第百七話:≪バビルア鉱山≫


 ≪バビルア鉱山≫


 『Hunters Story』においてイベントを進めることによって開放されるフィールド。

 辺境伯領の北部に広がる地下坑道の入り口であり、下層に降りるほどに希少な鉱石が手に入りという特性がある。

 ≪ニフル≫が鉱山として管理出来ているのは上層の一部のみだ。

 長い時間をかけて狩人がモンスターを狩り、鉱山として機能するように人の手を入れて開拓をしたのが≪バビルア鉱山≫となるわけだ。


 だが、≪ニフル≫があくまでも管理出来ているのは上層部のみ。

 中層以下はほぼ手付かずのままだったりする。


 下層に行けば行くほど、希少な鉱石アイテムが手に入る。

 上層で手に入る、比較的安価でもこの辺境伯領で欠かせない鉱石アイテムの採掘は、≪ニフル≫にとって安定的で重要な財源ではある。

 とはいえ、それは中層以下の希少な鉱石アイテムの採掘に産業として手を伸ばさない理由にはならない。

 当然、過去の≪ニフル≫も何度かそれに挑戦したものの、その全てに失敗したのが≪バビルア鉱山≫の下層に行くほど上位のモンスターが現れやすくなるという特性だ。


 ゲームでは特に気にしてはいなかったが、この≪バビルア鉱山≫では変な話ではあるが地下からモンスターが現れる。

 これは地下坑道が辺境伯領の北部の至る所に繋がり、そこからモンスターが入り込んでいるのではないかというのが有名な学説だ。

 そして、下層に行くほどに上位のモンスターが現れるのは、≪バビルア鉱山≫の特性で地下に行くほどに良質な鉱石が発生し、それを主食にして成長するモンスターが集まるからだとされている。


 ――こんな風に。



「ふんぬらぁアァアアっ!!」



 野太く猛々しい声が反響するように響いた。

 それと同時にレメディオスの放った一撃が蜥蜴に似た大型モンスターの頭蓋に叩き込まれた。


 ≪石蜥蜴≫の異称を持つモンスター……≪グルガガ≫は、その名の通りに岩石を鎧のように纏い、非常に硬い性質を持っていた。

 生半可な攻撃、特に鋭さを活かした斬撃に強い性質を持つが、レメディオスはそんなものは関係ないと言わんばかりにその岩を削り象ったかのような無骨で巨大な形をした≪大斧≫で岩石の鎧を打ち砕いた。


「アルマン様!」


「わかってる……っ!」


 苦し気な声を上げ、撤退しようと後退りをして逃げの体勢に入る所を俺は見逃さずに攻め立てる。

 ≪巨人殺しティアマト≫の鋭利な先端で以って、レメディオスが砕いた≪グルガガ≫の頭部を抉り込む。

 頑丈な鉱物の鎧に守れられていた頭部は、無防備にその攻撃を受け――



「トドメは任せた」


「……そこォっ!!」



 絶叫を上げた瞬間を狙うように滑り込ませた、ルキの一振りがその首を狩り飛ばした。



                  ◆



「はい、お疲れー。いやー、それにしても多いわね」


「ああ、確かにな」


 ≪バビルア鉱山≫の調査のため、地下に入ってから数度目になるモンスターの襲撃。

 それを搔い潜った俺たちはそんな風に健闘をたたえ合った。


「ふおー! ≪石蜥蜴≫の素材……せめて、希少部位だけでも。良いお小遣いに……っ!」


「いちいち、部位を切り取ってたら進めないぞ。依頼料には色を付けてやるから」


「っ、本当ですか!? いやー、ルガーさんの工房を吹き飛ばした借金が出来て色々大変で……約束ですよ!」


「中々図太い子ねぇ、ルキちゃん。将来、大物になるわー」


「大物になるのは当然です! 将来、≪龍殺し≫の名を残すことになる女ですからね」


「ついでに自信家でもあるわね。まあ、私としては好ましくは思うけども」


 俺とレメディオス、そしてルキの三人パーティーによる≪バビルア鉱山≫の探索は思いの外、順調に進んでいた。

 ≪金級≫であるレメディオスは勿論、ルキの実力も≪銀級≫として確かなものだったのが大きかった。

 即席パーティーでもあるにも関わらず、中位モンスターである≪グルガガ≫をものともせずに倒せたのは僥倖であった。


「それにしても相も変わらず、≪バビルア鉱山≫の地下はあまり好きになれないわねぇ。どうにも息苦しいというか」


「閉鎖空間ならではって感じだな。別にそれほど狭苦しいわけではないが、空が見えないというのは森に慣れている俺たちからすると圧迫感を感じるな。俺もどうにも好きにはなれない」


「そうですか? 慣れるとそれほどでもないんですけどね」


 ≪グルガガ≫を倒したこともあり、俺たちは雑談を交えながらちょっとした小休憩を行っていた。

 別段、体力には余裕はあるが次の瞬間には何が起こるかわからない場所なのだ、休憩は取れる時にした方がいい。


「そういうものかしらねぇ。でも、地下の空間って磁性を持った鉱石のせいで方位磁石も機能しないじゃない? ゾッとしない話よね」


「まあ、最低限の位置ぐらいはわかるからな、≪ゼドラム大森林≫は……。最悪、空を見れば星の位置から方位ぐらいなら割り出せるからな」


 それも出来ないのが≪バビルア鉱山≫の恐ろしい所だ。

 経験者でなければモンスターの蠢く場所で自分の位置すらわからなくなりかねないダンジョン。

 故に中層以下の大部分を≪ニフル≫は知らない。



 その遥か地下に眠る存在が居たとしても把握する術がない。



「……思った以上に多く襲われたな」


「判断に困る所ねぇ。単に今日という日が運が悪かったとも言えなくもない」


「ただ、全体としてやはり殺気立っている気はしなくもない」


「それはそうね」


 俺とレメディオスは意見を交わした。

 地下に入ってから感じる違和感……確たる形として言語化は出来ないものの、どうにも拭えない異変を狩人としての勘が捉えていた。




「やはり、地下かな」


「恐らくは、ね」




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