第五十一話:砂上の道行、そして辿り着くは古の帝都


「ほう、スキル……ですか。何とも興味深い」


「おや、知らないのですか? アルマン様は帝都に居られたときにそういう話を知ったと……それを≪グレイシア≫に持ち込んで素晴らしき功績を」


「むっ、帝都で……ですか? そのような話は寡聞にして聞いたことは……」


「ああ、うん、まあ、チラッとね」


 最初の雰囲気もほぐれ、俺たちは取り留めのない雑談に終始していた。

 主な話題として実益も兼ねてロルツィング辺境伯領と帝都との違いについての話が多かった。


 俺にとっても、エヴァンジェルにとっても有意義な情報の交換となる。

 時には今のように、都合の悪いことについては誤魔化したりもしたが。


「本当に軽く何処かで知っただけなんだ。それを≪グレイシア≫で実践して……偶々上手くいったという感じかな」


「ふむ……なるほど」


「具体的にどこで知ったのかは少し昔で覚えていない。だけど、モンスター素材の供給には≪グレイシア≫は困らなかったのがスキル研究が進んだ理由だし、もしかしたらこっちではあれから上手くいかなくて廃れたのかもしれない」


 嘘をいう時には適当に真実を混ぜてそれっぽく見せるのが重要だ。


 実際にモンスター素材が豊富な≪グレイシア≫でもなければ多種多様な防具や武具を作り、スキルを研究するなんて出来ないし、≪植生学≫による効率農業をするために専用防具を数を揃えて運用するなんて出来はしない。

 反面、基本は流通するのが≪グレイシア≫産の輸入物ばかりのモンスター素材、それを使って防具や武具を作ってスキルの研究をする……等、こっちでやろうと思えばどれだけの金が要る事やら。

 何処かで断念したのかもしれない、という俺の推論にはそれなりに説得力があった。


「それにしてもスキルですか……とても興味深い」


 それに何より出処などを気にするより、スキルという存在について興味が引かれるのが当然だ。

 エヴァンジェルもそっちの方に食いついた。


「それでスキルというものにはどのような種類が? もしやと思いますが先程の≪デジード≫のブレスを受けても平気だったのは……」


「察しがいいね、あれもこの防具のスキルさ。それで麻痺の状態異常を無効化したんだ」


「何とそのようなことが……些か奇妙な服だとは思っていましたがそんな秘密があったとは」


 しげしげと興味深そうに俺が身に纏った防具を見つめるエヴァンジェル。

 俺は奇妙な服と言われて内心で苦笑した。


 何せ今の俺はスーツに黒のコートを肩に羽織った姿なのだ。

 基本的には中世風のファンタジーな世界においてかなり目立つ服装だ。

 それというのも帝都におけるフォーマルな格好に関する知識がなかったため、それでもとりあえず公式の場に出てもギリギリセーフなデザインの防具を選び抜いた結果だ。


 コラボ企画での防具で複数の大型モンスターの部位素材と希少な植物アイテムで作ることが出来る。

 防具の名は≪The・Boss≫。

 等級としては中位防具で防御力については中位の平均のやや下だが、≪対属性防御値≫の高さと複数の状態異常無効化スキルが発動することが売りの防具だ。

 属性攻撃に対する耐性が高く、対応する属性の範囲の広さも多いので、物理攻撃より属性攻撃技の多いモンスター相手なら防御力の数値以上の粘り強さを見せ、そして麻痺、毒の状態異常無効化スキルがついてくるのでそれをメインに使う相手にも有効。

 割と汎用性に優れたコラボ産の防具で前世ではお世話になった代物だ。


 ――まあ、火力スキルは盛れないのが難点だけど……外に着ていくなら十分なはず。


 別に防具に縛られなければ普通に作って貰うなり何なり方法はあったのだろうが、心配性の俺としては≪グレイシア≫の外に出るというのに防具を着ないなんて怖くてできない。

 アンネリーゼと一緒に外に出るというなら尚更だ。


 そんなわけでガッチガチの鎧や奇をてらい過ぎた着ぐるみのようなデザインの防具など、色々なものを掻き分けて選んだのがこれだった。

 正直、俺自身はこれもだいぶ世界観とあってないデザインだとは思うのだが、≪The・Boss≫を着た姿を見たアンネリーゼが熱烈にプッシュしてきたので流されてしまったが、やはりエヴァンジェルの様子からすると奇抜ではあるらしい。


「ああ、いえ、奇妙とは言いましたが悪い意味ではなく……何というか良い意味で目立っている。華があると言いますか」


「そうですよね! アルマン様、似合っていますよね! 何時もカッコいいのに男前と渋みが上がって……アンネリーゼはとても良いと思います!」


 俺のそんな内心を察したのか慌てて言葉を重ねるエヴァンジェルに食い気味に同意するアンネリーゼ。

 二人の美少女に褒められて悪い気はしない。


「確かに見たことのない様式で驚きましたが、奇抜であるが何処か品のある意匠……。それに良質なモンスター素材をふんだんに使っているというのも特殊性があっていい。ロルツィング辺境伯領らしさ、特色が現れていますし、それに加えてその財力をアピールする手腕……」


 エヴァンジェルの目が感心したように「やりますね」と言っていた。


 希少なモンスター素材を使って服を作るなどというのは財が無ければ出来ないこと、特に輸送料がかかる帝都であれば尚更だ。

 その帝都で当然のように着こなすのは一種の示威行為にも匹敵するらしい。


 ――いや、ハッとするな我が母よ。モンスター素材を使って服を作ったんじゃなくて、単に服のような防具を選んだだけなの知ってるでしょ……。


 そこまで考えてないから。



「そして更にスキルという隠し玉……ふふっ、なるほどアルマン様。思った以上に――貴方ならば……」



 俺たちはそんな感じで雑談を交えながら、時にモンスターの群れに襲われるもその都度に撃退し砂漠を越え、そして目的地へと辿り着いた。


 そこは≪リース帝国≫。

 その中心である帝都。


 人類生存圏、唯一の帝国。

 千年帝国の都。



 帝都≪グラン・パレス≫へと――俺たちは辿り着いたのだった。



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