貝渚ロイネ 4月――船橋オゾンモールにて1
オゾンモールは相変わらず、膨張を続けていた。
オゾンモールとは、国内最大規模の流通大手であった「オゾン株式会社」が、母体となる巨大ショッピングモール群の事である。広大な土地に多種多様、数百の店舗を構え、美術館、映画館、競技場、アミューズメント、スポーツジム、スパ、プールなどの娯楽施設だけではなく、公園、図書館、郵便、学校、病院などなどの公共機関。果てには、モール周辺の電気、ガス、通信、交通インフラまでの管理、運営を行い、都会から校外にある地方都市だけではなく、過疎化の進んだ小さな市町村や離島にまで、その過剰なインフラ整備(キコ曰く、インフラストラクチャーと呼ぶらしい)が及んだ。
日本中どこに行っても、電車や車で降りても、同じような光景が、同じような店が、同じような看板が並び、住人たちはどこも同じように依存しているその光景は、「オゾンモール化」と呼ばれ、当時かなり揶揄されていたのを、アーカイブの雑誌で読んだ事がある。
「おかしいよキコ……前に、ここら辺に入り口があったんだけどなあ……」
「以前来たときは、東成線の線路は越えてなかったからな……ちょっと、遠回りになるかも」
大崩壊後、オゾンモールの管理、統括を行うAIも、当然の事ながら制御を失った。その結果、オゾンモール内部のインフラ整備を行うキカイが突如、自らの所属するオゾンモールの拡張、補強工事を開始し、その結果、未だに、この巨大な建造物は、増改築を繰り返すグロテスクな城のようになったのだ。
「入口ならいっぱいあるのにね……」
「お勧めはしないぜ、一歩でもあの扉の向こうに入ってみろ。『退店処理』という名の穴あきチーズか、バラバラに切断されて、狂ったキカイどもに生きたまま実験体にされるのがオチだ」
「ひえー」
オゾンモールの外壁を歩く度、百メートル間隔で、昔ながらの、オーソドックスな両開きの自動ドアが点在しているが、あのドアを通った瞬間、オゾンモールからの入店審査が入り、非オゾンモール会員以外は入店お断りになっている。私たちの携帯端末には、オゾンモールのポイントを保持しているにも関わらず、ネットワークそのものが崩壊し、孤立無援状態となったオゾンモールのAIは、私たち人間を違法な方法でポイントを保持している違反者……悪くいえば、敵であると認識しているのかもしれない。
「あった……あった……ちゃんと仕事しろよな、ポンコツキカイがよ」
正面から入るなら駄目ならば、私たち探索者は、「サボり蟻の抜け穴」と呼ばれる欠陥工事の痕跡が残る隙間や、換気口の穴を狙い、オゾンモール内へ侵入するしかなかった。
「銃をいつでも撃てるようにしとけよ」
キコは自動小銃の弾を確認していたので、私もすぐ撃てるように、自分が持つ拳銃のコック&ロックを行った。
「覚悟はいいか?」
私は無言で頷き、キコと一緒に、暗い穴の中にへと進んだ。そういえば、「モール」って英語、モグラっていう意味でもあるなと、ふと思いながら。
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