第4話 等活地獄編 針山地獄で鬼対峙

 閻魔大王が話終えると同時に大王達は再び門の中に消え、入れ替わるように今度は本を持った悪魔が2体出てきた。悪魔は門の両端に立つと、だいたい数百人ずつの割合で門の中に人を入れていき入る前に何か説明をしているようだった。順当に中に入っていくのが殆どだったが中には泣き叫びながら横脇の溶岩に飛び込む者もいる。ここで死ねば地獄にいくことはないのだから当然だろう。そんな中俺は彼女のみを探していた。

「ミサキ、ミサキ!」

(ここには少なくとも数万は人が居る、さっきの話を考慮すれば一斉に集められるまで魂だけ違う空間を漂っていた可能性が高い。つまりもしかすれば、ミサキもこの場にいるかもしれない。)

 皆、また段々と騒めきだした頃、後ろの方から微かに聞きなれた声がした。

「カイー、カイ―」

 はっと後ろを振り向くと、そこには綺麗な黒い短髪、宝石のように輝く美しい瞳、透き通るような白い肌の彼女がそこにいた。

「ミ、ミサキ今そっちに向かう、そこで待っていてくれ!」

 大声で叫ぶその声はあまたの人波を掻き分けた。


「俺が死んだあと、一人で大丈夫だったか。今、かなりの人に押されてただろどこかケガはないか。」

「一気に質問されたら答えられないじゃない、私は大丈夫よ。それより、カイ随分と若いのね。あなた建築士としての才能はあったけれど、ベテランの建築士になったのはもう少し先じゃなかった?」

「ああ、それには俺もびっくりだよ。ここでは一番強い年齢に調整されているらしいが俺は大体30代前半になってる。これはつまり建築技術より力や体力を重視しているということなのだろう。そう考えれば、ミサキが20代なのも納得だ。」

「じゃあ、たまに見かけるご老人の方々は本当にその職に特化している可能性が高いのね。」

「ああ、相当なんだろう。」


 ミサキとの会話で状況を整理しながら門の方に進んでいき、いよいよ自分たちの番が近づいてきた。しばらくすると悪魔は少し羽ばたいて、門の周辺100メートル程を正方形に移動し、後方の人たちとの隔離をおこなった。

「ククク、お前ら少し周りを見渡してみろ。今近くに200人いる。地獄に一緒に向かう仲間達だ。等活地獄にはお前ら200人が同じ地点に着地する。仲間は大事にしろよ。じゃないと一瞬で全滅だぜ。クククク。じゃあな、生きてたらまた会おうぜ地獄でな。」

 悪魔は薄ら笑いを浮かべながら、門の中に次々人を押し込んでいく

(地獄はどんな場所なのだろうか。鬼達はどんな見た目なのだろうか。犯罪者とはいえ元は俺らと同じ人間、体格は一緒と考えていいのだろうか。)

カイは色々な事を考えながら歩いていた。

(恐怖心からくるものだろう。きっとミサキも地獄に行くのは心配なはずだ。)

「ミサキ、手をつなごう。200人とはいえ、離れる可能性がある。突然襲い掛られたとき、守ってあげられないと困るだろ。」

「ありがと。でも私も戦えるのよ?」

「まあ、そうだな。でも正直言うと手をつなぎたいんだ、一緒に入ろう」

「勿論」

 二人は手をつなぎながら、ゆっくりと門の中に入っていった。


 黒い霧に阻まれていた門の中に入ると、いったいどんな地獄が待ち受けているのかと身構えていたが、それは予想外の光景であった。

「お、鬼が居ない⁈これはいったいどういうことだ。」

 目の前は自分たち200人を除いて人っ子一人いない状態であった。そして見た目はマグマが光るひび割れた岩盤と触れると容易く体を傷つけそうな鋭い針が幾重にも生え重なる針山、その周辺に30センチ程の針が無数に生えていた。


