第8話 情けは人の為ならず? 針山地獄の一日目

「私、前世で歌手をやっていたの。名前は如月きさらぎ 愛華あいか。聞いたことあるかな?」

「えっ、愛華って慈善活動で有名なあの?」

「そうその」

「全国を転々として、お金を払えない貧しい子や病院から出れない難病の子の為に態々現地まで足を運んで綺麗なソプラノボイスを生で聞かせてあげていたってニュースになってたよね確か。」

「あのソプラノ歌手がまさか地獄にくるなんて。」

「そう、私も最初びっくりしちゃった。何か悪いことしたのかなーって、でも閻魔様の言葉を聞いて納得しちゃったよ。確かに動物食べてたね。」

にっこりとした笑顔でそういう彼女はそれでも少し悲しそうな眼をしていた

「呼び方はアイカでいいよ。仲良くしようねお兄さん。」

「ああ、俺は大黒海斗、カイでいい。こっちはミサキだ。」

「よろしくアイカさん」

「あははっ、この年齢だからさん付けはちょっとね」

少し困り気味な笑顔でそう答えていたアイカの反応を見てミサキも微笑んだ

「確かにそうね、アイカちゃん。これはどう?」

「うん、ありがとうミサキさん!」

「うっううん、俺はリュウだよろしくな。」

ぐうの手を口元に近づけながら軽い咳払いをしたあと、横入りをするようにリュウは軽く挨拶をした

「それよりも二人とも普通じゃ有り得ない程強いけど、一体どれくらいの鬼を倒してるだ?」

「うーん、あたしたちが倒した鬼の数はここに来てから今ので5体目くらいかな?」

「な、なに⁈ほとんど倒してないじゃないか、何故そこまで強いんだ。」

「うん、なんでなんだろう、私たちもよくわかんないんだよねー。もっと屈強そうでもっと賢明そうな人はいっぱいいるのに、私たちの方が戦闘能力は高いみたいなの。」

「”透視”」

「へっ!何この能力値、レベルはほとんど変わらないのにほぼすべてのステータスが私たちよりかなり高い、ありえない。」

「ほう、お姉さん、あんた他の人のステータスが見えるのか。そりゃ便利だ。」

(俺たちは助けられたとはいっても、生き残ることはできているし鬼も倒せているステータスはそこまで低くはないはず。そう考えると俺らが低いというよりこの二人が高い可能性の方が考えられる。)

「リュウ、前世では何か良い事はしていたか?例えば、人助けとか。」

「ああ~これといって思い浮かぶ節はねえな。ただ、募金とかはかなり積極的にやっていたし、身近の人への気遣いなどはおこなっていたかもしれねえ。」

「なるほど、もしかするとこれは前世でのおこないによってもステータスの変動が起きている可能性がある。なるべく良いおこないをしていればしている程、地獄で生き残りやすいようにステータスが高めに設定されている。逆に、悪事を働いていればステータスは下がっていき、ある一定のラインを超えると鬼にさせられているのかも。」

「なるほどなあ、その説は一理ある。それにしてもお兄さん、あんた結構鋭いな頭が切れる奴は頼もしいぜ。」

「そうか、ありがとう」

すると針山の陰からひっそりと近づく影が徐々に姿を現してきた

「ほう、そうこう話しているうちにどうやら囲まれたみたいだな。やるか、アイカ」

「うんやるよ。あなたたちはなるべく攻撃の当たらない位置に逃げて。」

「いや、今度は俺も戦う。」

「えっうん、分かったじゃあいくよ。」

先程のように彼女は歌いだし、オレンジ色の波紋が四人の足元を通過した。すると、リュウ以外の二人にもステータス上昇の力が付与された。

「まさか、この効果一人だけじゃなかったのか。」

「そうだよー、私の半径5メートル以内で私が付与したいと思った人全員に効果が付与されるの。」

強力なスキルに驚いている自分の隣でリュウはボクシングポーズを取っていた


・・・


「ふう、とりあえず一通りは倒し終わったか。」

「かなり倒しやすくなってきたな」


『大黒海斗 レベル7』

 ・素人建設師(熟練度6)

 ・アビリティなし

 HP:4560 MP:2000

 攻撃:1070 守備:730 素早さ:450

 ・スキル 武器錬成(消費MP290)  建築(消費MP85)


「お、スキルが豆腐建築からただの建築に変わった。だが、建築師としての熟練度はまだそれほど高くないから多分そこまで自由度はないと思う。」

「お兄さん、かなり強くなったね。これからも一緒に頑張ろうね。」

「ああ、かなり頼もしいありがとう。ところで、アイカの能力値はどんな感じなんだ?」


『如月愛華 レベル10』

・素人補助師(熟練度8)

・アビリティ 付与範囲増加 付与継続時間上昇

HP:7830 MP:5030

攻撃: 1500 守備:2000 素早さ:800

・スキル 音波衝撃(消費MP300) 円伸声援歌えんしんせいえんか(消費MP450)


「と、まあこんな感じかなー」

「アビリティ持ち!しかも補助師なのに能力値もかなり高い。なるほど、これが前世でのおこないの恩恵か。だがあれだけのことを施していたんだ、この能力値は妥当なのかもな。」

「少しずるいわね~、同じ補助師でも私の能力値はこれよりもかなり低いわ。」


『大黒美咲 レベル5』

・素人補助師(熟練度3)

・アビリティなし

HP:3040 MP:3100

攻撃:430 守備:600 素早さ:240

・スキル 透視(消費MP100) 氷結(消費MP300)


「ミサキさんも十分強いと思うよ。あとは私たちのスキルの相性なんかも気になるねー。」

「そうだな、まあその辺は後々考えていけばいいんじゃないか。」

「そうだねー」

4人が情報整理を交えつつ会話をしているなか、鐘のような大きな音がまたもや地獄全土に鳴り響いた。その鐘の音と同時に鬼たちが奥の方に一斉引いていき、しばらくして静かな空間が再び訪れた。


・・・


「はぁ、一日目が終了したか。お前ら、いったいどれだけの人を殺した?」

「あ、お、俺はだ、だいたい100人ほどです、、、」

「わ、わたしは150人は殺したと思います、、、」

「ち、全然たりねーじゃねえか。お前らこれからたっぷりお仕置きだ、覚悟しておけ。」

「ひ、ひぃぃ、明日は、明日は必ず成果を上げて見せます!なので、お願いします!針山土下座だけは、どうか勘弁してくださあぁい!」

「ふっ、ふふ、泣きわめかれると逆にやりたくなってくるんだよなあ。」

ひときわ目立つ針山の頂上で足を組んで座っているその鬼はまるで死んで当たり前のような蔑んだ目で下にいる鬼たちを見下していた。

「ねえ千堂、他愛のない話はその辺にしておきましょう。それより、二日目からはこちら側に戦線が広がってくるわ、聞いた感じそこそこ強い人間が居るらしいけど何か策はあるの?」

「ああ心配ない、ちゃんと策は考えてある。ふふ、明日が楽しみだ。」

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