第四十二話:新たなる狩人たちの萌芽


「まあ、評価をするなら……詰めを誤ったね」


「うぐぐ……」


「はい」


 俺は目の前でしょぼんとしながらもキチンと狩れた≪ザイード≫の死骸を解体する手を止めない二人に対し、成長したなと思いながらも監督役として見届けていた総評を述べていた。


「良いところまでは行っていたんだけどね。ふたりとも動きは見違えるように良くなった。≪見習い≫の時と雲泥の差だ」


「えへへ、そうですかね」


「ふん、当たり前だ。俺たちはもう≪銅級≫の狩人。一端の狩人だぜ」


「大型モンスターの狩猟許可が出ていない≪銅級≫の狩人だけどね」


「うぐぐ……っ!」


「一度、監督の下でキチンと大型モンスターを狩れて初めて許可が出る制度なんでしたっけ?」


「まあ、どれだけ準備をしても万全を期して挑んだとしても何が起こるかわからないのが狩猟だからな。特に相手が大型であるならそれも当然……とはいえ、最近ようやくできた制度だけどな」


「けっ、もっと早く来てればよかったぜ」


「もー、アレクセイ! あんなに無様に蹴り飛ばされておいて何言ってるの! まだ早いってことよ!」


「う、うるせえな! もうちょっとだったんだよ!」


「何がもうちょっとよ! アルマン様に見て貰えるからって張り切って……」


「ち、ちげーよ! この馬鹿! ブス!」


「はー?! なによ、口だけ男!」


「お前ら元気だなー」


 何時もながらの姦しいばかりの仲良く喧嘩しな状態のアレクセイとラシェル。

 だが、これまでの教育の成果かモンスターの解体、獲物の整備、アイテム確認などの確認手順に澱みはない。


 ――それはそれとして、ここはまだ森だからね? 俺が居るからって甘えているんだろうけど。


 騒がしく声を上げるものだから茂みの向こうや木々の奥から、何かの視線を俺は感じ取った。

 伺うだけで何かをして来ようとする様子はないようだが……。


 ――あとで注意をしておくか。


 それはそれとして俺は講評を続ける。


「はいはい、喧嘩はやめやめ。まずはラシェルだが、動きに関しては及第点だな。ボウガンを上手く扱えるようになったじゃないか。色々と難しい武具ではあるが、だからこそ刺さる時には刺さる。目もいいし、狙いの腕も中々良かったぞ?」


「はい! ありがとうございます! アルマン様が勧めてくれたお陰で……」


「俺は勧めただけさ。それを活かして使ったのはキミだ、ラシェル」


「は、はい!」


「状況判断も良かった。視界が広いのは射手として得難い能力だぞ。ただ、反面、近接は苦手のようだね。もう少し改善の余地がある。距離を詰める相手に対して捌けないと判断して、速やかに片手剣に移行した所までは良かったんだけど……まあ、攻撃に関してはお粗末だったけど防御は出来てたから、総合では及第点ってところかな。≪ザイード≫を手早く仕留めておけばアレクセイのフォローも出来たかもだけど……そこまでは流石に酷だからね」


「こ、これからも精進します! アルマン様!」


「うん、その意気だ。それからアレクセイの方だが……」


「…………」


 アレクセイは口をへの字に曲げて顔を伏せいている。

 怒られると思っているのだろう。

 まあ、事実であるがこれでも俺は領主として人の上に立つ立場の人間、褒めるべき点は褒めるのも大事だというのは弁えているつもりだ。


「中々に成長したな、堂に入った立ち回りだった。大型モンスターの相手は慣れるまでには時間がかかる。大きいというのはそれだけで威圧感がある……けど、それに怯えて思い切りを踏み込めないとダメージを与えられない。踏み込むべき時は踏み込み、引くべき時は直ぐに引く。その年でそのメリハリをつけた立ち回りが出来るのはそうは居ない。軽装槍のスタイルとしての基本の要訣をキチンと抑えた動きだったと思う」


「……へへっ」


「むむ~~っ」


 俺の言葉ににやけそうになっている表情を隠そうと努力しながら意味深にラシェルへと視線をやるアレクセイ。

 とはいえ、話は終わっていない。


「≪ドド・ザイード≫の動きもちゃんと研究して備えて有利に立ち回っていたのはよくやった。けど、最後の最後で油断したね。勝負を焦り過ぎた所をつかれたのは明確な失点だ」


「うぐっ」


「アレクセイが主導権を掴んで戦闘中も何度も上手く≪カウンター≫を決めていたからね。 わかるよ、気持ちよくなって≪カウンター≫を狙いに行ったんだよね?」


 うんうんと俺は腕組みをしながらアレクセイの気持ちに理解を示す。


 ――こっちが上手くペースを握っていい感じに≪カウンター≫も決めて、大ダメージを何度も出してると何というか脳内物質がドバドバ出るからね。ついつい、更に決めたくなっちゃうんだよね。


 ただ、まあ、それでバシバシと≪カウンター≫を連発できるのは『Hunters Story』でも一部の廃人とか呼ばれる人種だけだ。

 大抵の人間は不必要に狙いすぎて失敗し、モンスターからの反撃の連続攻撃を受けて乙ったり、無駄に狙いすぎて逆に討伐時間が伸びて本末転倒などが関の山だ。

 ≪カウンター≫は確かに手頃にダメージを増加させてくれるとはいえ、リスクもある行動というのは決して忘れてはいけない。


「要するに狙い過ぎるのも良くないよってことだね。逸る心を抑えるのも狩人の心得さ。実際、変に狙い過ぎずにあのまま逃がさずに削り切るなり、ラシェルが自由になって二人でかかればもっと万全だっただろうしね」


「だってさー、アレクセイぃ?」


「うぐぐ……っ」


「まっ、今日のところは我慢比べで≪ドド・ザイード≫が一枚上手だったってことで狩猟≪依頼クエスト≫は終了だ。お疲れ様、精進をするように」




「つ、次は失敗しねぇ!!」


「うん! 当然だよ、アレクセイ!」


「ああ、頑張れ! 応援してるよ」


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