第三十四話:放たれるは破龍の一撃


 ちょっとだけ『Hunters Story』の世界観設定の話をするならば、この世界には高度に発展していたであろう古代文明の存在が示唆されている。

 物語が進んで特殊なイベントが発生するとモンスターの支配領域の奥地に明らかに人工物の遺跡などがあったりもする。

 一応、この世界において唯一の人類国家は帝国であり、帝国の歴史には記されていない存在だ。


 なので帝国以前に存在していた先人類の文明の後なのか、あるいは帝国がその存在を何らかの理由で歴史から葬ったのか……公式が発表しないので、ファンの中では常に論争がある所だ。

 そんな設定があるためか、時々イベントで妙なアイテムなどが見つかる場合もある。

 ロルツィング辺境伯領はかつてはモンスターの支配領域だったためか、案外探すとそれらしい小さな遺跡のようなものが見つかるのだ。

 実は記録水晶もその一種らしいのだが、他には古代文明の存在を示唆する碑文が刻まれた謎の金属の板だったり、城壁兵器の強化に使えそうな古びた設計図だったり。



 そして、何よりも新たな武具種であったり。



 『Hunters Story』の初期の武具種は片手剣、大剣、長刀、双剣、重装槍、軽装槍、大斧、ハンマー、弓、ボウガンの計十一種のみだ。

 だが、あるイベント依頼クエストを行い、そこで得た設計図を鍛冶屋のゴースに渡すことで武具種をが出来る。

 本来ならばもっと先のイベントのはずでゲーム主人公プレイヤーにやって貰った方がいいとも思ったが、≪グレイシア≫の戦力強化を目的として早めに……。


 いや、嘘だ。

 単純に使って見たかっただけなのだ。


「――ォぉぉぉオオオ!」


 俺は身体を駆け巡る力。

 スキルの躍動を感じながら≪黒棺≫を起動する。

 内燃機関が唸り上げて解き放たれるのを今か今かと待ちわびる。

 猛りのままに俺は≪黒棺≫を変形させ、そして≪ドグラ・マゴラ≫の頭部にその切っ先を叩きこんだ。


 武具名≪黒棺≫。

 武具種名は≪龍槍砲≫という名称だ。

 かつて、古代文明において強大な力を持った≪龍種≫との戦いで使われたという兵器を、個人でも使えるようにスケールダウンした武具。

 まるで巨大な銃のような形態へと変化し、仕込んだ炸薬の力によって巨大な杭のような形状をした弾頭を叩きこむ武具。

 詰まる所、それ即ち、かつての世界において、



 パイルバンカー、と呼ばれる存在に酷似した武具だった。



「グるぁぁぁァアアっ!!」


 ≪黒棺≫の銃身、その巨大で鋭い先端が≪ドグラ・マゴラ≫の頭部に突き刺さった。

 スキルの恩恵によって増大した力によって叩き込まれ、≪ドグラ・マゴラ≫は悲鳴を上げた。

 だが、これで終わりではない。


 ≪龍槍砲≫はロマン武具としてネットでは有名だった。

 重装武具で動きの重い、ハンマーや大斧以上に機動力に難を持ち、杭を火薬で撃ち出すという性質上、ボウガンなどと一緒で攻撃した分は装填をしないと次の攻撃が行えないのだ。

 一応、銃身の後部に回転式弾倉が存在し、一度打つとバレルが回転して装填を行い射出状態を維持できるので、一度打つたびに再装填が必要なわけではないがそれでも狩猟中に装填中という隙を作る必要があるのは厳しいものがある。そこら辺はボウガンなども同じだが、≪龍槍砲≫の方が明らかに時間がかかるというのでお察しだ。


