第33話 『魔導王朝遺跡攻略⑤ 広間の攻防』
「……バレット!?」
少々装備が変わっていたり、なんか片目が真っ赤で妙に生気のない風貌をしていたりするが……俺が見間違えるわけがない。
「おんやぁ? もしかして君、バレット君と知り合いだった?」
優男は俺の顔を見て、いやらしい笑みを浮かべた。
「ごめんねぇ、彼は今、僕の所有物なんだ。元パーティーメンバーとかかも知れないけど、悪いけど諦めてくれないかな?」
「いや、別にいらん」
「……あっそ。まあいいや」
別に気にしたふうでもなく、優男は俺の返答を軽く流す。
「ま、いいや。イーゴン、ビリー、『氷姫』とその従者様と遊んでやってよ。僕はまだ忙しいからさ。あ、バレット君はこっちね」
優男はそういうなり、バレットを連れてフェンリルの奥へと隠れてしまった。
「御意。ただの『
「ウッス。まさか『氷姫』とヤれるなんて、今日はツイてるぜ」
二人の男が前に進み出た。
「私は『殺戮』を受け持つ。ルイ君はもう一人をお願い」
ソーニャが陰気な長身の男を向いて言う。
どうやらこっちは『殺戮』とか言うらしい。
もしかして、元『
身にまとう雰囲気は、触れれば身が切れそうに鋭い。
まあ、俺は自分の役割を全うすることにするか。
ソーニャが倒せばそれでよし、だ。
「了解」
俺は言って、チンピラ風の男を向く。
いずれにせよ、優男が何をしてるのか分からないが……こいつらがいるとフェンリルの封印を解くのも、その後の契約もできない。
さっさと終わらせよう。
「ああん? なんだ、俺の相手はヤローかよ」
「ヤローで悪かったな。だが『氷姫』に相手をしてもらいたきゃ、俺を倒してからにしろチンピラ」
「ぽっと出の魔術師ごときが舐めやがって。こちとら元Aランクなんだよっ! 俺の名は、重爆のビ「――《水槌》」ごへあぁッ!?」
俺の煽りに何かを喚き散らすチンピラだったが、戦いの最中に無駄口は禁物だ。案の定、俺の繰り出した水の槌に反応すらできず、まともに腹に受けて吹っ飛ぶ。
「がふっ……てめぇ……名乗りくらいさせやがれ……」
チンピラは広間の奥の壁に叩きつけられ、白目をむいたまま動かなくなった。
なんか今、Aランクとかなんとか言ってたが……まさかそんなわけはないよな。いくらなんでも弱すぎるし。
――ギギギギギンッ!!!
一息つくと、耳障りな金属音が響いているのに気が付いた。
見れば、ソーニャと『殺戮』が激しい戦闘を繰り広げている。
「――《蒼炎の舞》……っ、この男……できる」
「ふん。貴様もそれなりにやるではないか」
どうやら『殺戮』はかなりの手練れのようだ。
見れば、妙な黒い
なるほど、ソーニャと同じ魔法剣士系のジョブらしい。
だが……形勢はややソーニャが優勢だ。
彼女の剣技の前に、『殺戮』はいまだ一撃すら入れられていない。
だが、『殺戮』は余裕の表情だった。
これは……何か隠しているな。
「ふははっ、『氷姫』よ。貴様の剣は素直すぎる。それでは『殺し』の腕は上がらんのだよッ!」
「別に殺しの腕なんて興味ない」
「フン、残念だ。貴様のような冷血ならば、分かり合えると思ったのだが……ならばもう要はない。死ね。――《死角からの一げ「――《水槌》」んぬばぁっッッ――!?!?」
――ドガン!
『殺戮』も俺の攻撃により壁に叩きつけられた。
必殺技っぽいのを繰り出す直前だったようだが……まあいいか。
壁にめり込んで白目向いてるし、無力化はできたようだ。
しかし……
「口上が長いのは、この手の連中のお約束なのか?」
「興味ない。でも、助かった。さすが私の貴方」
ソーニャはいつもの調子だ。
もしかしたら獲物を横取りされて怒るかと思ったが、いらぬ心配だったようだな。
「な、なな、なんだ!? ……おい、ウソだろ」
大きな音に驚いたのか、優男が飛び出してきた。
チンピラと『殺戮』が倒れているのを見て、目を白黒させている。
「うぐ……カ、カールさん……こいつら、強ぇ……やっぱ、アレが必要だ」
「カール殿……ぐっ、どうやら侮っていたようだ……かくなるうえは『石』を、我々に」
「は? 時間稼ぎもできないのかよ、お前らはさぁ」
『殺戮』が差し出した手を、カールがげしっ! と蹴りつけた。
「なっ、カ、カール殿!?」
なんだ? 仲間割れか?
「はあ……お前さあ」
まるで氷のような表情でカールが続ける。
「ことあるごとに『俺は『氷姫』より強い』とか息巻いてたじゃん? それがなに? ボロ負け? 使えなさすぎだろ」
「ちが……カール殿、これはあの者が……」
「言い訳はカッコ悪いよ? それとさぁ、ビリー。お前はお前で何やってんの? どんな卑怯な手を使ってでも冒険者とかいうので成り上がってきたんだろ? なんでこんなガキどもにあっさりやられてんだよ」
「ぬぐっ……」
カールは倒れたままの二人を生ゴミを見るような目で眺めながら続ける。
「だけどまあ……さすがに僕じゃ『氷姫』に勝てそうもないし、この二人で勝てないのなら、今のバレット君でもちょっと分が悪いか。正直、あとが面倒だから放っておくつもりだったけど……こうしようか」
カールが不敵に笑みを浮かべると、フェンリルに触れた。
すると――
パシュウウウゥ――――
なんと、フェンリルが淡い光と化し、消滅したのだ。
「お前、今何をした!」
ありえない。
あの巨狼は幻獣だぞ?
それを、封印?
何者だこのカールってヤツは。
「おっと、そこの魔術師君はこの駄犬に用があったのかな? まあ、こういうのは早い元勝ちだよ……さて、と」
カールの手には、拳大の魔石が握られていた。
「これ、何かわかる? これ、フェンリルの封印石」
待て。
俺はあの魔石をどこかで見たことがある。
あれは……
俺が口を開く前に、カールが言った。
「これは本来、ダンジョンボスとかに与えると面白いんだけど……残念ながらここにはいない。そこで強化バレット君、君の出番ってわけだ」
言って、カールは手に持った魔石を、背後に付き従っていたバレットの胸に押し付けた。
魔石はずぶずぶとバレットの身体に呑み込まれていく。
そして――
「う、うご、おがああああぁぁ――!!」
バレットが咆哮した。
それと同時に、バレットの身体に異変が起きる。
バキバキと体がひしゃげ、筋肉が膨張するのが見えた。
ごわごわした獣毛が生える。
顔がいびつに歪み、口からは巨大な牙が生える。
手足には鋭い爪が生えそろっていた。
見上げるような巨獣がそこにいた。
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