第百十八話:ルキとの対話
「で、出来ました……っ! アルマン様!」
「出来たか、随分と早かったな」
「機構自体は簡素ですからね、アルマン様からの注文通りに……でも、これでいいんですか?」
「ああ、問題はない。時間があるならともかく、数も揃える必要があるからな」
「それはわかりますけど」
――朝日が目に沁みる……何だかんだと調整をしていたら、徹夜になってしまったな。まあ、仕方ないが。これで余裕は一日、か。何処かで仮眠を取らないとな。
そんなことを考えつつ、俺は設計図が完成したと伝えに来たルキと話をしていた。
「これがそうです」
「なるほど……」
渡された設計図をサッと見る。
知識が無い俺でも大雑把なことがわかる程度には構造自体はシンプルな代物だ。
「時間までに揃えることが出来そうか?」
「うん、≪ニフル≫は鉱石を採掘するだけの都市じゃないからね。製錬に加工、そこらは大得意だからね。複雑なものじゃないからすぐに作れはず」
「そうか……おい、頼む。例の物の設計図が完成した。これを指示通りに」
「はい」
俺はそう言って、すぐ傍に控えていた≪ニフル≫側から付けられた職員に渡した。
そして、すぐさまに部屋を出ていく職員と入れ替わるように入ってきた職員に進み度合いを俺は尋ねる。
「そっちはどうだ?」
「場所の選定は問題なく……それに応じた物資の輸送も順調に推移しているとのことです。ただ、溶鉱炉を可能な限り動かしているのですが……十分な量を確保できるかは今のところ何とも……」
「そうか……まあ、仕方ないが出来るだけ頑張って確保して欲しい。では、下がれ」
「はっ!」
敬礼をし職員は去っていき、俺とルキだけの空間になった。
「なんか凄いことになってる……。何というか一丸となって戦おうとしているって感じが……なんか、こう……」
「まあ、決戦と言ってもいい戦いの前だ。それも≪龍種≫との戦いともなればそうもなるだろう」
「でも、みんな緊張はしてるけど、不安そうにはしていない。……凄いんですね、≪龍狩り≫のアルマン様の力は」
「そうだな……。そうでありたいよ、俺も」
「アルマン様ー?」
「いや、何でもない。それよりも設計図のことよく頑張ったな」
俺はそう言ってルキの働きに対して褒め称えたが、彼女は何処かどことなく困った表情をして受け取っていた。
「どうした?」
「ああ、いえ、褒められることに慣れていなくて……それにたいして難しい案件でも無かったですから。設計図の方はたぶん誰も作れる程度に簡素のものだし」
「だとしても、この短時間で俺が任せたことをキチンとやり遂げたのは事実だ。なら、それは認められるべきことのはず……。それに重要な部分の火薬の運用についてはこれまでのルキの研究の成果だろう? 確かに似たようなものなら他の者でも作れただろうが、一番うまく作れると思ったのはルキだ。そしてお前はそんな俺の期待に応えて見事に作った……だから称賛した、それだけだ」
「ぁぅ……」
何故か不安そうにしていたので懇切丁寧に言ったら、ルキは今度は紅くなって奇妙なポーズを決めた。
「何その構え……」
「うっ、認められることが少ないから思わず拒絶反応が先に立って……」
「そうか……褒めなかった方が良かったか?」
「いえ、褒めてください。私、褒められるの大好きです。日頃、欠乏したところにスッと染み込んでくるので……是非、もっと!」
「あ、うん」
「ただ、そう……ですね。……アルマン様はなぜ私をそんなに評価してくれるのかなって。いえ、自分の技術力に自信は持ってはいますけど、その……さっきも言ったようにそれを認めてくれた人はあまり……なので、何というか不安になるというか……」
「そうだな、強いて言えば新しいものを生み出そうとする姿勢……か? 強いて言えば」
「姿勢、ですか?」
「ああ」
この世界は厳しい。
皆が身に染みて知っていることだろうが、人よりも多くのことを知っている俺だからこそ思う。
ゲーム世界と似ていて、その知識を使ってこれまでは上手く立ち回ってきたが、それでもモンスターという脅威に対して人は劣勢だ。
その根本は全くと言っていいほど変わっていない。
余裕が出来たように見えて今回のようにモンスターたちの引き起こしたちょっとした出来事で、都市の危機だ、辺境の危機だと俺たちは右往左往をしているわけだ。
「色々と頑張っては見たが、俺に出来るのは知識を前提にした効率化が精々だ。それじゃ予想も付かない事態になった時、どうしようもなくなってしまう……そう考える時がふとある」
俺の長所、武器は『Hunters Story』の情報。
それがあったからこれまでやってこれた、俺だけが知っている心強い切り札。
だが、逆を言えば俺はそれに縛られているとも言えた。
結局のところ、『Hunters Story』の知識をフルに使っても無駄を削ぎ落とし、狩人に有利に事を進ませることは出来てもそれ以上のことは不可能だ。
そもそも前提となる『Hunters Story』の世界において、人とモンスターではモンスターが優位という設定となっている。
それは
どれほど
戦いは終わらない、そういうゲームだ。
ならばそれを基準にした知識や技術を使ったところで根本を変えることは……。
「何時まで経っても、ずっと俺の領地はモンスターに対して……怯えたままだ」
「それは――仕方のないことです」
「そうだな、でも……俺は嫌なんだ」
流されるままに貴族になって、領主になって、英雄になった。
生きるためだけに頑張っていつの間にかに辿り着いたが、十一年も治めて過ごせば愛着が湧くというものだ。
そして、だからこそ常に脅かされる辺境の現状を変えたいと考えてしまう。
ただ、まあ、残念ながら色々と試してみたはいいものの、これだという成果は得られなかったが……。
「だからこそ、ルキの新しいもの、未知なる何かを求めようとする姿勢が気に入ったのかもしれない」
「……アルマン様はお父さんに似ているかもしれません」
「俺が?」
「私が龍殺しの武具を作ろうとしている理由……言いましたっけ?」
「いや、聞かされてないな。というか、単に凄い武具作りの目標設定に一番強いモンスターである≪龍種≫を置いただけかと思ってたんだが……」
「まあ、やるからには目標は高い方がいいですし、名声的にも≪龍殺し≫の異称とかもカッコいいから憧れているのもありますけど……始まりはお父さんの言葉でした」
ルキは続けるように言った。
曰く、父親の残した言葉を。
――「新しき世界に辿り着くには、全ての龍を討たなければならない。だからこそ、≪龍殺し≫は必要となる。理から外れた、私たちだけの牙……それを……次こそは……」
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