第31話 『魔導王朝遺跡攻略③ 致死の罠』
祭壇が沈み込み出現した階段を降りると、景色が一変した。
階下に灯りはなく、冷たい石作りの狭い通路が闇の奥へと続いている。
『なんじゃここは……まるで地下牢のようじゃ』
「というか、ようやく普通のダンジョンに戻った、という感じだな」
俺はポーチから魔導ランタンを取り出し、点灯した。
松明とは違った冷たく澄んだ光が、通路から闇を取り払う。
「今のところは、特に魔物の気配はないな」
とはいえ、普通の遺跡系ダンジョンはこんな感じだ。
今までの荘厳な雰囲気からの落差が激しいが、ようやく本来の姿に戻ったと言うべきだろう。
「ルイ君、ここにはなにか、嫌な空気が漂っている。気を付けて進むべき」
「……ああ」
ソーニャの言うとおり、妙な空気が漂っているのは確かだ。
なんというか、腐った鉄錆のような……血臭とでもいうのだろうか。
「ここからは誰も探索したことがない領域だ。気を付けて進もう」
「……ん。私が先行する。魔物が出現したら、後方支援はお願い」
「了解」
『うむ』
ちなみにウンディーネは応援係だ。
まあ彼女はいくら魔物に攻撃されても死なないので問題ない。
通路をしばらく進むと、少し広めの部屋に出た。
どうやらここは礼拝堂のようだ。
地下室らしい造りなせいか、一般的な礼拝堂に比べるとかなり天井が低く、かなり閉塞感がある。
部屋の反対側には、女神像が掲げられた小さな祭壇が見える。
そのさらに奥には、閉じられた鉄の扉。
あの扉から、先に進めそうだが……
「ずいぶんと陰気な場所だな」
この部屋以外に進むべき道はないので、警戒しつつ足を踏み入れる。
部屋の中は、地下の割にはかなり散らかっている。
乱雑に並べられた木製の長椅子はその大半は何かに荒らされたかのように倒れているし、火の消えた燭台はそのことごとくが倒れたままだ。
かといって、魔物が暴れたときのように破損した気配はない。
いまのところ魔物の気配はないが……少し気になるな。
壁は武骨な石造り。
天井には鉄格子がはめ込まれた通気口が見える。
こんな場所で、どんな神に祈りを捧げたのだろうか。
たしかセレン魔導王朝は、結界魔術の開祖を神格化して崇めていたらしいが……
『ほう、これは……もしかして、我の像ではないか?』
祭壇の側を通り過ぎようとすると、ウンディーネが女神像をしげしげと眺めるとそんなことを言い出した。
「確かに、似ているが……ウンディーネは水の精霊なんだろう? 他人の空似じゃないか?」
『精霊は、亜神じゃ。つまり神の一種じゃ。別に我を祀った宗教があってもおかしくはないのじゃ』
「そんなものなのか」
とはいえ、完全に密教とかそういう類だろ、このシチュエーションは……
「……ん? なんだこれは」
ウンディーネと一緒に女神像を眺めていると、その側にある紋様に目が止まった。
『ほう、懐かしいのう。これは、古代文字じゃ。我が現世に在ったときに主流だった文字で……待て、これは……お主、マズいのじゃ』
急にアワアワと慌てだすウンディーネ。
「なんだ、何がマズいんだ? ここには何が書いてあるんだ?」
『意図は分からぬ。じゃが、ここには……《水の裁きを受けよ》と書いてあるのじゃ』
「はあ? 裁き……いや、待て」
なんだろう、すごくイヤな予感がする。
水の精霊、
裁き、
頑丈な鉄の扉、
天井に空いた鉄格子付の通気口……
それが意味するところは。
「ソーニャ! いったん退避だ! この部屋はヤバい!」
「え……今、扉を開けて……開か……ない?」
ソーニャが奥の扉のノブを回し怪訝な顔をした、その時だった。
ドン!
背後で大きな音がした。
慌てて振り返る。
もと来た通路が、鉄の扉でふさがれていた。
そしてそれと同時に、天井の通気口からすさまじい勢いで大量の水が流れ込んできたのだ。
「クソ、こう来たか! やっぱり罠だ!」
「ルイ君、ここは私が《蒼炎》で扉を焼き切る」
さすが、ソーニャは場数を踏んでいるだけある。
あわてず騒がず、大剣をすらりと抜き放った。
だが、今回ばかりはそれは悪手だ。
もちろんやってやれないことはないだろうが、リスクが高い。
「ダメだ。炎と水は相性が悪い。発生した高熱の蒸気で喉と肺を焼かれるぞ」
以前ソーニャに試したからドリアードの《
「俺がやる」
冷たい水はあっという間に腰まで来ていた。
だが、問題はない。
むしろ大量の水は、俺の『力』にとって味方でしかない。
「――《水刃》」
力を開放。
超高圧の水刃が、頭上に生じた水球から鉄扉めがけて射出される。
――ギイイイイイイィィィン!!!!
水刃は鉄扉に食い込むと、強烈な金属音を響かせながら斜めに扉を横断した。
バキンッ! ドドドドドドッ――――!!!
バラバラに切断された扉が水圧に負け流されていった。
みるみるうちに水がひいてゆく。
「ふう……やっぱ初見のダンジョンはスリルがあるな」
あいかわらず天井からは滝のように水があふれ出てくるが、せき止めるものがなければただの流れの早い小川だ。
『ぬぬぬ……このような罠を仕掛けるために我の偶像を利用するとは……セレン人とやらはなにか我に恨みでもあるのかっ!?』
ウンディーネのキンキンした怒声が部屋全体に響き渡った。
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