「地獄というだけあってさすがに暑いな。取り敢えず、針には毒が塗られているかもしれないから触らないように気を付けて周辺の様子を少しずつ確認していこう。」

 ミサキにそう呼びかけると、ミサキは黙って頷いた。やはり他にも同じように考える人たちがいたらしく、いくつかのグループに分かれて散策がおこなわれた、自分たちの後ろにも何人かついてきている状態だった。

「本当に何もないな。鬼を倒すといってもいなければ倒しようがないじゃないか。いったいどうなってるんだ。」

 闇雲に探索していると後ろにいた少しだけ腹の出た人が突然話しかけてきた。

「ようお前さん、おりゃあリョウジってんだ。前世では漁師をやっていた。よろしくな。お前さんの名前は?」

「俺は大黒海斗、カイでいいよ。よろしく。」

「おう、カイ仲良くしよーや。いや~それにしてもなんか妙じゃねえか?鬼が全く居ねえってのもあるが、それより腹が全く減らねえんだ。俺はそろそろ腹が減ってきてもいい頃だと思うんだがな~」

「いわれてみれば俺もおなかは空いていない。ミサキはどうだ。」

「私もよ。もしかしたらここではおなかが空くや、トイレに行きたくなるといった生理現象は起きないのかもしれないわね。」

「それにさっきからなんかうめき声みてえのがあちこちから聞こえてこねえか。まるで鬼みてーなどすのきいたのがよ~」

「確かに、明らかに人でないうめき声が聞こえてくる。だが、かなり苦しんでいるような声だぞ。もしかすると鬼の声なのか?だとすれば先に来た奴らがもう討伐しているということか」

「その可能性もなくはねーが、それにしては鬼が弱すぎやしねーか。まだ、状況が呑み込めない以上なんとも言えねーな。」

「確かに、それもそうだな」

「あ、あの、、、」

「どしたお前さん。さっきから何一人でぶつぶつ言ってやがる。」

 後ろから、身長は150センチ、体重は40キロもいってなさそうな小さい青年が細々と話しかけてきた。

「じ、実はさっき発見したんですけど、ス、ステータスを見る方法があります。」

それを聞いた俺はすぐにその少年の方を振り返った

「何、本当か!どうやって見るんだ。」

 俺はその青年に尋ねた。説明のとき閻魔大王は、ステータスが存在することは説明していたがそのやり方までは教えてくれなかったからだ。

「ス、ステータスと、ステータスを見たいと思いながら唱えてください。すると、じ、自分の目の前に透き通った文字が浮かび上がってくるはずです。」

「”ステータス”」

「”ステータス”」

「”ステータス”」

 それぞれが、ステータスと唱えるなか

 カイの目の前には薄緑色に光る透き通った文字が浮かび上がってきた。

『大黒海斗 レベル1』

 ・素人建設師(熟練度1)

 ・アビリティなし

 HP:2350 MP:1500

 攻撃:753 守備:436 素早さ:370

 ・スキル 武器錬成(消費MP300)  豆腐建築(消費MP100)


「本当だ、自分のステータスが見れた。そういえば俺は今カジュアルな服しか着ていないが武器を装備すると攻撃力が増加したりするのか。」

「かもしれねーな。おりゃあ門をくぐると同時にでかいオノを背負った状態になっていて、攻撃力は1500ある。多分高い方だろう、役職が戦士ってこともあるだろうがやはり武器の影響が大きいんじゃねーか」

「そうかもしれないな。俺は役職が建設師で攻撃力はだいたい700くらいだ。ミサキはどうだ。」

「私は役職が補助師で攻撃力は432よ。因みにこの中の4人の中では私は下から2番目ね。」

「何?下から2番目だって?ミサキには他の人のステータスが見えるのか⁈」

「ええ、透視というスキルを使うと見れたわ。他の人のスキルを見る限り、各々の役職が特有のスキルを持っているみたいね。ただ透視ではその詳細については見ることが出来ないけれど。」

