第二章:帝都動乱編
第一幕:そうだ、帝都に行こう
第四十一話:七ヶ月の月日
≪
一時は街やロルツィング辺境伯領の存亡すら危ぶまれた一件。
それも過ぎ去ってしまえば過去のものでしかない。
我々は生きて行かねばならない。
そして、生きていくためには狩猟が必要となる。
単にモンスターの素材や肉の確保というだけでなく、森の中のモンスターを適度に狩ることで間引きすることは≪グレイシア≫への脅威の低下に繋がり、また狩猟で森に入ることで異変などに敏感に反応することが出来る。
それは≪災疫事変≫のような事態が発生した際に、貴重な対策や対応を練る時間を確保することにも繋がる。
≪グレイシア≫にとって狩人の狩猟というのは都市の存亡にも繋がる大事な仕事なのだ。
だからこそ、おおよそ≪災疫事変≫から森が落ち着きを見せたと判断されるとギルドは禁猟期間を撤廃し、狩猟≪
無論、環境が変わっている可能性を考慮して最初は上級狩人から許可が行われ、≪ゼドラム大森林≫に狩人が舞い戻ることになった。
そして、おおよその状態がわかると随時表層での≪
「そっちに一匹行ったぞ、ラシェル!」
「大丈夫! アレクセイはそのまま行って!」
ここにも狩猟≪
相対しているのは全長二メート半ほどの獣種に属する猿の大型モンスター≪ドド・ザイード≫。
橙色をした体毛の手長猿に似た姿のモンスターで小猿の群れと共に獲物を襲う統率型のモンスターだ。
金髪の少年のアレクセイと真正面から睨みあっているボスの個体の他に、周囲には四体ほどの小猿である≪ザイード≫が威嚇するように声を上げていた。
よく見れば近くに倒れ伏した≪ザイード≫の姿が三つあることがわかる。
群れの仲間を殺されて怒っているのだろう。
四匹の内の≪ザイード≫の一匹がアレクセイの後方に居る桃色の髪をしたラシェルへと飛び掛かったが、ラシェルはそれを危なげなく躱すと着地した瞬間を狙って手に持っていたボウガンの引き金を引いた。
放たれた矢はやや狙いからは逸れた箇所に命中したものの、≪カウンター≫には間に合ったのかダメージは増加し≪ザイード≫は苦悶の声を上げた。
「さあ、早く! あんまボウガンの矢も無いし、無くなったら私じゃ援護は出来ない。だから、今の内に!」
「わかってるって! 牽制は任せたからな! 見てろよ!」
そう言うとアレクセイは≪ドド・ザイード≫に向かって突進した。
全長は大型モンスターで言えば小柄で、しかも樹木を登って生活する生態から≪ドド・ザイード≫は全体的に言えば他の獣種に比べれば細身であるのは間違いない。
だが、少年であるアレクセイの身体の大きさとの対比でみれば十分に巨大だ。
それでも一切の躊躇なく、アレクセイは軽装槍を片手に距離を詰めていく。
武具種の中で槍には二つの種類が存在する。
盾とセットに扱う大型の重装槍と重装槍と比べて細身な槍のみの軽装槍の二つだ。
同じく槍という種類の武具でありながら、それらは性質は正反対と言ってもいい。
重装槍は頑丈な盾で攻撃を受け止め、大型の槍で痛烈な一撃を与えることを主眼にしたパワー型のスタイルであるのに対し、軽装槍は軽さとリーチを生かしたスピードとテクニカル型のスタイルだ。
色々と武具種は試したが、アレクセイにはこれが一番合っていた。
「いくぜぇ!」
――≪軽量化≫
防具のスキル効果によって一段と身体が軽く感じる。
重撃を好む狩人には好まれないスキルではあるが、アレクセイはこのスキルを好んでいた。
色々と試した結果、自分の武器というものが段々と最近は掴めてきた気がする。
身軽さこそが活かすべき長所なのだ。
タンタンっと、軽やかに≪ドド・ザイード≫への距離を詰める。
