第2話 半年ぶり
その日から私は取りつかれたように‟セックスレス”についてのネット記事を読み漁った。
しばらくすると、私はその中で何度か出てきた“セラピスト”という言葉に段々と興味が湧き始めてしまった。
「セラピストって、女性用風俗だよね……? いや、ないない!」
そう言って私は携帯を伏せて置いた。しばらくその場から離れ、戻って来てその記事をまた開く。ここ最近この繰り返しだ。
都会ならこういうことはある程度認知されているかもしれないが、こんな地方住民にとって女性用風俗なんて認められるようなものではない。もし誰かにバレてしまえば、瞬く間に‟淫乱女”と名付けられ後ろ指を指されること間違いなしだ。
こんなのに頼らずとも私には愛する夫がいるではないか。まずは夫とのセックスレスを解消するよう努力をするべきだ。
私は休みを利用し、自分に割り振っているお小遣いでフェイスマッサージを受け、新しい下着を買った。
そしてその週末。
私は子どもたちを素早く寝かせると、夫に『久しぶりに一緒に晩酌をしないか?』と誘い、二人きりの時間を確保することに成功した。
ソファーに横並びに座り、テレビを見ながら一緒にグラスを傾ける。まるで結婚したての頃に戻ったみたいだ。
あの頃のように夫に寄り掛かってみる。すると夫は私の肩に腕を回した。腕枕のようなその姿勢に私の期待は膨らむ。
夫は自分に向けられた熱っぽい視線に気づくと、私のおでこに軽くキスをした。‟これはイケる!”と思った次の瞬間、夫が背伸びをして『そろそろ寝るね!』と笑顔で言った。
「……えっ? 続きしないの?」
私の声は震えていた。
「え? この間『しなくても大丈夫』って言ったじゃん。あっ、もしかして俺のこと気遣ってくれたの? ありがとうね」
夫は自分が見当違いなことを言っていることに全く気付いていない。私の怒りは頂点に達した。
「違う! あなたは『しなくても大丈夫』かもしれないけど、私はしたいの!」
「でも俺は、週末だから本当にゆっくり寝たいんだ。それに、子作りに励んでる夫婦でもないんだからそんな必死にならなくてもいいじゃん」
夫にはどうしても私の必死さが伝わらないようだ。私は最後の手段に出た。
「私、このまま一生できなくなるのなら、他の男の人としちゃうかもよ? いいの?」
私の挑戦的な言葉に夫は怒りの色を隠せない。
「そこまでしたいの?」
「……そうだよ」
「じゃあ、分かった」
そう言うと夫は私をソファーに押し倒し、無理矢理に抱いた。雰囲気なんてあったもんじゃない。夫は私の服を途中まで脱がし必要最低限の所だけ繋がると、あっという間に行為を終わらせた。
「ちゃんといかせたし、これで満足でしょ? じゃあ俺、寝るね」
ソファーに取り残された私はノロノロと起き上がるとシャワーを浴びにバスルームへ向かった。そして、夫にバレないようシャワーの水量を最大にし、口を手で押さえむせび泣いた。
半年ぶりに抱かれた結果は、悲しみしか残らなかった……。
そしてその一週間後。私の姿は、住んでいる場所から遠く離れた街角にあった。
平日に有給休暇を取り、いつも通りに夫と子どもを送り出すと、普段着ないようなワンピースを身にまとい待ち合わせ場所に立つ。時計を見ながらソワソワして待っていると、私の仮の名を呼ぶ人が近づいてきた。
夫にあんな風に抱かれたことで何か糸が切れたのか、ついに私は‟セラピスト”なるものに手を出してしまったのだ。
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