「なるほどーこりゃあおもしれえな。俺もスキルをバンバン使っていきてーところだが、生憎おれは元々のMPが少ないからやめとくぜ。」

「ところでそこのお兄さん。役職が戦士のわりに攻撃力は私より下だし、装備も剣やオノのようなものは持っていないみたいだけど、それは何故?」

「ぼ、僕は近接戦闘はと、得意ではありません。なので、ゆ、弓矢が支給されていいるのだと思います。」

「そうなのね、それでその弓矢はどこ?」

「”ボックス”」

 そう唱えると同時に青年の目の前には黒い渦のような空間が現れ、両手にストンと弓矢が落ちた。

「あ、アイテムはボックスという別空間にほ、保管できるようです。なので、装備をし、しまっておきました。」

「すごい!そんなことまで発見したの。あなた、かなり頭が良いのね。前世の職業はなに?」

「ぼ、僕はプログラマーでした。なので、状況を整理、展開することにそこそこ長けています。」

「つまり鬼に手持ちがばれることなく攻撃を仕掛けることができるということか。」

(まだ鬼の能力が分からないが、俺のスキルも使えないということはなさそうだし、もしかするとこれは余裕なのでは?)

「君、名前は?」

「ぼ、僕はサブロウです。よろしくお願いします。」

「ああ、サブロウよろしく!」

 我々4人は順調に仲を深めていき、そしてこれからスキルの詳細について把握しようとしているところだった。

「じゃあまずは俺のスキルにある『豆腐建築』ってやつを使ってみる。」

「スキル、豆腐建ち、、、」

 そう言いかけた瞬間、鐘のような大きな音が”ゴーン、ゴーン”と地獄全土に鳴り響き、そしてその大きな鐘の音がやむと同時に今度は今までしていたうめき声が完全になくなった。代わりに地響きのような全力で走る足音が奥の方から”ドタ、ドタ”と聞こえてくる。

「な、なんだこの音は。ま、まさか?!」

 少しすると砂煙と無数の黒い影が徐々に見えるようになってきた。砂煙でよく見えなかったが、その体格の違いと手に持つ金棒のようなものはそれが鬼であることを感じさせ,その速さは電光石火のごとく完全に認識できた時にはもうすでに我々との距離は目と鼻の先だった。

「ミサキ!あれは鬼だ!はやく、はやく透視を使え。」

「今使ってるわ。ちょっと待って。」

「見えた!、、、えっ、噓でしょ??」

「なんだ、はやく教えてくれ、ステータスはいくつなんだ。」

「に、逃げて、、逃げたほうがいい!」

「もう無理だ、すぐそこまで来ているこの4人で応戦しよう。」

「おう、俺も賛成だ。このメンツなら負ける気がしねーぜ。戦闘は俺に任せな。お前らは援護をよろしく頼むぜ」

 先頭の鬼がいち早く我々のところに向かい、後方の鬼は横に散らばって散策をおこなっていた他の連中のところに向かった。真っ赤な体に図体が2メートルはある巨体は金棒を振りかぶった状態でリョウジの目の前に中腰でスライディングした。

「痛てぇ、痛てぇヨォ~!!!その針は超絶痛てぇ。お前らもくらえよなぁ。」

 悲しげな顔で叫んでいた鬼の顔は、突然黄色い瞳を三日月のように細く輝かせ不敵な笑みを浮かべ始めた。そして振りかぶった金棒をリョウジ目掛けて勢いよくスウィングした。それと同時に

「スキル”楕円斬り”」

 リョウジはスキル発動。次の瞬間、全力で振り回した鬼の金棒とリョウジの両手オノが衝突し、衝撃で目の前が見えなくなる程の砂埃を巻き起こした。

「や、やったのか」

 少しの静寂がその空間に漂い、そして

「ヒ、ヒヒ・・・」

 砂埃が晴れてきた頃、中から不気味な笑い声した。完全に砂埃がなくなったときそこには、上半身が近くの針山に突き刺さり下半身だけが鬼の目の前に取り残された無惨な姿のリョウジが現れたのだった。

「おいおい、お前らに勝ち目はねぇんだよ~ヒヒヒヒ、ヒャッアヒャッアヒャッア!」

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