どう考えても俺の召喚魔術だけ使い方がおかしい件~自分の身体に『幻獣の魂』を召喚して戦う固有スキルが最強だったので、最速で英雄への道を駆け上がります!
第35話 『魔導王朝遺跡攻略⑦ vsケルベロス 下』
第35話 『魔導王朝遺跡攻略⑦ vsケルベロス 下』
「――《水槍》ッ!」
――ヴヴンッ!
『ガウウッ!』
タイミングと方向をバラバラに放つ水の槍を、ケルベロスは異様な反応速度と敏捷性で躱してみせる。
『ガウッ!』
「おっと」
どぷん!
お返しとばかりに、ケルベロスが広間の壁を蹴り不規則な軌道で俺に襲いかかってきた。だがそれは予測済みだ。
ケルベロスの振り回した剛腕が俺の展開した水の壁に阻まれる。
とはいえ、防御だけではヤツを倒せない。
「くっ……早い」
ソーニャの剣は迅い。そして凄まじい手数だ。
それをケルベロスは驚異的な反応速度で躱してみせる。
もちろん、多少は手傷を負わせている。
だがそれは、蒼炎が放つ超高温がヤツの肌をわずかに焦がしているだけだ。
そしてそれは、俺の《水槍》も同様だった。
超高圧の水がケルベロスの黒い毛並みを切り裂いてはいるが、肉を穿つには至らない。
このままだと埒が明かない。
完全に膠着状態だった。
もちろん、このまま攻撃を続けていればどこかの機会で致命傷を与える可能性はある。だが、それがいつかと言われると、かなり時間がかかりそうだった。
そうなると、うしろで見物を決め込んでいるカールの動向が気になる。
そもそもアイツがここに来た目的が分からない。
フェンリルを魔石に変えたのは、どうやら俺たちがその目的を達成するのに邪魔だと判断したからだ。
何かの目的のために、時間稼ぎをしている可能性が高かった。
それを考えれば、やはり短期決戦に持ち込む必要がある。
直接攻撃での致命打は難しい。
となれば、俺に打てる手は何かないか。
そう思って周囲を見回す。
そして気づく。
……これだ。
「何かいい手が思い浮かんだ?」
戦いながらも、ソーニャは俺の様子を伺う余裕があるようだ。
ケルベロスの猛攻をしのぎつつ、ソーニャが訊いてくる。
「ああ」
「準備ができたら合図を送って。タイミングは任せる」
説明も聞かず、ソーニャが戦闘を続行している。
完全に俺を信頼しているらしい。
もっとも、支援役の俺がやることは決まっている。
つまりケルベロスの隙を作ることだ。
『お主よ、あのバレットとかいう男がフェンリルの魂を得て変化した魔物は強力じゃぞ?』
彼女の支援を行いつつ準備を進めていると、ポーチの中から少しだけ頭を出し、『節約モード』状態のウンディーネが話しかけてくる。
「ドリアードの力はまだ使ってない」
『むう……確かにそうじゃが、あやつの力は戦闘向きとはいいがたいぞ?』
彼女の懸念はもっともだ。
ドリア―ドの力はどれも近接戦闘向きではない。
発動が遅く、発動後の動作も緩慢だ。
俊敏なケルベロスには、まともに使っても当たることはないだろう。
だが、やりようはある。
「まあ、見ててくれ」
ウンディーネはそう言ったが、別に大したことではない。
要するに、相手に攻撃が当たらないのなら当たるようにすればいいのだ。
俺はケルベロスの攻撃範囲に入らないように気を付けながら周囲を走り回る。
走り回りながら、ドリアードの力を行使していく。
その様子をポーチから覗きつつウンディーネが『うえぇ……』と嫌そうな声を出しているが知ったとこか。
「……よし、できた」
仕込み終えた俺がソーニャを見る。
彼女はケルベロスの猛攻を危なげなく凌いでいる。
頃合いをみて、俺はソーニャに合図を送った。
「ソーニャ! 後退しろ!」
「了解」
間髪入れず、ソーニャが後ろに跳び、ケルベロスとの間合いから逃れる。
