第十二話:≪白薔薇≫のレメディオス
「ちょ、ちょっと! アレクセイ、失礼でしょ! そんないきなり」
「あん? なんだよ、事実だろうが。さっさと狩人として登録して
「アレクセイ!」
「ふん、こっちはふんぞり返っても生活できるような貴族様とは違って、生活がかかってんだぞ。それなのに……」
目の前で二人の少年少女が言い争いをしている。
言い争いといってもアレクセイが敵意を剥き出しにこちらを睨みながら、苛立たしそうに呟いているのを顔を蒼くしながらフォローしようと慌てているだけだが。
「す、すいません! アルマン様! アレクセイは本当は悪い子じゃないんです。ただちょっと緊張してて気が立っているというかなんというか……っ!」
「おい、ラシェル!」
「と、ともかく、平にご容赦を!」
そう言って畏まったように深々と頭を下げるラシェル。
それも仕方ないことではあるだろう、俺個人としては対して気にはしないがまともな一般常識としてアレクセイの態度は貴族に向けるものではない。
内心はどうあれ、あんな風に敵意を剥き出しにした態度を取ればそれを理由に処罰をされても文句は言えないのだ。
しかも、俺は一応名義上は貴族の中でも上位に来る辺境伯という地位に居る。
仮に爵位の高さがわからなかったとしても、領主と名乗った相手にあの態度をされればラシェルが生きた心地にならないのは当然と言える。
とはいえ、大型モンスターに追い詰められた≪リードル≫のように怯えられるのは俺の精神衛生上よくない。
畏まられるのもどうにも慣れないのに、怯えられるのはさらにツライ。
しかも、相手が年端もいかない少女ならば尚更だ。
「いや、気にしなくていいよ。俺みたいな若輩が指導すると出てくれば不安にもなるのも当然だ。俺はあくまで補佐だよ。もう一人、現役の狩人が指導につくことになるから安心して欲しい」
「そ、そうなんですか……? いえ、そうじゃなくて……えっと……」
出来るだけ穏やかに話しかけてみた。
一先ず、怒ってないことは伝えることは出来たようだ。
ラシェルからはあからさまにホッとした雰囲気が伝わってくる。
「けっ! なら、そっちだけで十分だっつーの」
「アレクセイ!」
「貴族のお坊ちゃんから何を学べって言うんだよ! 俺は既に≪ボアズ≫だって狩ったことのある男だぞ!」
「いや、それってアレクセイの親父さんと一緒に……」
「うるせぇ! 俺は既に一人前にモンスターを狩れる男なんだ! 領主様だか何だか知らないけど、怪我する前に帰りなよ。アンタ程度に教わることは何一つねーんだからな!」
アレクセイの怒声が≪集会所≫に響いた。
一瞬静まりかえる≪集会所≫の中、蒼褪めて震えるラシェル。
空白の時間が少しだけ進んだかと思うと、次の瞬間――
「だはははっ!! アルマン様から何も学ぶことはねえってよ! 中々将来有望な新人だな、おい!!」
「ああ、全くだ! 是非ともこちらも教えを乞いたいものだな!」
「ふむ……あの態度から察するにやはり外の人間だろうな。少なくもロルツィング辺境伯領の生まれと育ちで、ああはなるまい」
「だろうな。そうじゃなければアルマン様にあの態度になりはしないだろうからな……」
「それにしても≪ボアズ≫を狩った……か」
「微笑ましいじゃないか。狩人はそれぐらい元気が良くなくてはな」
ワイワイとまるで酒の肴にするように騒ぎ立てる周囲に、アレクセイは混乱したかのように叫んだ。
「な、なんだよ……っ! ば、バカにしてるのか!?」
「アレクセイ、もうやめなって」
アレクセイは恐らく馬鹿にされたと判断したのだろう、顔を赤らめて口を大きく開いて叫ぼうとしている。
ラシェルがいい加減に止めようとしているが、興奮しているアレクセイには効果がないようだ。
俺の眼からすると良くも悪くも無鉄砲というか若いところが、狩人らしさというべきか微笑ましく受け入れられている感じなのだが……。
――さて、どうするべきか。
口を挟むべきなのだろうが、どうにもアレクセイは貴族という立場に色々と思う所がありそうな雰囲気だ。
今の興奮した状態の彼に俺が話しかけても拗れそうだな、とは思っているのだが放置するわけにはいかないだろう。
「少し、落ち着い――」
「はいはいはーい!! 注目ー!! ≪集会所≫でのトラブルは厳禁よー!!」
野太く、逞しいのに、どこか美しさを感じる声が喧騒を切り裂いた。
「はーい! 遅れてごめんなさいね、子猫ちゃんたち! 私ったらこれでも急いだつもりなんだけど、あらやだー! 私ってもしかして最後? 待たせちゃった? アルマン様もごめんあそばせ!」
「いや、集合時間には間に合ってる。問題ないよ」
「そう! それならよかったわ。では改めて自己紹介するわねー!」
現れた人物は高いテンションのまま、ポージングを取りつつアレクセイとラシェルに向けて告げる。
「我が名はレメディオス! ≪白薔薇≫の名を持つ金級狩人! ≪白薔薇≫のレメディオスとは私のこと!!」
身長およそ二メートル二十センチほどはあろうかという巨漢。
はち切れんばかりの上腕二頭筋の逞しさ、暴力的なまでの広背筋と僧帽筋が織りなす力強さ。
それらの魅力を余すところなく見せつけるように、妙に肌露出の多いデザインの防具を纏いながら、レメディオスは渾身のポーズを取った。
それこそは今のレメディオスが出せる最高の美。
自身の肉体美の極致まで引き上げ、新人狩人に対して歓迎の思いを伝える。
「今日はよろしくね! アレクセイちゃんにラシェルちゃん! 可愛い子猫ちゃんたち!!」
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