもあるのか?」


 そもそも≪獄炎状態モード≫は≪ジグ・ラウド≫の有り余る熱エネルギーを臨界させて攻撃へと転化する超攻撃状態モードだ。

 それが≪爆槍矢≫の一斉の体内起爆によってコントロールを失ったせいだろう、爆発と同時に≪ジグ・ラウド≫の身体自体が発光したかと思うと――




「これ……とはね。まるで爆心地だ」




 この様である。

 目の前には巨大なクレーターが広がっており、巨体の一部を欠損させた≪ジグ・ラウド≫が煙の中に倒れ伏していた。

 辛うじて原型をとどめているが右前脚の部分は完全に喪失しており、至る所が欠損、そして炭化した内蔵らしきものや肉片が周囲に散らばっていた。


「ああっ、勿体ない……っ、とぉ!?」


 凄惨という言葉では語り尽くせない光景。

 それに思わず本音が口から出てしまうが、不意に地面に影が差し、俺は横跳びで移動するとそこに落ちてきたのは無くなっていた≪ジグ・ラウド≫の右前脚の部分だった。

 どうやら上空にまで爆発の影響で飛ばされていたようだ。


「……威力だけなら申し分ないけど、狩猟には向いていないかもな」


 恐らくこれほど派手なことになったのは≪ジグ・ラウド≫の性質によるものが大きいのだろうが、それでも≪爆槍矢≫の威力は過剰に過ぎた。

 殺せはするだろうが普通の大型モンスター相手ではミンチにしかなりそうもない。


「あちらを立てればこちらが立たず……か。難しいものだ」


 俺はそんなことを呟きながら歩を進めた。

 圧倒的な熱量の解放が行われたためか空気は熱せられ、蒸気のような煙は一帯を覆っている。

 とはいえ、≪ジグ・ラウド≫ほどの巨体を隠すには能わず、俺は凡その検討を付けてその頭部へと歩み寄った。



 ギロリっとその狂眼が動き、こちらを見つめてきた。



「……驚いた、というべきか。やはり、というべきか」


 恐ろしいことであるが前脚が吹き飛び、頭部も欠損し、胴体にも大穴が開いている状態であるにも関わらず、≪ジグ・ラウド≫は生きていたのだ。




「……すまないな。俺が正しく主人公プレイヤーだったら、真正面から戦ってそして倒してやれたのかもしれない。でも、俺はそんなに強くないからこんな手段しか取れなかった」




 誰に対する謝罪の言葉なのか、それは言っている俺にもよくわからなかった。

 間違ったことをしているつもりはない。


 だが、それでも……思うことが無いわけではない。


「結構好きだったんだよな……やっぱ龍ってかっこいいからな。ゲームでも特別だったし愛着だってある」


 これがゲームなら全部かなぐり捨ててきっと戦えることを楽しんだかもしれないが……。




「俺はアルマン・ロルツィング辺境伯。この領地を脅かす存在は――許さない」




 睨めつけるだけの≪ジグ・ラウド≫の頭部に俺は≪巨人殺しティアマト≫を突きつけ――



 一発、二発、三発、四発……。



 そのまま死んだことを確認するまで≪杭弾≫を叩き込み――絶命させた。



 そして、ふと思いついて≪金翅鳥・偏月シャガルマ≫を取り出すと一閃し、≪ジグ・ラウド≫の一対の勇壮な牙の一つを叩き割った。

 巨大な牙を片手で持ち上げ、俺はその場に居る者たち全てに聞こえるように声を張り上げた。




「溶獄龍……討ち取ったぞ!」




 その宣言に地鳴りような歓声が答えとなって返ってきた。


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