第73話 楽しい〈スキルリセットポーション〉
リロイのおかげで〈ヒーラー〉へ転職することができるようになったので、ほっと胸を撫で下ろした。クエスト内容も、ありがたいことに難易度はそこまで高くない。
……というか、〈牧場の村〉のこの人って……。
私がクエストウィンドウを見ていたのが気になったらしく、ケントが「シャロン? 何か見えてるのか?」と声をかけてきた。
「ああ、ごめん。私の〈ヒーラー〉への転職クエストが進んでるから、その情報を見てたの」
「そうだったのか。確か、この国で回復を必要としてる人に支援をする……だったか?」
「そうそう」
私は頷いて、じっとケントを見る。この〈牧場の村〉のモリーは、ケントの母親だったはずだ。以前立ち寄った際に、ケントの話をしたので覚えている。
このクエストの対象になる人は、大抵軽い怪我をしているだけで、命に別状があるようなことはない。とはいっても、クエスト対象が自分の母親だと言われたら不安にもなるよね。どうしよう、伝えた方がいいだろうか? 私が考えこんでいると、ケントが「シャロン?」と私の名前を読んだ。
「そんな難しそうなクエストなのか?」
「あー、いや、大丈夫だよ。その……モリーさんの名前があったから」
考えた結果、私は伝えることにした。ケントは後でモリーさんから聞くことになるかもしれないので、それなら言ってしまった方がいいだろう。
すると、ケントとココアが「あっ!」と声をあげた。
「そういえば、母さん仕事中に足を捻ったって言ってたな」
「歩けないほどじゃないからって、特に気にしてはいないみたいだったけど……」
「なら、その怪我を私が癒してあげたらよさそうだね」
捻挫あたりだろうか。あまり深刻そうでなくてよかった。
転職の話はこれくらいにして、私はタルトに合図をする。実はお願いしていたアイテムがあるのだ。
「はいですにゃ」
タルトはテーブルの上に、人数分の〈スキルリセットポーション〉を並べた。
「これは……?」
リロイを始め、全員が見慣れない瓶に視線を向けた。タルトがそれを全員に配る。私とタルトはすでにスキルは調整しているので、地獄の苦しみを味わう必要はない。
「これは〈スキルリセットポーション〉ですにゃ。飲むと、今まで取得していたスキルがすべてリセットしますにゃ」
「「「――っ!」」」
全員が驚愕で目を見開いた。今まで自動で取得させられていたスキルを自身で振り直せるのだから、そのすごさは言わずもがな。
「それぞれどんなスキルを取りたいかよく考えてから、再取得してください。とはいえティーのスキルはわからないことも多いから……大変ではあるけど、何度かやりなおししてもいいかもしれないね」
私はそう言いつつも、ただ素材が手に入りづらかったりするのであまり数は用意できないことだけ伝えておく。もちろん、素材を手に入れて来てくれたらタルトが喜んで〈製薬〉してくれるだろうけどね。
みんな真剣な表情で〈スキルリセットポーション〉を手にしている。
「……まずは私が飲んでもいいですか?」
「もちろん」
一番に名乗り上げたのは、ブリッツだ。
〈スキルリセットポーション〉の蓋を開けて、匂いをかいでから……一気に飲み干して――盛大にむせた。
「んぐっ、ふっ……!」
「ああああっ、頑張って飲んで下さい!!」
吐き出すなんてもったいない! 私はうずくまるブリッツの横にしゃがんで、「一気に飲み込んでください!!」とエールを送る。
「……っ、はぁ、はぁ、はっ……。こんなすごいものは、初めて口にしました……」
遠い目をしているブリッツを、口元に手を当ててドン引きしているリロイが見ている。残念ですがあなたも飲むんですよ、リロイさん。ミモザはブリッツに水を用意してあげていて、ティティア、ケント、ココアはこれから自分が飲むことを想像して青い顔をしている。
水を飲み干したブリッツはミモザに礼を述べて、〈冒険の腕輪〉を使った。
「本当にスキルがリセットされています!!」
「すげぇ……!」
ブリッツの声に、ケントが瞳をワクワクさせた。ケントは先輩冒険者たちからよく話を聞いている勉強家なので、きっと取得したいスキルもほぼ決まっているのだろう。
「次は俺が飲みたい!」
ケントが勢いよく手を上げて立候補したが、別に全員一緒に飲んでも構わないんだけど……。私は苦笑しつつも頷いた。
そして一気に飲み込んだケントも撃沈した。
ここまでいい反応をしてくれると、ちょっと楽しくなってくるね。私はによっと笑って、リロイに話しかける。
「やっぱり次はリロイの番じゃないですか?」
