第百八話:未知なるアーティファクト
「――よし、整備終了!」
俺とレメディオスでは考察を進めていたところ、そんな元気な声が坑道に響いた。
当然、声を上げたのはルキである。
視線を向けると彼女は満足げに自らの武具を確かめるように振るっていた。
どうやら、メンテナンスをしていたようだ。
「静かだと思っていたら……」
「整備をしていたのね。偉いわー。……それにしてもルキちゃん、見たことない武具を使っているわよね」
レメディオスがそういうのも仕方ない。
彼がそういうのも無理はない、彼女の――ルキの持っている武具は、特殊も特殊なものだったからだ。
一言でそれを言い表すならそれは――鎌だった。
それも農業で使うような手軽なものではなく、まるで死神のイメージ絵に出てくる柄の長い大鎌。
ルキ曰く、その武具の名は≪
「ああ、本当にな」
聞いたことも見たこともない、知らない武具であった。
「あら、アルマン様も知らないなんて珍しい」
「俺だって知らないことはあるさ」
そもそも『Hunters Story』の武具種の区分に≪大鎌≫なんてものは存在しない。
時たまに武具の区分として明らかに形状がおかしいものもあるにはあったが、それらもあくまで見た目が奇抜なだけで中身自体はどれかの武具種の区分に当てはまっていた。
だが、ルキの武具は明らかに違っていた。
形状から似通ったものを考えれば≪軽装槍≫、≪重装槍≫、≪長刀≫……長柄の武具といえばこれだが、そのどれにも当てはまらない動き、攻撃方法を確立していた。
つまりは独立した一つの武具種と言ってもいい。
そして、その俺の知らない未知なる武具種は中位モンスターを見事に倒せるほどの性能を証明している。
これらのことをどう捉えるべきか。
――別に剣にしても、槍にしても『Hunters Story』に関するものしか作れない……というわけじゃない。ただ、モンスターと戦える。実戦に耐えうるレベルとなるとそうなってしまうだけで……。
だからこそ、俺はこれまで気にしたことは無かった。
『Hunters Story』で知った武具や防具ばかりが出てくるということに……。
――そういう世界だから、で納得していた。だが……。
目の前の少女が持つのは明らかにモンスターの狩猟に相応しき性能を誇る武具。
同時に俺の知識にはない未知。
――考えられることは二つ。一つは俺が死んだ後に続編が発売されるなり、アップデートされるなりで新たに武具種として追加された可能性。
あり得ないことではない。
『Hunters Story』は大人気のゲームで飛ぶ鳥を落とす勢いで売れ、プレイヤー人数も増加の一途を辿っていた。
随分と昔の記憶過ぎてよく覚えてないが、俺が死ぬ直前も特に失速の余地もなかったし、あの勢いのままならあってもおかしくはない。
――あと一つの可能性は……。
「それはそうでしょう! 何せ、この子は私のお手製ですからね! 一から作ったんですよ!」
「あら、そうなの? ……へぇ、貴方って凄いねぇ」
「そうでしょう、そうでしょう。素材としているのはですね、まず――」
ルキが嬉々として喋り始める様子を眺めながら俺は密かにその可能性について考える。
そう、この世界独自に生まれた武具という可能性について。
――思った以上の掘り出し物だな、これは……。
独自の武具の作製の成功。
それは俺に新たなる可能性の道を開いてくれた。
――下手をすると俺が持っている優位。ゲーム知識が今後は役に立たなくなる可能性があるが、それでもこの実例の存在が及ぼしてくれた可能性の広がりは大きい。
網羅的に記憶しているゲームでの武具や防具の数値データ。
それらが役に立たなくなるかもしれないが、それでも既存のものを改良して性能を向上できる可能性や新しい武具種の確立の可能性はそれを補っても余りあるほどに価値がある。
無論、それは言うほど簡単なことではないだろうが……。
――どうしたって武具も防具も性能は頭打ちになるからな。
『Hunters Story』はゲームであり、それ故にゲームバランスというのが存在する。
当たり前だが、ゲームというのは楽しむのが目的でそれ故にゲームの難易度というのはゲームの評価で重要な要素となる。
コアなマニア向けのゲームならともかく、大抵のゲームというのは難し過ぎてもダメだし、かといって簡単すぎてもすぐに飽きられてしまうもの。
特に『Hunters Story』はシナリオやストーリーに重きを置いているわけではなく、モンスターとの狩猟アクションを主軸に置いたゲームであるが故、その点に関してはしっかりとバランスが崩壊しないように調整されている。
具体的に言えば、武具や防具の攻撃力や防御力の上限などがそうだ。
RPGなどなら所謂最強装備などがあったりすることもあるが、『Hunters Story』においてはそういうのは存在しない。
武具も防具もランクによる性能差こそあれど、基本的に同ランク帯ならば長所と短所の違い程度の差でしかなく、それは設定上では最強種とされている≪龍種≫を素材とした武具だってそうだ。
高い性能を誇る上位武具ではあるものの……あくまで、それだけでしかない。
『Hunters Story』において装備の数値は、強大なモンスターたちといい勝負が出来るように決まっているのだ。
所謂、無双ゲーのようなことはできはしない。
それ故にそのゲーム設定の中で廃人と呼ばれるゲーマーたちは、プレイスタイルを磨き、スキル構成を洗練し、一分一秒という狩猟時間を縮めることに心血を注ぐのだが……それは置いておくとして。
――だからこそ、この可能性には価値がある。ゲーム基準における装備の枠組み、それを超えることが出来るというのなら……。
それは今後における≪龍種≫との戦い、モンスターとの戦いにおいても見過ごせない要素となる。
俺はそう確信し、そしてルキを逃がさないことを心に決めた。
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