 だが、使い辛い過ぎる反面、その攻撃の単発火力において追随を許さない威力を持つ。

 相手のモンスターの耐性などまるで無視して杭を叩き込み大ダメージを与えることが出来るのはこの作戦において重要な要素だった。

 そして、何よりも……。


「これで……終わりだぁっ!!」


 確信がある。

 スキルの≪飛燕≫が発動し感覚が≪カウンター≫を成功させたことを教えてくれる。

 俺はその感覚に促されるようにトリガーを引き絞り、



 ≪黒棺≫は咆哮を上げた。 



 爆音を轟かせ、内部火薬が炸裂し装填された強大な杭が圧倒的推進力と共に打ち出された。

 煮えたぎる排気は降り注ぐ雨を蒸発させるかの如く熱く、その爆発の衝撃は使った本人の俺ですら吹き飛びかけるほどの暴威。

 限界の身体に凄まじい痛みが走るが知ったことかと踏みとどまり耐える。


 打ち出された杭は当然のことながら、突き刺さった≪ドグラ・マゴラ≫の頭部を食い破るように突き抜けていき……。



 ――だが、まだだ。



 間髪入れずに俺は≪龍槍砲≫を操作して全ての機能を解放した。


 『Hunters Story』の世界において武具種にはそれぞれ攻撃方法、技などがある。

 その中の一つであり、≪龍槍砲≫の技において最高威力の技。

 それこそが――


 ≪超火・廻天砲オーバーフロー・フルドライブ


 内燃機関が莫大な熱を放出し過剰駆動を実行。

 弾倉バレルが瞬間的に高速回転を行い、本来なら一発ずつ放れるはずの全ての杭が超高速で連射されて解き放たれた。

 それこそが≪超火・廻天砲オーバーフロー・フルドライブ≫、全弾発射フルバーストと称される攻撃の大技だ。

 超過駆動を起こした反動で冷却期間を挟まないといけないので連発は出来ないし、ミスをして攻撃を外した際は全弾を使い切っているので再装填するまでただの重荷でしかなくなるが、一発一発をちまちま打つよりも一度に叩きこめるこの技は火力に優れた≪龍槍砲≫の中でも更に単発火力に優れた技となる。


 そして、何よりもこの技には一つの特徴があった。


 技の仕様というか、テキストデータからすればこの技はあくまでも高速連射攻撃のはずであり、技の種類的に考えれば連撃系の技になるはずなのである。

 他の武具種にも色々とコマンドによる連撃系の技は存在するのだが、この≪龍槍砲≫の≪超火・廻天砲オーバーフロー・フルドライブ≫だけは扱いが異なっていた。


 連撃系の技というのはその名前の通りで複数回攻撃を行って総合火力を叩き出すのだがこれらの技はある種のスキルとは相性が悪くなる。

 所謂、常時補正がかかる≪餓狼≫はともかくとして、≪逆撃≫の自身がダメージを受けてから反撃で相手にダメージを与えた時にダメージを補正する効果、≪飛燕≫の≪カウンター≫発生時のダメージ量増加などは基本的には一撃にしかスキル効果の対象とならない。

 連撃系の技の場合だと、それこそ最初の一撃を与えた時点で効果が切れてしまうのだ。


 それ故に≪超火・廻天砲オーバーフロー・フルドライブ≫もあくまでそれらのスキル補正がかかるのは最初の杭の発射のみで、残りは≪餓狼≫による補正と弱点である頭部へのクリティカルダメージ補正だけのはず……なのだ、テキストデータからすれば。


 なのだが。

 ゲーム的なバグなのか、あるいは何らかの仕様なのか『Hunters Story』において≪超火・廻天砲オーバーフロー・フルドライブ≫はそれ自体が単体の技と処理されているらしい。


 単純に言ってしまえば初弾だけでなく、追加発射される弾倉分の杭の攻撃も含めて一つの攻撃とゲームのシステム上では処理が行われるのだ。


 ≪黒棺≫の弾倉バレルは六つ。

 初弾を除けば、追加発射が五つとなる。

 その五つの杭の発射全てにスキル効果が乗るということになる。

 つまり、単純に六倍のダメージとなるわけだ。


 スキル効果を盛りに持ってダメージ量を引き上げた単発火力最高の≪龍槍砲≫の攻撃を――更に六倍化。

 更に言えば≪黒棺≫自体が上位武具に部類される武器であり、元来ならば上位モンスターを相手に使われる武具だ。

 そして、≪ドグラ・マゴラ≫は≪龍種≫であり他の同位帯モンスター種と比べて耐性や体力が極めて高いとはいえ、分類上は特殊な中位個体とされている。


 つまりは――



「――一撃だ」



 放たれた六つの杭は寸分違わず、≪ドグラ・マゴラ≫の頭部へと突き刺さった。


 頭蓋を打ち砕き、

 脳漿と思しきものをぶちまけ、

 貫通し、


 そして、杭の中の火薬が起動し炸裂。

 爆発と同時に俺の視界は真っ白に染まった。

 



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