ティティアをティーと呼んでいるのに、リロイにだけ様をつけるのもあれなので、勝手に呼び捨てることにしてみた。が、リロイは特に気にするようすもなく、「仕方ないですね」と言って〈スキルリセットポーション〉を一気に飲み干した。
そしてすぐ、〈冒険の腕輪〉で自分のスキル画面を確認したようだ。
「間違いなく、すべてのスキルがリセットされていますね」
「……それはよかったです」
真顔で一気に飲み干したリロイは、もしかしたら味覚がおかしいのかもしれない。別に詰まんない反応だなんて思ってはいない。
その後はまずさに悲鳴を上げつつ女性陣が飲み終え、スキルの取得タイムになった。私はユニーク職の〈教皇〉以外はすべて把握しているので、覚醒職を視野に入れたうえでスキル取得の相談に乗った。
ケントはパーティで戦闘することを前提に、壁として戦える前衛のスキルに。ココアはケントと二人でパーティをするときのことも考え、攻撃スキルを取りつつ転職後は多少の支援スキルも使えるようになりたいらしい。いいバランスだと思う。
ブリッツは防御を重視しつつ、一撃必殺の重い攻撃スキルを。その分、ミモザは複数の攻撃スキルを取得した。
リロイはティティアの側に仕えるということを考え、支援はもちろんだが、多少の攻撃手段も選択したらしい。何かあったとき、絶対にティティアを守るという気持ちがよくわかる。
結構いい感じになったのではないかと思う。
ケント
レベル:44
職業:剣士
スキル
〈自己治癒力向上〉:自身の体力自然治癒力が向上する
〈体力増加〉レベル10:自身の体力が向上する
〈防御力増加〉レベル10:自身の防御力が向上する
〈挑発〉レベル5:モンスターのヘイトを自身に向ける
〈不動の支配者〉レベル3:30秒間、自身に向けられたすべての攻撃を無効化する
〈猫だまし〉:相手が一瞬ひるむ
〈一撃必殺〉レベル10:敵一体に強力な攻撃を与える
〈
ココア
レベル:44
職業:魔法使い
スキル
〈自己マナ回復力向上〉:自身のマナ自然治癒力が向上する
〈魔法攻撃力向上〉レベル10:自身の魔法攻撃力が向上する
〈ファイアーアロー〉レベル5:炎の矢を作り攻撃する
〈ファイアーボール〉レベル10:炎の弾を作り攻撃する
〈
〈ウォーターアロー〉レベル5:水の矢を作り攻撃する
〈
〈
ブリッツ
レベル:43
職業:聖騎士
スキル
〈教皇への誓い〉:教皇に逆らうことができない
〈体力増加〉レベル3:自身の体力が向上する
〈攻撃力増加〉レベル3:自身の攻撃力が向上する
〈防御力増加〉レベル3:自身の防御力が向上する
〈教皇の使徒〉レベル5:自身のすべての能力が向上する
〈裁きの代行者〉レベル5:使用するのに1分間のタメが必要。自身の次の攻撃力を3倍にする。
〈
〈
〈
ミモザ
レベル:42
職業:聖騎士
スキル
〈教皇への誓い〉:教皇に逆らうことができない
〈体力増加〉レベル3:自身の体力が向上する
〈攻撃力増加〉レベル7:自身の攻撃力が向上する
〈防御力増加〉レベル3:自身の防御力が向上する
〈教皇の使徒〉レベル5:自身のすべての能力が向上する
〈
〈女神の一閃〉レベル10:眼前にいる複数の対象を攻撃する
〈
リロイ
レベル:47
職業:ヒーラー
称号
教皇の僕:回復スキルの効果 3%増加
スキル
〈祝福の光〉:綺麗な水と〈空のポーション瓶〉×1で〈聖水〉を作れる
〈ヒール〉レベル5:一人を回復する
〈ハイヒール〉レベル5:一人を回復する
〈完全回復〉レベル5:自身の50%の体力とすべてのマナを捧げ相手の体力とマナを完全回復させる
〈マナレーション〉レベル5:30秒毎にマナを回復する
〈身体強化〉レベル10:身体能力(攻撃力、防御力、素早さ)が向上する
〈女神の一撃〉:次に与える攻撃力が二倍になる
〈女神の守護〉レベル5:バリアを張る
〈キュア〉:状態異常を回復する
〈鉄槌〉レベル5:対象に十字架が落ち、魔法ダメージを与える
〈女神の鉄槌〉レベル4:対象に女神の十字架が落ち、魔法ダメージを与える
「残るはティーのスキルだけど……私も明確にこのスキルを取った方がいいとはアドバイスできないんだ。知らないスキルばかりだから」
「はい」
私の言葉に、ティティアは真剣な表情で頷いた。
「もう少し考えてみます。……タルトに〈スキルリセットポーション〉の予備ももらったので、いろいろなスキルを試したいと思います」
そう言ったティティアは不味さを思い出したらしく苦い顔をしていたけれど、私は「それがいいと思うよ」と全力で同意しておいた。
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