第百六話:宿にて
「それで連れていくことにしたのかい?」
「ああ、どのみち案内人は必要だった。何度か
「レメディオスの知り合いの狩人にあたるって話だったじゃないのかい?」
「どうにもそっちは予定の都合がつかなかったらしい。まあ、≪金級≫の狩人ってのは緊急の
「そうか、要らない心配だと思うけどアリー。気を付けてね」
「……うーん、信頼してくれるのは嬉しいが、まるで心配されないのもそれはそれで何というか」
「何せ英雄様だからねぇ」
「むぅ」
「ふふー、冗談さ。ただ、まあ調査に出かけるぐらいで心配してたら、今後は持ちそうもないからね」
夜も更けた頃合い。
≪ニフル≫に用意された宿の一室で俺はエヴァンジェルと談笑をしていた。
「……アリー、危ないことにはならないのかい?」
「それを調べに行くんだ、明日はね」
「それはそうだけど……もしかしたら、アリーはもっと明確に異変の原因……とやらに、思い当たる節があるんじゃないかなって思って。そして、それを警戒している」
朗らかに会話を楽しんでいると、不意にそんなことをエヴァンジェルは口にした。
相も変わらず、彼女は察しがいい。
「単なる勘だよ。異変とやらに警戒を持っているのは確かだけど……。俺が用心深い性格なのは知ってるだろ」
「ええ、そうね。だからこそ、不確定要素の出会ったばかりのルキを入れて、危険かもしれない異変の調査に赴く……という行動は些か疑問が浮かぶかな?」
エヴァンジェルの言葉に俺はグッと呻いた。
確かにそうだ。
レメディオスが頼るつもりだった相手が運悪く他の
とはいえ、顔の広いレメディオスのことだ。
代わりぐらい、すぐに集めることぐらいは大して難しくはないだろう。
だが、
「≪龍狩り≫として≪龍殺し≫の名前は気になったのかな?」
「否定はしない、かな」
「……まっ、そこら辺はアリーの判断を信じるさ。僕としては無事に帰って来てくれればそれでいい。無理はしないように」
やはり、どうにも隠し事があるのは見抜かれている気もする。
流石に最悪の場合、≪龍種≫との戦いを想定しているというのは気付かれてはいないだろうが……深くは聞いてはこないのは助かった。
勿論、俺とて好んで危ないことをするつもりはない。
現状を把握できたら撤退するつもりではあるが、何が起こるかわからない以上は保険は必要。
だからこそ、それ相応のものを用意した……それだけだ。
無理をする気はない。
「ああ、わかってる」
「無事に帰ってきて、そして君の物語を僕に教えてくれ」
「勿論だ」
勿論、それはいいんだけど……それってエヴァンジェルたちの作ってる本にネタになるんだろうな、とふと思ってしまったが俺は気にしないことに努めた。
「あー、予定としては調査自体はそこまで時間をかけるつもりはないけど、そこら辺は現地の状況次第。正直、明日は帰って来れるかわからないけどエヴァたちはその間はどうする? 観光でもしてるのか?」
「んー、そうだね。一応、ある程度は回れたからそれはいいかな? 一番の目的だった温泉もこうして入れたし、満足。料理についてはもう少し改善点があったけど」
俺たちが今泊まっている宿は、気を利かせてくれたのかあるいはアピール目的か。
≪ニフル≫でも一番の質の良い宿泊施設であった。
何故か和風建築の温泉旅館といった佇まいで雰囲気もあり、天然温泉の露天風呂にエヴァンジェルもアンネリーゼも少しはしゃぎながらいそいそと向かって堪能していた。
俺としても久しぶりの温泉に疲れを癒されるの感じた。
「だから、ルキの家で過ごそうと思うんだ?」
「ルキの?」
「ああ、彼女の家には色々と本があっただろう? あれはどうも希少な本が多くてね。少し興味があるんだ。それでちょっと聞いてみたんだが、好きに読んでくれて構わない、と言われてね」
「だから、ちょっと読んで過ごしてみようって? あいつも大概に不用心なやつだな……まあ、単に盗まれて困るようなものは置いてないだけかもしれないが」
考えてみれば偶にしか利用していない人里離れた無人の家だ。
貴重品の類は別のところに保管しているか、隠しているのが普通だろう。
とにかく、ルキが許可を出しているのなら俺としても否は特にない。
「とはいえ、あそこが少し危ないのは確かだ。今までが大丈夫だったからとはいえ、明日もそうとは限らない。……そうだな、一緒にこっちに来た狩人を何人か雇って付けることにしよう。まあ、旅行を楽しんでいるんだろうが臨時収入と考えれば悪くはないだろう」
「うん、わかった。ありがとう、アリー」
「どういたしまして」
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