第九十二話:≪白薔薇≫への依頼
「本当に久しぶりね、アルマン様」
「長旅ご苦労様、レメディオス」
そう言って執務室に入ってきたレメディオスの巨漢な姿にとても懐かしい気分になる。
何せ、彼の濃い顔を見るのはほぼ一年ぶりだからだ。
「全く、この街もとても久しぶりに感じるわ」
「すまないな」
「旅費を出して貰って色々な所に旅行を出来たかと思えば、そこまでじゃないわ。ああ、でも帰ってきたらアルマン様に婚約者が出来てたのは流石に驚いたわよ。水臭いわねぇ、私たちの仲じゃありませんか」
「いや、何分急な話で」
「ふふふ、冗談ですよ。あら、シェイラも久しぶり。元気してたー?」
「レメディオス姐さん、お帰りどうもです。元気は元気です、でも相も変わらず領主様が無茶振りして私を虐める!」
「シェイラはアルマン様のお気に入りだから……ほどほどにしないとダメですよ、アルマン様」
「ほどほどじゃなく、もっと労わるように言ってください!」
「ん、考慮する」
「確約しろ!」
シェイラが憤激しているが俺は努めてスルーする。
仕方ないのだ、エヴァンジェルの手配で人員について確保できたとはいえ、やはり重要度の高いものは俺かシェイラに任せることになるわけで……。
「よしわかった。もっと権限も増やすから……」
「雑務減った代わりに重要度の高そうな仕事を回すのはやめろぉ!」
「相変わらず、仲がいいわねぇ……ってあら?」
キャンキャンと吠えたてるシェイラの様子に懐かしそうに目を細めたレメディオス。
だが、そんな彼の目にどうやらエヴァンジェルが止まったようだ。
「もしや、貴方が噂のアルマン様の婚約者の……」
「あ、ああっ。お初にお目にかかる。エヴァンジェル・ベルベットという。≪白薔薇≫のレメディオスの名はかねがね」
レメディオスの姿と言動、キャラの濃さに僅かに呑まれていたのかエヴァンジェルは少し戸惑ったように口を開いたが、すぐに気を取り直してそう挨拶を行った。
「それにしても、よくわかったね」
「おほほ、当然ですわ。こちらではまるで見かけぬ美しいドレス姿、怜悧な美貌に身に纏う知的で、優雅かつ高貴……その雰囲気はまるでお姫様のよう! 来る最中に聞いた噂の通りの御方だもの。それにアルマン様の執務室に居るとなれば、そうに違いないと思いましたの」
お姫様のよう、という言葉に俺は内心でぎくりとした。
これがレメディオスでなければ、単にその容姿を称賛したのだと思えるのだが……彼は何というか妙に勘のいい男なのだ。
「そんな噂を聞いたのですか?」
「ええ、とても仲睦まじく美しく聡明な方であると街中で。まさかここまでとは思いもよりませんでしたが……」
「それは実にこそばゆい。僕はただの商会の娘でしかなく、姫のようなどと」
「あら、そうですか? てっきり高貴な御身分であるかと、何というか雰囲気が――」
「あー、レメディオス姐さん。確か
言葉を重ねようとしたレメディオスに対してシェイラは少しだけトーンを上げて話しかけた。
やや、強引ではあるが咄嗟の判断なのだろう。
流石に気が利く、そんなだから俺の中でのシェイラの評価は常に上昇を続けているぞと言いたくなる。
「あら、そうだったわね。そのご報告だった。いけないわね」
シェイラの言葉にハッとした表情を見せるレメディオス。
「ごめんなさいね。今度、ゆっくりお話ししたいわ」
「ええ、是非」
「アルマン様と一緒に
「是非!」
「人の過去話を婚約者に吹き込もうとするのはやめろ。どうしてどいつもこいつも……」
せめて、カッコいいのにしろと言いたくなったがそういう話は広報活動のネタになってしまいそうだな……と思い直す。
かといって、俺の話をするなとも言えず押し黙るしかなかった。
「ふふっ、みんな話したいのよ。アルマン様のことを……さて、では
そう言って笑みを浮かべ、改めてレメディオスは言った。
「あっ、僕は席を外した方が良いかな」
「いや、別にいい。二人とも一緒に聞いてくれ。隠すようなことでも無いし、二度手間にもなるからな」
エヴァンジェルは席を立とうとしたが俺はそれを抑えた。
「そうなのかい?」
「ああ、そもそもレメディオスに頼んだのは調査
「調査
狩人の受ける
基本的に、狩猟、採取、そして調査。
無論、それ以外にも専門的なものや、個人や優秀な
調査依頼はただの人ではいけない現地へと赴き、その場を調査するものだ。
安全に辿り着き、戻ってくる実力。
そして何よりも異変を察知する力がものをいう
単なる力自慢ではなく、勘や経験、知識に基づく調査力が調査
そして、今回の
少なくとも俺はそう判断した。
「一体、どんな内容だったんだい?」
「――帝国各地の様子を見て貰ってきたんだ。≪災疫事変≫が終わった後、すぐにな。……災疫龍が起こした≪
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