第7話 ソプラノ姫 天使の歌声
「はっ、ははっ、全くこんなのありかよ。」
もう無理だと悟ったかのようにカイは膝から崩れ落ち、ミサキも膝を震わしながら泣き顔になっていた。
「お前ら、一撃で楽にしてやる。そこから動くなよ。」
そういうと、鬼は金棒をゆっくりと振り上げた。
「ミサキ、頑張ったがここまでみたいだ。すまない。」
「グッ、ギュシュッ、うんㇴ、わだじだち、ごごまで、よぐがんばったよね。」
もう無理だと二人が諦めかけたその瞬間、横からとてつもない速さの飛び蹴りが鬼に炸裂した。そして二人を殺そうと金棒を担いでいた鬼は体がくの字に折れ曲がりそのまま横に吹き飛ばされた。
「おいおいおい、お前らそう簡単に諦めんなよ。死なれちゃ困るぜ、なんせ俺らが先に進めなくなるからな。」
髪は逆立ち上は裸、下は動きやすそうな半ズボンとボクシングシューズを履き、手にはボクサーグローブのようなものを付けた男性が鬼をそっちのけで話しかけてきた。
(俺ら?一人じゃないのか?)
「うんその通り、もう少し気合をみせて欲しいな。だって、あなたたちは強いもの。」
よく見ると更にその奥から、小さい姿の人影がこちらに近づいていた。そして姿が完全に見えたとき、それはまさしく小学生のような女の子だった。
(えっ、女の子?それにこの年齢かなり幼い。いや、それよりもあのリョウジですらワンパンされる程に鬼は強かった。なのになぜ彼女は生き残っている⁈そしてなんだあの馬鹿火力は。鬼が吹っ飛ばされたぞ。)
「き、君たちは一体、、、」
「ああ、俺たちか。俺は見ての通り戦士だ。前職はボクサー。そして隣のこいつが補助師。幼い割にはかなり強いぜ、例えば、、、」
ボクサーの男がそう言いかけた時、背後から密かに近づいてきた鬼が急襲を仕掛けたが、ボクサーはそれを察知するように即座に振り向き1,2回”ポンポン”と軽くジャンプしボクシングポーズを構えた。
「甘いんだよ。”裂空打”」
ジャブを連打するかような攻撃は鬼との間に空気の塊ができ、ジャブと同時に鬼に向かって勢いよく放たれていた。
「グッ、あぁぁ」
その威力はまさに弾丸級で鬼達は容易に吹き飛んだ
「チッ。話してるときに攻撃してくんな。」
だが、片方の鬼は膝をつき金棒を杖替わりに体を支え、少し後方で止まった。そして、そのまま攻撃に来るかと思っていたカイであったがそこから鬼はまるで襲ってくる様子はなかった。
「なんだ、あんなに好戦的だった鬼が全然攻撃してこないぞ。まさか鬼がビビっているのか?」
「いや、奴らはそんなタマじゃねえ。多分何かしらの考えがある。」
彼の予想は的中し、しかしそれは予想外の攻撃でもあった。なんと金棒を目の前に思い切り投げてきたのである。
「そんなもん効かねー、ぶっ壊してやる。」
そう言い放ち金棒のど真ん中にストレートパンチを当てると、金棒は粉々に粉砕された。だが、その陰からもう一体の先程飛び蹴りで吹き飛ばされた鬼が回り込み金棒を振りかぶった。
「さっきはよくもやってくれたな。お返ししてやりてーが、先にこっちだ!」
そういうと、鬼のスウィングが少女の方に向かった。
「危ない!」
そう叫ぶカイとは裏腹にいつの間にか手にマイクを構えていた少女は鬼に向かって綺麗なソプラノボイスを響かせた。
「ああぁあぁあぁ~」
その声はとても美しくまるで天使の歌声を聞いているかのようだった
「う、うぐっ」
しかし驚くべきことにその歌声は鬼をかなり苦しませた。まるで体の芯にまで響いているかのような震えを起こし、そして遂には鬼の方から後方へ退いた。
「な、なんだあのうるさい声は!」
「あの女、中々にうざい技をもっていやがる。くっ、奇襲が失敗した以上一斉に攻撃を仕掛けるぞ。あいつらとて所詮人間、もろい生き物だ。一撃でも当てれば勝機はあるぞ。」
「ちっ、三体同時に相手か流石に少しきついな。アイカ、あれを使え!」
「了解!一気に片付けちゃって、リュウ」
そういうと、少女は再び口元にマイクを近づけ、それと同時に鬼は3体ともこちらに向かって走り出した。
すると、今度は鬼に向いていた体をくるりとボクサーの方に向けて元気に歌いだした。
「運命の~」
「女神様よ~」
「このぼくに、ほほえんで、一度だけでもぉおぉぉ~」
ビブラートを利かした綺麗な歌声は彼女の周囲の空間にオレンジ色の波紋となって次々と響き渡り、その波紋がボクサーに触れた瞬間、今までの倍程のオーラが体から滲み出てきた。そして、ボクサーが鬼に向かって勢いよく地面を蹴るとそこにあった岩盤は衝撃で凹み、そしてジャブストレートの乱撃で次々と鬼を倒していった。
「ふふふっ、これが私の力よ。凄いでしょ?」
こちらを振り向いて、にこりと笑ったその顔はまさに天使のようだった。
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