第6話 鬼に金棒 武器錬成の秘策

「弱っちィなぁおめえらぁ」

 一番強いリョウジが目の前で瞬殺され、残った我々は絶望の淵に突き落とされていた

(まずいどうすれば、このままでは全滅してしまう)

「”豆腐建築ビルド‼”」

死ぬと肌で感じた一瞬の出来事、脳での情報処理を上回る速さ、恐らくなぜそれを唱えたかを聞かれてもカイは”分からない”と答えるであろう。そのくらいの速さであった。

咄嗟にカイがそう唱えると、目の前の岩盤が大きな直方体型に隆起し、それは鬼の行く手を阻んだ。

「くそ、なんだぁこれは。邪魔くせーなぁ」

「おらぁ!」

鬼は金棒一振りでそれを粉々に破壊したが、もうすでにカイ達はそこに居なかった


「危ない、死ぬかと思った。取り敢えず隠れることには成功したな。」

3人は不規則に並んでいた針山の一つに咄嗟に身を潜めていた。周囲では鬼達の笑い声と人々の悲鳴が飛び交っていた。

「不味いわね。隠れることには成功したけど、このままでは見つかるのは時間の問題よ」

「確かにその通りだ、だから何としてでもあの鬼を倒す方法を見つけ出す。」

カイは打開策を思いつく為に必死で頭を回転させていたが、あのスピードと高火力を突破する手段は恐らくどのスキルを使っても困難であるだろうと感じていた。

「く、せめてもう一人ぐらい耐久力のある戦士がこの場に居てくれれば話が変わっていたかもしれないのに」

「ないものねだりをしてもしょうがないわ、兎に角使えるものなら何でも使って何としてでも切り抜けましょう。」

解決策が見つからず途方に暮れていたカイだったが、ふとミサキの言葉によって別の発想が浮かんだ。

(ん?そうか、別にスキルだけが全てじゃないのか)

 辺りを見渡すと、リョウジの胴体が刺さった針山の下に先程の衝撃で破壊され飛び散った針が複数転がっていた。

(あれは、もしかして針じゃないか?もし、自分の能力が武器を一時的に強化出来るものなら、、、)

「サブロウ、持っているスキルを教えてくれ」

「ぼ、僕のスキルは弓を2連続で放てる”二連射撃”と相手に当たりやすくなるとお、思われる”誘引射撃”です」

少し頭を捻ねり上を見上げながら考えを巡らせ、そしてカイはある結論を得た

「よし、この方法ならいけるかもしれない」

「あいつは針が痛いと叫んでいた、もしかすると針山の針が奴らの弱点かもしれない。だがこの針山はかなり鋭い、多分俺らも登ることは無理だ。よって、リョウジの刺さった針山周辺に落ちているあの針を拾いにいく。」

「本当ね、よく見ると針がいくつか散らばっているわ。でもカイ、拾いに行くといってもあの鬼を避けてあそこまで辿り着くことは可能なの?」

「ああ、一つだけ考えがある。」


「お前ら、其処にいたのかよぉ。自分から出てくるなんて死ぬ覚悟が出来たのかぁ?」

「いえ、あなたを倒す準備が出来たのよ。」

「そうかよ、じゃあ、、、やってみろやぁ!」

薄ら笑いを浮かべていた鬼の眉間に皺がより、怒りを露わにしたその表情はまさしく想像していた鬼の顔そのものであった。叫ぶと同時に地面を蹴り勢いよく近づいた鬼はリョウジを殺したときと同じように金棒を構え、今度は上から振り下ろすようにミサキの脳天を狙った。

「させるか!これでも喰らえ!」

そう言い放つと、カイは拾った小石を鬼の顔目掛けて思いっきり投げた

「ハハハ、そんな小石当たってところで痛くも痒くもないわ!」

「そうかよ、”豆腐建築”」

金棒が鬼の頭上に来た瞬間、小石は細長い直方体の形に変形しそれは鬼の目に突き刺さった

「うぅ、いってぇえええ~!てめえ、やりやがったなぁああ」

鬼は目に刺さった石をすぐさま取り除くと、血の流れ出る眼球を片手で抑え付け怒鳴り声をあげていた。

(やはりそうだ、このスキルは多分自身の触れた周囲の無機物を直方体の形に変形できる。)

「いまだ、行くぞ」

鬼が怯む一瞬の隙をついて針山の後ろから回り込み、リョウジの胴体がある所に着いた。そして、

「よし、それじゃあ、、、」


・・・


「あ~、見つけたぁ」

カイ達の背後からどす黒い負のオーラが漂っていた。

「はぁ、後ろにいたか。逃げる背を追うものかと思っていたのだがなぁ。お前らさっきのが俺を倒す作戦か?その程度じゃあ俺は死なねーぜ、雑魚が。残念だったな、これで終わりだ」

