第2話 閻魔大王の存在

「こ、ここは一体何処なんだ?」

ゆっくりと起き上がり周囲の状況を確認するが、濃い霧によって周りが良く見えない。しかしそれでも、ここが少なくとも天国ではないということを肌で感じとっていた。それ程までに寒気がするようなどす黒い霧と、目の前にそびえたつ禍々しい大きな門の異様な雰囲気はすさまじかった。

「俺は前世で一体何をしたっていうんだ。くそ、ミサキすまない。」

そう吐き捨て、地面を思いっきり踏みつけた時に違和感に気づく。

「あれ?俺なんで普通に歩けてるんだ。というか、体の節々から痛みを感じない。もしかすると俺、若返ってる?」

そうつぶやくと同時に目の前の門が開き、中から3つの影がゆっくりと近づいてきた。朧げにしか見えないが、体の大きさは10メートル近くあるかなりの巨体だ。だが奴らの体の大きさよりも、その巨体にへばりつく様な異様なオーラとその迫力が俺の全身の血の気を引かせた。そのとてつもない存在感に驚いていると、

「うぅ、はっっっ!!」

突如真ん中の者が手に持つ小さな道具を持ち上げ空間全土に響き渡るような大声で叫んだ。すると、辺りを覆っていた黒い霧がみるみるうちに晴れていき、代わりに真っ赤な霧と息をするのも辛くなるような熱風が吹き込んできた。さらに、明るくなった目の前に現れたのは尺を持った鬼のような形相の者、牛のような体だが、二本足で立っていて両手には三叉槍を持っている者、そして顔つきは人に似ていて手には巻物を持った者であった。その3つの巨体の背後からまるで悲鳴をあげているような人型の像が門の中から無数に飛び出て幾度となく門にへばりついていった。いつの間にか自分の足場は岩盤のようなごつごつした岩でできていて、遥か後ろの方で溶岩が流れ出ていた。どうやらここは、溶岩に囲まれた岩盤の上だったようだ。

「ん⁈」

周囲の状況を確認するとさらに驚くべき状況だった。

「一体、何人がこの場所にいるんだ。」

おそらく、数万下手したら十万に届くような何故今まで自分は気づかなかったのかと疑問に思うぐらいの人数がこの場にいた。そして、周囲の人も自分と同じように混乱して辺りを見回しているようだった。

「注目!!」

状況を確認するや否や巻物を持った者が大声で叫ぶ。すると数秒間の沈黙が起こり、その後、真ん中の者が落ち着いた声、それでいて迫力のあるどすのきいた声で喋りだした。

「今の日本人はこのような日本語を使うのだな、実に面白い」

隣の巻物を見ながら、淡々と説明が始まった。

「我が名は閻魔大王、そして隣の者は我が従者の牛頭大王、司命である。お主らは今地獄の門の手前にいる。これから、お主らには地獄にいってもらう。」

「どういうことですか、私は何か悪いことをしたのでしょうか」

「俺は、地獄におちるほどの罪は何もしていない」

「これは何か間違ってます」

周りの人たちが不満を漏らし始めた。そしてまたざわざわし始めた頃、今度は閻魔大王本人が顔を更に赤くして怒鳴った。

「静まれ――!お前らは地獄におちるに充分値するようなことをしている。そもそも生まれてからどれ程の生き物を殺し、そして食べている。本来、一回でも生き物を殺したらお主らの地獄行きは決定するのだ。」

「そんなのどうしたって地獄行きを避けることが出来ないじゃないか!」

「そうだ、だから周りをみろ。お主以外にも数えきれない日本人がそこにおるであろう。」

「そんなのあんまりだ。我々はあくまでも生きる為に生活していただけなのに。」

「仮に俺らが地獄におちるとして、それなら殺人、窃盗などをした本当の罪人と区別されないのは不平等じゃないか。」

「ああそうだ、だが安心しろ、そやつらはここにはいない、そやつらはもうすでに地獄にいる。鬼としてな。」

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