そのすぐあとに「これでいい?」とソーニャが俺に視線を送ってきた。
俺は小さく頷き肯定を返す。
『ガルッ!』
ケルベロスが急に後ろに下がったソーニャに追撃を開始する。
前足を地につけ、獣の動きで彼女を食い殺さんと飛び掛かった。
が、それそこが狙いだ。
ケルベロスの踏み込んだ位置には、肉塊の沈む血だまりがあった。
どちらのヤツかは忘れたが、ケルベロスが食い殺した仲間のものだ。
「――《
力を開放。
俺が仕込んでいたドリアードの『力』が肉塊に残った魔力を養分に急速に成長。
ケルベロスの踏み込んだ前足とともに。
『ガウッ!?』
ケルベロスの左前脚が、完全にツタに絡まり同化した。
重心がわずかに狂ったのか、一瞬だけぐらりとよろめく。
とはいえ、所詮は小さな肉塊から生まれた小さな植物だ。
ケルベロスの圧倒的な膂力で踏みつぶされ、ツタは肉塊をあるべき姿に治す前に魔力が拡散。消滅した。
だが、その一瞬こそが勝敗の分かれ目だった。
「――《蒼炎斬》」
ザンッ――
ソーニャの高熱を帯びた大剣がケルベロスを両断する。
『ガ……』
左右に分断された魔物の躯が、突進の勢いを保ったままソーニャの両脇を通り過ぎ、ダンジョンの冷たい床にゴロゴロと転がり、止まる。
直後、躯は淡い光の粒子となり、虚空に溶けて消えた。
あとには拳大の魔石が一つと、小指ほどの魔石が一つ、転がっていた。
「……さすが私の貴方。お見事」
ソーニャが満足そうに大剣を振るい、血を払う。
『お主……えげつないことを考えるのう……』
ウンディーネがドン引きしている。
だがこれは命のやりとりだ。
戦い方に綺麗も汚いもない。
使えるものは使う。冒険者として当然の心構えだ。
もちろん仲間を陥れるマネや、必要以上に敵をいたぶることは俺も趣味じゃないけどな。
「さて、あとはお前だな」
「素直に投降することを勧める。貴方一人では、もう私たちに勝つことは不可能」
「う、ウソだろ……幻獣の力を得た魔人だぞ……ありえないだろ……」
俺たちの戦いぶりをみて腰を抜かしてしまったのか、その場に崩れ落ちたカールに近づく。
「ひいぃっ! ま、待ってくれぇ! 僕はもう一人なんだ! 君ら二人とじゃ勝ち目なんてない! だから、命だけは助けてくれ…………とか言うとでも思ったか?」
最初はおびえた様子を見せたカールだったが、表情を一変させ、不敵な笑みを浮かべる。
懐から取り出した結晶を取り出し、俺たちに見せびらかすように掲げた。
「これなんだと思う? これ、ここのダンジョンコア」
カールが、俺たちが止める間もなく結晶をぺろりと平らげる。
次の瞬間。
直後、ぶわ、とその身体から膨大な魔力があふれ出した。
「……ルイ君。まさか、あいつが」
「ああ。あれがダンジョンコアなのかはともかくとして、あれはちょっとマズいぞ」
結晶を喰らったカールからあふれ出る魔力量は異常というほかない。
うかつに近づけば、身体に変調をきたしそうな濃度だ。
とっさに、俺とソーニャはカールから距離を離す。
『ギギ……ここまでやったんダ。お前ラ、僕を楽しませろヨォ?』
カールの身体がミチミチと膨張を始める。
あっという間に、カールは魔物に変貌していた。
額に赤い宝石の埋まった、巨大なイタチのような魔物だ。
『たかガ駄犬入りの人間に勝ったくらいデ僕の計画を邪魔できルとでも思ったカ? 思い上がるなヨ、人間ンンッ!!!』
カールだった魔物が、すさまじい殺気を放ちながら吠えた。
『む……あやつの面構え……どこかで……?』
ウンディーネの小さな声がポーチから聞こえたのは、それとほとんど同時だった。
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