群れのボスを守ろうと周囲の≪ザイード≫たちも襲い掛かるがアレクセイはそれを軽くいなし、最短距離で≪ドド・ザイード≫へと向かう。
飛び掛かりが回避されて抜かれ、慌ててアレクセイの背後を狙おうとする≪ザイード≫たちだが……。
「――そこっ!」
それはラシェルのボウガンの射撃によって遮られてしまう。
――≪冷静沈着≫
スキル効果によって射撃武具を使う際の手ブレなどを補正された矢の一撃は中々に正確だ。
元から目がいい所もあり、更に少しどんくさい所があって斬り合い等を苦手としたラシェルにはこれがあっていた。
矢を使う都合上、ゲームでもない以上は有限になってしまうため常に残弾などに気をつけなければならない難しい取り扱いの武具ではある。
だが、やはり距離を取って攻撃が出来るというのは強い。
怒りに任せて近づいてくる二匹の≪ザイード≫、だがその内の一匹はラシェルに爪を向けることも出来ずに射殺されてしまう。
「キシャァァッ!」
群れの仲間がまた一匹死に絶えたことに怒りの咆哮をあげて、残った≪ザイード≫は飛び掛かる。
矢を装填するボウガンの機構上、どうしても連続での攻撃には限界というものがある。
ラシェルが再装填するまでの隙をついた形だ。
当然、矢が装填されていないボウガンなど何の役にも立たない。
『Hunters Story』ならば回避して距離を取って、隙をついて装填をし直して再度攻撃を行う所だが……。
「え、えーい!」
ラシェルは当然のようにボウガンを腰に直すと、同時に小盾と短めの片手剣を取り出して≪ザイード≫と戦った。
片手で振るわれる剣の軌道はややお粗末で危なっかしくもあるが、盾による自らの身体を守る防御の方は中々に上手い。
身軽で動きの速い≪ザイード≫相手にも翻弄されず、ちゃんと爪の攻撃を盾で受け止めている姿はだいぶ様になっている。
「これでどうだァ!」
「ぐぎゃァっ!?」
そして、それはアレクセイも一緒だった。
生来の気の強さから大型のモンスター相手にも怯まず、元来トリッキーな動きで相手を翻弄する≪ドド・ザイード≫相手に優位に戦いを運んでいた。
槍のリーチを活かし、そして身軽さを活かして相手をチクチクと削り、相手が大技を行えばその隙を正確に抉る。
それの繰り返し。
ここに来たばかりのアレクセイならば「地味だ」と言っていた戦い方、だが派手ではなくともそこにはモンスターとの精神の削り合いがあることをアレクセイは学んだ。
駆け引きというものを知ったのだ。
「へへへっ、ここらでちゃんと研究したんだぜ。お前の変則的な攻撃方法……。特に尻尾は思った以上に伸びて厄介だってな! だけど、ちゃんと気をつけていれば問題ねー! そろそろ、狩らしてもらうぜっ!」
ダメージを蓄積した≪ドド・ザイード≫の動きは鈍い。
ここが一気に勝負の決め所、そう勇んでアレクセイは苛烈に攻め立てる。
一撃、一撃は軽いとは言っても槍の穂先は≪ドド・ザイード≫の身体にしっかりと傷をつけていく。
堪らずに≪ドド・ザイード≫は身体を大きく沈みこませた。
「来たな!? それを待ってたぜ! 合わせて≪カウンター≫を決めてトドメを――」
それに反応するように強烈な一撃を放とうアレクセイは身をよじり、
「あちゃー」
「ぶげらっ!?」
「あ、アレクセイーー!?」
離れていた俺たちの声なんか届くはずも無く、体勢を咄嗟に捻って尻尾の攻撃ではなく≪ドド・ザイード≫のサマーソルト染みた蹴りによって、アレクセイは大きく吹き飛ばされ、アレクセイとラシェルの単独狩猟≪
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