地獄で鬼討伐・これぞまさしく地獄級

ワンダルピー

第1話 地獄にご案内

古来より、日本には地獄という概念が存在する。われら人間にとって地獄におちる様な人間は総じて悪人罪人に限られるという認識だ。それ故、友達に何か嫌なことをされると、「地獄におちろ~」と冗談交じりに言うことだってあるだろう。だがしかし、もしあなたが生きる為に普通の生活をしているならば、あなたたちの地獄行きは決定している。ここからのお話はそのような物語である。


「おーい、カイ休憩時間は終わったぞ、仕事戻ってこーい」

俺は大黒海斗25歳。いわれた仕事をテキパキこなす普通の建築士である。

「はーい、今行きまーす。ミサキまた後でな」

「うん!またね」

彼女は大黒美咲、俺はミサキと呼んでいる。いつもお弁当を作ってくれるのだが、今日はお弁当を家に置いてきてしまったので態々職場まで届けに来てくれたのだ。結局お昼休憩の時はずっとミサキと喋ってしまった。ミサキは家庭のことを頑張ってくれている俺の妻だ。付き合ってから一年で俺たちは結婚することとなった。とにかく俺とミサキは相性がとてもよく、一緒にいてとても楽しい。波長が合う故に俺からのプロポーズはノータイムでokだった。俺は寄り添いたいと思える条件として、相性の良さを第一に置いている。これは向こうも同じだったようだ。例えば、一緒にいても好きな食べ物、ゲーム、趣味など様々な要因において多少のずれが生じるとそれの積み重ねでほころびが生じる。そんな生活は時間が経てば嫌になるのは目に見えているであろう。ミサキとは自分でもびっくりするほど相性が良く、初めは向こうが自分に合わせてくれているのではないかと疑っていたレベルである。しかし、一年半前ミサキに映画を誘った時、どの映画が良いか聞くとそれが丁度自分にも興味があった映画であった。素直に自分もその映画を見に行きたかったと伝えると、その時にミサキから言われた一言が

「ねえ、もしかして私に合わせてくれてるの?」

というもので、彼女は自分と同じことを考えていて、別に気を使ってくれているわけでもなく単純に相性が良いのだ。と思った。その出来事以来、俺は彼女は俺のものにする、と心に誓ったのだった。


「カイ、今日も愛妻弁当か?本当に仲がいいんだな~お前らは。」

「ええ、いつまで経っても大好きですよ。」


結局俺の人生は多少の紆余曲折はあったものの何か犯罪行為が起きたとか、刑務所に入ったとかの問題は一切なく、時が経っていった。


齢85歳。私は今立って歩くことすらままならない状態で病室のベットにいる。50でベテラン建築士となって65で定年退職し、そこから更に10年後ベットで寝たきり、徐々に体の自由がきかなくなっていき、今ではもう看護師に面倒を見てもらっているという始末。

「はー、長い人生だったなあ。ただミサキと精一杯遊ぶには短い人生だった。」

「何言ってるの、私はいつでも何処でもあなたと一緒よ。今でも、夢でも、向こうでも。」

意識がゆっくりと遠のいていく。ミサキ、生まれ変わっても一緒にいよう。いや、私たちは天国でまた会える。たった一瞬のお別れさ。


大黒海斗 享年85歳


暫く何もない黒い空間を体が浮いているように漂っていた。しかしその後、急に重力が体をまとい始めるのを感じ、更に体全体が少しだけひんやりとした硬い何かに触れているのを感じ始めた。そして意識が段々と舞い戻る。

「ん?ここはどこだ?」

ゆっくりと瞼を持ち上げて周囲を確認する。


俺は霧で覆われた薄暗い所に倒れていた。

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