第四十九話:出港。天気、時々毒のブレスの雨
≪アジル砂漠≫
我がロルツィング辺境伯領と帝都を分断するかのように存在する地帯。
それは天高くから見下ろせば、砂漠地帯がまるで河のように北と南に延びて両地域を分断していた。
砂で覆われた地帯を横断するのは当然のように一苦労が必要となる。
単純に砂の大地は進みづらく、そして厄介なモンスターも多い。
強いというより、厄介というのがみそだ。
「《デジード》だ! 《ダ・ガーハ》も居るぞ! 気を付けろ!」
「畜生、こっちは相棒がやられた! 誰か《解毒草》を!」
「奴らの毒の吐息には気をつけろ! 身体が麻痺したり、体力を奪われるぞ!」
砂中を潜り、そしてある時はトビウオの如く空を飛び跳ね麻痺のブレスを放つマンタのようなモンスターの《デジード》、灰色の体表をしたコブラで霧状の毒をばら撒くモンスターの《ダ・ガーハ》、彼らは厄介とされる砂漠のモンスターのいい典型例だ。
「やはり、状態異常攻撃は厄介だな……」
俺は砂漠を征く船の上で右往左往しながらモンスター達に対処している船員を眺めながら呟いた。
そう、≪アジル砂漠≫のモンスターは状態異常を起こすモンスターが非常に多いのだ。
『Hunters Story』というゲームは、最初は森林にしか行けなくても順次行けるフィールドがストーリ進行によって開放されるシステム。
その中でも砂漠は森林の表層フィールドの次に序開放されるフィールドだ。
ゲームの意図を読むとすれば、表層でモンスターとの基礎的な戦いを覚えてそれからの応用編……という感じだろうか、多く配置されている。
――ここら辺から対策とかが必要になっていくんだよな。解毒用のアイテムを常備するなり、スキルで耐性を積むなり……そこら辺の重要性がわかってくる。耐性とか無効化にスキルを使うなら火力に盛った方がいいだろって、序盤は考えがちだけど実質的に生存用のスキルって火力スキルなんだなって理解するんだよな。
うんうんと俺は過去を懐かしむように頷いた。
「そっちに行ったぞ!」
「あっ、しまった! 抜かれた! そっちは……!?」
「馬鹿何をしてるんだ!」
そんなことをしていると周囲が不意に船員である帝都の狩人に攻撃を仕掛けていた≪デジード≫の一匹がこちらに向かって飛んできた。
いや、正確に言えば滑空に近い形で空中を滑るように突進してきたのだ。
どうやら、ヘイトがこっちに向いたらしい。
「に、逃げ……っ」
「問題ない」
船員の一人がこちらに向かって叫ぶが、俺はそう返すと無言で武具を構えた。
≪デジード≫は滑空しながら毒のブレスをこちらに向かって飛ばしてくるが、俺はそれを一切避けずに受け止めた。
衝撃は少ない。
主に状態異常にするのがメインで、ブレス自体にはそこまでの攻撃力は無いのだ。
そして、麻痺の状態異常付与も……。
――≪麻痺無効≫
防具のスキルによって弾かれる。
耐性増加ではなく、無効化のスキル。
俺には一切の影響はない。
「ッ!?」
マンタの表情なんて俺には読めないが、それでも動揺したような気配だけはわかった。
だからと言って俺に向かっての突進を容易には止めようがなく。
二閃一瞬。
腰にかけていた双剣を手に取ると同時に振り抜き、俺は≪デジード≫を十字に分割した。
大型モンスターでもない小型モンスター、しかも上位武具に≪カウンター≫が発生すればこんなものである。
どよめきが起こった。
「凄い、一撃で……」
「いや、というよりなんでブレスを真正面から受けたのに……」
ざわめきが起こった。
まるで信じられないものを見るかのような目、そして俺の剣閃の鋭さと威力に息を呑む畏怖の眼。
俺は後ろに顔をやって守った淑女たちの様子を伺った。
「大丈夫か、アンネリーゼ」
「は、はい! アルマン様のお力のお陰、この通り何ともこのアンネリーゼには怪我などありません!」
いつも通りのメイド服に身を包んだアンネリーゼは勢いよく喋り出す
そして、その眼はキラキラと輝いているように見えた。
≪ドグラ・マゴラ≫戦の件についてはそりゃもう危ないからと怒られたが、それこれとは別らしい。
当然のことだが狩人でもないアンネリーゼが俺の戦いの姿を見ることはない。
精々、練習の際に武具を振るっている時ぐらいだ。
だからこそ、危なげなく俺がモンスターを討伐し、その様子を驚きの眼で見ているこの状況が堪らないのだろう。
どうだ、私の息子は凄いんだぞ!
とでも言いたげなその顔は興奮によって赤みがしている。
可愛い。
まあ、それは当たり前の事実なのだから仕方がないのだが。
「エヴァンジェル殿も無事か?」
それはそれとして、俺もう一人の淑女の方にも話しかける。
「ああ、こちらもアルマン様のお陰で……大変、申し訳ない。客人であるアルマン様を働かせるなど……」
「なに、こんな事態だ。仕方がないさ。それにしても……運がなかったな」
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