鬼の吐息交じりの声色は少量であっても損傷が与えられていることを物語っていた。それでも、致命傷には至っていない様子の鬼は話終えると同時に金棒を構え戦闘態勢に入った。カイもそれを見て咄嗟に攻撃に転じた。

「喰らえ」

だがそれは、先と同じように小石を投げることであり、

「馬鹿が、もう同じ手は喰らわねえよ」

そういうと鬼は軽く金棒で小石を打ち返し、不発に終わった。しかし、

「ああそうだろうな、だが今のはただの目くらましだ。サブロウ、今だ!」

「は、はい”誘引射撃!”」

瞬間、サブロウの放った矢が一直線で鬼に向かっていく。すぐさま察知した鬼は体を捻り矢を躱す。だが矢も鬼を追尾するように軌道をかえ、そして見事に鬼の胸部に命中したのだった。

「く、必中の技か何かだったか。だが、所詮は細い矢。その程度じゃ痛くも痒くも、、な、なに、い、いてえぇぇぇ!胸が、胸があああ!」

片目を瞑りそれでもまだ余裕そうな表情を見せていた鬼だったが、矢を受けた瞬間、唸り声をあげ始めそして遂には地面にのたうち回った。

「よし、成功だ!」

~5分前~

「よし、それじゃあ針を回収する」

「カイ針を回収して、これからどうするの。あの鬼、知性があるみたい。さっきの小石みたいに目の前で針を投げても上手くいくのかしら。」

「いや、多分同じ手は通用しない。だから、次はサブロウのスキルを使う。」

「サブロウ、矢を何本か貸してくれ」

「は、はい、”ボックス”」

4,5本の矢を空間から取り出すと、サブロウはそれをカイに渡した

「ありがとう、鬼は最初針が痛いと言っていた。これは予想だが、俺らが戦う前、多分ずっと奥にあるまだ辿り着くことの出来なかった場所で鬼達は拷問を受けていたのだと思う。そこから考えるに、この針に鬼達は多分耐性がない。その証拠に鬼は針山をなるべく避けて走っていた。だが、もしこのまま針を投げても絶対に躱される。そこで、」

「”武器錬成”」

そう唱えると、カイの持っていた矢と針が合成され、太い針金のような矢が出来上がった。

「よし、やっぱりだ!この武器錬成は恐らく武器や道具を合成することが出来るスキルだ。これを誘引射撃で奴に当てる。」

「でも、それは悪魔でも仮説でしょ。もし鬼に効かなかったらどうするの?」

「その時はその時だ。ここで死ぬのもまた運命だろう。」


「よし、成功だ!」

「か、かなり効いています!」

「サブロウ、油断するな相手は鬼だ。念のために四肢に矢を打ち込め。動きを完全に封じる。」

「わ、分かりました。”二連射撃”」

鬼の四肢に矢を命中させ、鬼はどすのきいた悲鳴をあげた。そしてカイはリョウジの近くに行くと落ちていたリョウジの両手オノを拾い、そして武器錬成で針と合成した。

「これで終わりだよ。俺らの作戦勝ちだ!」

そう言い放ち鬼の頭にオノを振り下ろすと、”グシャッ”という音を立てて顔面が地面にへばり付いた。

「倒したわ、私たちの勝ちよ!」

「や、やりましたーー!ぼ、僕たちあんなに強そうだった鬼を倒したんですね。」

「”ステータス”」

『大黒海斗 レベル3』

 ・素人建設師(熟練度3)

 ・アビリティなし

 HP:2750 MP:1950

 攻撃:800 守備:504 素早さ:423

 ・スキル 武器錬成(消費MP290)  豆腐建築(消費MP95)


「ああ、どうやらレベルも1から3に上がったようだ。よく見ると熟練度も向上している。熟練度が上がると消費MPが減少するのか。」

「ぼ、僕もレベルが上がりました。しかし、お、鬼の攻略法も発見できましたね。これでもう僕たちま、負けなしです!これから一緒に…」

「はっ、サ、サブロウ君、後ろっ、後ろ!!!」

「えっ?」

振り返ると、山影に潜んでいたのであろう鬼が突如として現れ、有無を言わさぬスピードでサブロウの頭を吹っ飛ばした。

「サブロ――!」

「くそ、もう一体いたのか。」

「一体?違うぜ」

更にその山影から二体の鬼が姿を現しゆっくりとカイ達の方に歩み寄ってきた。

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