どう考えても俺の召喚魔術だけ使い方がおかしい件~自分の身体に『幻獣の魂』を召喚して戦う固有スキルが最強だったので、最速で英雄への道を駆け上がります!
第29話 『魔導王朝遺跡攻略① セレン第七地下神殿入口』
第29話 『魔導王朝遺跡攻略① セレン第七地下神殿入口』
セレン魔導王朝期は、魔術師にとってとても重要な時代だ。
なにしろ、結界魔術のほぼすべてはこの王朝によって生み出されたのだから、むしろこの時代のダンジョン発見がなければ、俺たちの魔術体系はずっと遅れたものになっていたに違いない。
だが、この王朝に関する遺跡群はそのどれもが現役であるに関わらず、冒険者にとってはあまり旨味のあるダンジョンとは言えない。
理由はいくつかあるが、その最大の理由はこれらの遺跡群がどれもとんでもない秘境に存在しているからだ。
たとえば今回の目的地である『セレン第七地下神殿』は場所自体はアグルスから三日ほどで到達できるのだが、その場所が問題だ。
このダンジョンの存在する場所は、人里離れた山奥のさらに断崖絶壁の中腹なのだ。
こんな『魔界』に勝るとも劣らない環境の中、セレン人たちは結界魔術を応用した足場を空中や断崖に組み、さらには移動可能な結界術式に乗りそれで移動を行っていたという。
さすがにそんな芸当、現代の魔術師には不可能だ。
俺たちは、新たな幻獣を探しに、その秘境ダンジョンを訪れていた。
『ふおおぉぉ……この絶景を眺めていると下腹のあたりがキュンとなるのじゃ』
断崖の上からおそるおそる下をのぞき込み、ウンディーネがそんなことを呟いている。
たしかに、ここからだと凄まじい高度感だ。
高さはだいたい千歩分だろうか。
断崖の下は深い森だが、滑落すればさすがの俺でも助かるかどうか自信がない。
だが……
「ウンディーネ、君のガワはただの水だろ。魂は俺の身体の中なんだから、いくらでも落ち放題だぞ」
『なんと恐ろしいことを言うのじゃ、お主は!? 一応この水の身体にも五感が備わっておるのじゃぞ? 滑落すれば、それなりに怖いし痛いのじゃ!』
怖い痛い程度で済むのなら、ある意味落ち放題のような気がするが……
俺の認識がおかしいのだろうか。
それはさておき。
「そういうわけだから、今回は君の力が役に立つ。ドリアード、君が契約してくれて本当に助かったよ」
俺は言って、ポーチを軽くたたく。
『んあ~。まあ、ボクの力はルイの力。好きに使えばいいんじゃない~? それで好きなだけ寝られるなら、ボクは幸せだし~』
ドリアードの気だるげな声がポーチから聞こえてきた。
相変わらず聖樹より怠惰の精霊の方がお似合いだと思わずにはいられないが、まあいつものことだ。
「ソーニャも準備はいいか?」
「問題ない。いつでも準備はできている」
言って、俺の隣でソーニャが頷いた。
「……ソーニャ。俺のわがままに付き合わせてしまって悪いな」
「愚問。私たちはパーティーの仲間同士。貴方の行くところならば、私は『魔界』の果てでもついてゆく」
「『魔界』に行く予定は、いまのところないけどな」
とはいえ、今回目指す場所はダンジョン最奥部とされる階層からさらに深く潜ることになる。
未踏破ダンジョンの攻略は俺も彼女も経験があるが、それよりもずっと難度の高い攻略になるのは間違いない。
「じゃあ、いくか。――《念動蔓》」
力を開放。
俺の足元付近から枯れ木色のツタが断崖に向かってシュルシュルと伸びてゆき、あっという間に梯子の形状になった。
ドリアードの力には、ツタのような植物を自在に操るものがある。
今回はセレン人のように結界魔術で足場を作れない代わりに、彼女の『力』でダンジョン開口部まで到達することになる。
『縄梯子ならぬ、ツタ梯子じゃな。やはりドリーの『力』はすごいのう』
ウンディーネが感心したように言う。
たしかに、こういう状況では植物の力は威力を発揮するな。
俺の感覚では、ウンディーネは力は戦闘特化型、ドリアードの力は工作・戦闘支援型、という分類だ。
「ウンディーネ、君も『節約モード』で俺のポーチ待機だ」
『うむ……しかしあの下腹のキュンキュンする感覚も少しばかり名残惜しい気もするのじゃ……』
「いいから早くしてくれ」
ウンディーネが新しい世界を開いてしまう前に、俺はポーチをポンポンと叩き入るように促した。
◇
ダンジョンの入り口は、断崖を構成する岩盤をくり抜いて造られている。
とはいえ、腐っても魔導王朝時代の建造物だ。
ただの素掘りの岩屋や洞窟とは思えない、繊細な装飾を施した石柱や、岩盤を掘削したさいに施したものと思しき複雑な彫刻が、岩盤に直接彫りこまれている。
『すでに滅びた王朝とはいえ、いまだこのようなものが残っておるとはな』
さっそくウンディーネが元の姿(?)に戻ると、入り口の両脇に立つ魔術師と神官を
「入口もなかなかだが、この遺跡は内部の方がすごいらしいぞ。なにしろ各階層の制御系がまともに動いている珍しいダンジョンだからな」
『ほう? つまりどういうことじゃ?』
「簡単に言うと、このダンジョンは魔素の浸食をあまり受けていない。地上の法則性が、深層でも保たれているんだ」
まあ、説明をしてくれたシャルさんの受け売りだが。
『おお……それはつまり、過去の営みが混沌に侵されていない状態で見られるということじゃな。それはなかなかに歴史的な価値のあるダンジョン、というわけじゃな』
「まあそういうことになるかな」
俺は、昔の文化にそれほど興味はないが……
「補足する。この遺跡は魔力制御された罠も生きている。油断すれば死ぬ」
『そっちの方は壊れててほしかったのじゃ……』
とはいえ、罠については先達の
わざとかからない限り、俺たちに危険が及ぶことはない。
「さ、いろいろ分かったなら、中に入るぞ……うん? これはなんだ」
そんなこんなでダンジョン内部に入ろうとしたとき、妙なことに気づいた。
「これ……風化じゃないよな」
半開きになった岩扉の
まるで誰かが扉を掴み凄まじい力で握りつぶしたような、そんな跡だった。
「これは……魔獣? 表面と割れた断面の色からして、つい最近のものに見える」
ソーニャがその跡に触れ、やや険しい表情になる。
「魔獣ならば、周囲に痕跡が残るはずだ。獣毛とか、フンとか……それらが見当たらない。そもそもワイバーンでもない限り、いくら魔獣でもこんな場所に来るのは無理だろ」
「そうすると、これは私たち冒険者のものということになる」
「あまり考えたくないが……先客がいるかもしれないな。味方とも限らないし、慎重に進もう」
「了解」
緩んだ空気を引き締めながら、俺たちはダンジョン内部へと入り込んだのだった。
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