第九十九話:≪ニフル≫への道中にて
出発にこそ、色々と微妙な空気にはなったものの、≪ニフル≫への道行は非常に順調に進んでいた。
元から≪グレイシア≫と≪ニフル≫の都市間の道は整備されていたし、道中に出てくるモンスターも全ては護衛として雇っていた狩人らによって速やかに追い払われるか、あるいは狩られるかでスムーズなものだ。
一応、今回の視察は領主としての公式なもので、一狩人として向かっているわけではない。
領主として向かっているわけであり、そうなるとそれなりの格式というか自領内といえども所謂見栄というのも大事となってくる。
単に≪ニフル≫まで辿り着くだけなら俺とレメディオスが居れば、道沿いに出てくる大型モンスターぐらいどうとでもなるので、護衛なんて特には要らないのだが……馬車一つで向こうへと着くのは領主としては些か問題があるのも確かだった。
だからこそ俺はギルドに
報酬に色を付ければあっと言う間に人は集まった。
こういう時こそ金の使い所だと、結構な大枚を使って集めただけあって過剰なほどに狩人の質も量も集めての道行だ。
俺やレメディオスが出る幕もなく、馬車の中で穏やかに談笑しながら進むことを可能としていた。
「本当に楽でいいわねぇ、それにしても少し雇い過ぎじゃないかしら?」
「まあ、単なる視察だけじゃなくてこの際だからな文官の一部を連れてきて、流通に関しての擦り合わせとか……領内統治の観点でやることもやってしまおうってことになってな」
「ああ、だから他にも馬車が……それで使節団みたいな規模になっちゃったのね」
「定期的に都市間で連絡を取り合っているとはいえ、やはりそれだけではな……。はあ、電話があれば……」
「でんわ……?」
「いや、何でもない。……とにかく、この際だからってことで規模が大きくなって、それに対応するために色々と金をばら撒いた結果がこれだ」
「ふぅん、なるほど……それにしてもそれならシェイラだって連れてくればよかったのに、ぶーたれたでしょ?」
「アイツは筆頭だからダメ。それに俺の留守を任せられるのもシェイラしか居ないからな」
「あらあら、本当に信頼しているのねぇ」
俺がそんな風にレメディオスと話している向かい側で、エヴァンジェルとアンネリーゼの二人は顔を寄せ合って≪ニフル≫に関する書籍を読んでいた。
所謂、パンフレットのようなものだ。
簡単な都市の歴史やその変遷、そして最近増え始めた温泉施設に、その周囲に出来た温泉街のことについて。
「結構、色々なお店もあるのねぇ」
「前は食事処ぐらいだったようですけど、辺境伯領への交易品の数も種類も増えていたからね。それにそういう需要があるというのは上がってきていたから、商会を挟んで上手く回したんだけど……へえ、甘味処もあるんだって」
「甘味! いいわねぇ、どんなのがあるのかしら」
「温泉まんじゅう……? というのがあるみたいですよ、他にも――」
「この≪
「いえ、なんでも≪ニフル≫に訪れた≪グレイシア≫の狩人の防具を見て、ヒントを得て開発したのだとか……ほら、狩人の防具の装いは色々と種類があるでしょう? その中でもこう……何ていうかひらひらした布の……」
「ああ、アルマンがわふーがどうのって言ってた。確かに似てるかも……参考にしたのかな」
「わふー、ですか?」
「わふー」
「わふー」
「「ふふふっ」」
出発時の微妙な空気など無かったかのようにきゃいきゃいと話し込む二人の姿。
一体何が面白いのか「わふー」「わふー」言い合っている姿は、アンネリーゼの若い姿もあって美少女たちの戯れにしか見えない。
片方が婚約者で、片方が母親だが。
仲良くしているのはとても素晴らしいし、目の前の光景自体も目の保養に良い。
精神が洗われるようだと内心で相好を崩した。
「さっきまでアンネリーゼ様……凄い葛藤を抱えて苦しんでいた感じだったのに、情緒どうなってるの?」
「時たまに起こすんだ。何というか俺のことが好きすぎるから……」
エヴァのことは気に入っているし、俺との仲も応援している。
祝福もしているいし喜んでもいるけど、それはそれとして取られそうで寂しいし、息子の一番は自分じゃないと嫌という独占欲も交わり……バグるのだ。
「何というか……面倒なことになってるわねぇ」
「ああ、全くだ」
「本当に面倒な
「……えっ、俺も?」
何故か一緒くたにされた俺は驚きの声を上げ、レメディオスはその様子に溜息を一息ついた。
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