第百十話:火薬の匂いって、安らぎますよねー。彼女はそう言った
「今よ」
「――いくぞォ!」
俺とレメディオスとルキの三人の快進撃は進んでいた。
何度となく組んだことのある俺とレメディオスの連携の巧みさもあったが、一番に活躍……というか暴れていたのはルキだった。
スカウトに喜んだ彼女は、自身の作り出した傑作である≪
ルキ自体の狩人としての腕、それは経験もあって確かなものではあったがやはり採取を専門にしていたためか、やや見極めや立ち回りの際に粗が目立ったものの、彼女はそれを補えるだけの力として――≪
「――≪破裂弾≫! 発射!」
今だってそうだ。
相手をしているのは≪黒犬≫の異称を持つ、≪獣種≫の大型モンスター。
名は≪オル・ベロス≫。
巨大な黒犬のモンスターで、火を噴くのが特徴の中位モンスター。
とはいえ、攻撃力だけなら中位のモンスターの中でも上位に匹敵する。
舐めてかかると痛い目を見る、そんな敵だ。
だが、ルキは勇猛果敢に攻めてたてる。
むしろ、相手に骨があってちょうどいいと言わんばかりだ。
ルキはレメディオスの攻撃によってよろめいたモンスターに向けて≪
先端に空いた穴から高速で何かが発射されたかと思うと、それらは≪オル・ベロス≫へと命中し紅い華を咲かせた。
≪オル・ベロス≫のくぐもった絶叫が轟く。
紅い華に見えたのはモンスターの血飛沫。
何が起きたかわからない、という風にこちらへ向けていた敵意を消失させ、逃げ出そうとする≪オル・ベロス≫に向けてルキは一気に詰め寄ると、いつの間にかに元の大鎌の形状になっていた≪
「
振りかぶった≪
何処か巫女服に似通った衣装である彼女の防具である≪御神楽・舞≫が、その軌跡を彩ろう様にはためく。
そして、その防具に秘められたスキルを発動させる。
――≪
アレはどうにも≪
≪オル・ベロス≫へと接近する間に何回転したのだろうか、一回転する度に≪
そして、その勢いを維持したまま。
あるいは加速すらしていたのかもしれない勢いで≪
「≪大・切・断≫」
結果は――ズレ落ちた≪オル・ベロス≫の巨大な頭部が全てを物語っていた。
◆
「凄いな、本当に……」
「いやぁ、そんな」
「あらあら、本当にアルマン様はルキちゃんにメロメロねぇ」
「え、ええっ!? わ、私ですか!?」
「違うから、俺が褒めたのはあくまでも≪
「うぇえええっ!?」
「……全く、アルマン様は変な所で真面目なんだから」
ワイワイと雑談を交えながら進む一行。
話題はやはり俺としてルキの持つ≪
彼女はどうにも俺というスポンサーが付きそうだというのを察して、技術力アピールのつもりか、≪
そこで判明したのは≪
絡繰り仕掛けでモードチェンジをすることで可能となる、つまりは変形武具だったのだ。
現実に即して考えると整備とややこしそうだな、なんて思考が過ったがそれはそれとして変形武具は男のロマンである。
俺の中でのルキ評価ポイントが更に増加した。
≪
まあ、要するに銃である。
≪大砲≫とかはあるので金属の塊を火薬で飛ばす……という発想は変ではないだろう。
だが、大抵の人はそこで発想を終える。
なにせ対モンスターを考えた場合、≪大砲≫でも大型モンスターには直撃してもあまりダメージは通らない。
そりゃ、何度も受ければ別だがつまりは砲弾ほどの大きさな鉄の塊をぶつけても、一発や二発じゃろくにダメージも与えられないのに、小型化してどうするのか……という問題だ。
故に本来なら変形して銃のように攻撃も出来る……何ていうのはネタとしては面白いだけの機能でしかない。
はずだった、のだ。
だが、ルキの銃撃は明らかに≪オル・ベロス≫には一定のダメージを与えていた。
致命傷とまではいかないが、それでも無視できない程度の殺傷力がそこにはあった。
それは何故かといえば、
――「秘密は弾頭にあるんです。硬いものより、むしろ柔らかかったり、裂けやすくしていた方が威力というか……モンスターへのダメージが増えるんです!」
――それってホローポイント弾じゃね? やべえな、こいつ。
俺の中でのルキ評価ポイントは更に増加した。
目を離してはいけないという意味で。
それはともかく、≪
ブースターによる瞬間的な推進力、それを維持するどころか加速させるために回転をしながら近づいて、思いっきり最後は叩き込む。
素晴らしい、ロマンの全てがつまっている。
ルキは素晴らしい発明家だ。
俺は手放しで称賛した。
一切の下心の無い、純粋な称賛だ。
彼女もそれがわかっているのか嬉しそうに頑張り、俺は≪
勿論、ちゃんと襲い掛かってくるモンスターたちの相手も並行してやっていたが。
――「アルマン様は時々、凄く子供に戻るわね」
なにやら微笑ましいものを見るようなでレメディオスに見られていたが、この際努めて無視をする。
――だって変形、銃、ブースター、そして大鎌というスタイリッシュ武具だぞ? 何だよコイツ最高かよ、天才だ。
そんな感じでルキを誉めたたえながら、地下の道を順調に進んだ俺たち一行。
非常に明るい雰囲気のまま、ルキが≪ワーグル≫を見かけたという件の場所に辿り着いたのだ。
「ここだよ!」
「ここは……」
そこは何時か見た場所だった。
流石に多少、周囲の状況の雰囲気とかは違うが、それは正しくゲームの時にも見た、地下の大溶洞への入り口であった。
強大な岩盤がそれを塞いでいる。
――壊れてはいない、か。
最悪、ここが壊れている可能性を考えていた俺にとってはホッと出来る情報であった。
とはいえ、あくまでも最悪ではないことがわかっただけで問題が解決したわけではない。
異変の調査はこれからだ、と気合を入れた。
そして、俺はこの時、自身の失敗に気付かなかった。
思った以上に優秀で才気の有った彼女、
少々癖があるとはいえ、基本的には人懐っこい性格で付き合い易かった彼女、
そもそもが最初、どんな出会いだったのか。
それを忘れていなければ、彼女――ルキがボンバーなガールであることを忘れていなければ、或いは。
いや、結局は変わらなかったのかもしれないが。
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