第百二十話:狩猟クエストを開始します。溶獄龍ヲ討伐セヨ
「すっげー!! 凄い、凄いですよ! なんでそんな発想が出来るんですか!? アルマン様はまさか天才……!?」
「ふっ、それほどでも……あるかもな! 因みにルキはどれが気に入った?」
「私は「どりる」が気になります! 溶獄龍≪ジグ・ラウド≫の巨体は凄まじく硬そうでした。それを穿つには「どりる」の掘り進む力が……っ!」
「ドリルかー、まあ、確かにドリルはカッコイイが実際に手に持って生物相手に叩き込むのはちょっと勇気がいるな……ミンチより酷い凄惨な場になりそうだし。其れよりもこっちの案なんだけど……」
「ふぉおおおおー!? なんですかなんですか、コレ!? 私の
「……いや、アルマン、何をやってるの? 決戦前だというのに」
部屋に入ってきたアンネリーゼの声に俺の意識は引き戻された。
色々と予想外に重要そうな情報がぶち込まれて、色々とキャパシティオーバーになった俺だが、一先ずはルキと親交を深めて損はないと考え、雑談にでも興じようと思って話題を振ったら……いつの間にか。
正直、勉強に費やしていたため前世での娯楽関係の記憶など決して広いものではない。
それでもルキにとっては新鮮なのか喜んで聞いてきたため、つい……色々と話し込んでしまった。
「絶対、ぜーったい! これにも私を噛ませてくださいね! 約束ですからね、アルマン様!」
「そうだな、確かに上手く進んでいなかったからいい刺激になるとは思うし……≪グレイシア≫に帰ったらな」
「やったー!」
万歳をして喜びを露わにするルキに俺は少しだけ表情を緩める。
犬の耳と尻尾の幻覚が見えた気がした。
「家が無くなった聞いた時にはどうなる事かと思ったけど……アルマン様の支援と援助の約束も取り付けられたお陰で、今までよりもいい環境になれると考えると――ふふふふー! 知ってますよ、こういうの。私のような少女に対する金銭的な支援のことを「パパカツゥー」というのですよね! パパカツゥー、万歳!」
「人聞きが悪い!? というか、なんでそんな言葉を残してるんだ……」
「アルマン……ルキちゃんのこと気に入っていたようだけど、もしかしてそう言った意味で……。まさか、小さい子が好き?」
「違いますけど!?」
「でも、パパカツゥーって……」
「パパカツゥーってそんな普通に認知されてる言葉なんだ」
「うん、帝都の方の貴族社会では……その……悪い遊び的な……?」
「知りたくなかった。本当に色々な意味で」
明らかに過去に居た誰かの影響だろう。
アンネリーゼの様子から察するに、言葉の内容的にも恐らくは大差は無いのだろうことが伺える。
「全くダメだからね、アルマン。アルマンにはエヴァンジェルちゃんが居るんだから」
「わ、わかってるって。……いや、というかそもそもそんな気は――」
「子供が出来る前に愛人を作ると色々と面倒なことになるでしょう?」
「えっ、そっち……? 俺が怒られたのって」
何だかんだ純正貴族の生まれのアンネリーゼの言葉に困惑してしまう俺……まあ、正しいのだろうが。
「いや、待って……そもそも誤解なんだけども」
「アルマン……アルマンに子供……つまり……ははは、そうよね、アルマンももう大人で奥さんが出来て子供が出来て一番が私じゃなくなって、その内に別居することになってたまの休みとか祭日の時にしか会えないようになって……それでそれで……っ!」
「自分で言い出して自分で傷つくのやめよう、母さん」
「やっぱり自分の工房が欲しいところですよね。大きくなくてもいいから自分のための城が欲しい……まずは何を作ろうかなー。≪グレイシア≫は辺境伯領の全てが集まる場所。≪ニフル≫では鉱石の研究は沢山出来たけど、やっぱりそれ以外は手に入らなかったし……森の方のモンスター素材とか植物系のアイテムも気になる。アルマン様の力があれば手に入れることを諦めていた希少な素材アイテムだって……」
「出来る限りの支援はするとは約束したが限度はあるからね? 聞いているのか、ルキ」
自分で口にした言葉で精神的なダメージを負ったアンネリーゼに、悦に入って算段を立てているルキ。
もうすぐ、都市の存亡をかけた戦いが始まるとは思えない空気がそこには広がっていた。
「アルマン様ー、用意は完了しましたので……ってなによ、コレ」
「ああ、レメディオス。いいところに来た……じゃあ行こう、直ぐに行こう」
◆
「それで周囲の様子はどうだった?」
「静かなものよ、たぶん溶獄龍のせいなんでしょうね。ここら一帯のモンスター……逃げれるモンスターは逃げ出して、鈍重なモンスターは息を潜めるように隠れちゃってる感じね。不気味なほどに静かね」
「動き出そうとしている≪ジグ・ラウド≫のことを察しているのか? ……≪ドグラ・マゴラ≫の時のような≪
「逆に考えると狂暴な大型モンスターがみんな逃げ出すほどに≪ジグ・ラウド≫は強いってことですものねぇ。どっちがいいとは一概に言いきれませんね」
「病によって百を超える≪
どちらが厄介か、というのは捉え方にもよるだろう。
ただ、間違いないのは≪龍種≫という存在がこの世界における最大の脅威であること。
それだけは疑いようもない事実だ。
――全ての龍を討てば……新しき世界に辿り着く。全く、どういうことだ? 意味深な言葉を……。
それは考えもしなかった可能性だ。
俺以外にも知っている人間が過去にいた。
そして、彼はあるいは彼女はその血族に≪龍殺し≫の使命を残した。
その子孫が――ルキ。
――わからない……。言葉の意味は何なんだ? 単にこの世界の最大の脅威である≪龍種≫に対して備えるため……それ以上の明確な目的、意図があるように思えてならない。だが、それはなんだ? 「新しき世界」とはなんだ? 何を知って、何を目指していた?
異邦人。
俺と同じく、この世界の外から来たと思わしき存在。
それがルキの祖先。
ただ、それほど近い存在ではないだろう。
彼女曰く、「気を付ける言葉」に関しての言い伝えはだいぶ古く、祖父から語り継がれてきたものであると聞かされたらしい。
それを信じるならば百年以上前にその人物はいたことになる。
詳しい情報はあまり残っていないだろう。
一番可能性があったルキの家が炎上してしまったのが痛い……。
――そして、何より……俺はこれに近い言葉を一度聞いたことがある。ニュアンスはだいぶ違うが……。
全ての龍を討て、平穏が欲しくあれば。
かつてギュスターヴ三世に言われた言葉がルキの話を聞いた時、俺の脳内に蘇ってきた。
ただの偶然なのだろうか。
偶々似たようなことを言っただけか。
あるいは――
「どのみち、やることには変わらない。脅威として≪
討った先に何かがあるというのなら、それは何れわかる事なのだろう。
「勇ましい言葉ですね」
「当然だ、俺を誰だと思っている?」
新たに出来た悩みを一先ず全て脇におき、俺は≪災疫災禍≫を着こんだ。
「英雄――≪龍狩り≫だぞ? さあ、狩りを始めるぞ」
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