七色日記

@husama

10月5日

揺れる電車の中で、少し大きめのため息をついた。

手に持ったスマホには新しい通知を知らせるメッセージが表示されている。

夏の終わりと共に溜まっていたいくつかの物件が堰を切ったように一斉に動き始め、その流れに飲まれるようにここ数日間はせわしない日々を送っている

「今日は何時までかかるだろうか」

車窓の奥に立ち並ぶビル群にかかげられたたくさんの宣伝文が、つぎからつぎへとながれてくる。最近は日が暮れるのもずいぶんと早くなり、気がつく頃にはまちの輪郭は黒で縁取られてしまっていて、看板の文字達もまるで夜の中に吸い込まれているように思えてしまう。

もう10月なのだ。

1年ってあっという間だなぁ、なんて毎年思っている事だが、20代も後半に差し掛かってからは本当に短く感じてしまう。

秋という季節はなんだか切ない。浮かれた夏が終わり、それぞれが1年間の総清算を前に、やっていなかったことを突きつけられ、残りのクオーターをどうすごすのかを問われているように思える。

はぁ。

ふたたびため息をつくと、ふと鼻に嗅ぎ覚えのある香りを感じたことに気付く。

なんだろう?これは、と周りを見渡すと、正面に座る老夫婦の手元に収まる小さな紙袋と、そこに描かれたこんがりと焼かれたイモのイラストが目に入った。

そっか、もうそんな季節なのか。

また新しく通知の届いたスマートフォンをズボンのポケットにしまい、そっと窓の外を眺めた。帰りにスーパーに寄れば、巨峰かなにかだけでも売っているだろうか。

たかが3ヶ月。されど3ヶ月。

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