どう考えても俺の召喚魔術だけ使い方がおかしい件~自分の身体に『幻獣の魂』を召喚して戦う固有スキルが最強だったので、最速で英雄への道を駆け上がります!
第25話 『元パーティーのメンツに絡まれたので返り討ちにした』
第25話 『元パーティーのメンツに絡まれたので返り討ちにした』
「おい、お前。まさか……ルイなのか?」
一瞬、誰か分からなかった。
深夜で、街路が薄暗かったのもあった。
俺よりずっと背が高いヤツだとは思ったものの、当時のバレットとはあまりにも変わり果てた姿だったからだ。
着込んでいるのは、ボロボロの革鎧。
以前は鍛鉄製の、もっとまともな装備だったはずだ。
それから容貌。
髪も髭が伸び放題なのは、まだいい。
もともと舐められないように禿頭にしていたと聞いていたし、髭もまあ、整えていたものの生やしていたからだ。
それとなぜか前歯がなかった。
それよりも……異様なほど爛々と光る眼。
明らかに狂気が宿している。
一瞬、魔物かと思ったくらいだ。
だが……それでもバレットからは、まったく威圧感を感じなかった。
やせこけた野良犬に対して感じる「ああ、かわいそうだな」という印象しか抱けなかった。
だから正直、無視してもよかったのだが……
適当にあしらうには、少々面倒な相手だった。
「そうですが……なにか用ですか、バレットさん」
俺は、ソーニャやウンディーネたちを背にして、バレットに向き直った。
「おお、そうか、そうか! やっぱルイ、テメーだったか。見違えたなぁ。まさか貴族だったとは思わなかったが」
「……聞かれなかったので。話はそれだけですか? ならば、俺たちは急いでいるので」
「け、けひっ……まあ、待てよ。俺はそこの『氷姫』に会いにきたんだからよ。しかし、まさかテメーが『氷炎の灯』の片割れだったとはな。出世したじゃねえか、『へっぴり虫』がよう。しかも、女三人連れたぁ、一体、どんなクスリを使ったんだ? この俺にも、その店教えてくれよ」
「おい、いい加減にしろよ……っ!」
あまりの言い草に、カチンときた。
言い返してやろうと一歩足を踏み出した、そのときだった。
「貴方、誰」
俺とバレットの前に、スッとソーニャが立った。
なぜか、彼女の背中からは凄まじい冷気があふれ出している。
この感じは……怒ってる?
「ソーニャ、これは俺と彼との問題で」
「ルイ君は、少し黙ってて」
「お、おう……?」
あまりの迫力に、少々気圧されてしまう。
『なんじゃあの娘は』『え~、ルイにいいところ見たいんじゃない~』『それ、役が逆じゃろが……』『そ・こ・が~、いいんだって~』『そ、そうなのか……人間とは奥深いものじゃのう……!』
後ろでヒソヒソ話している幻獣はともかくとして。
こんなソーニャ、見たことがない。
いつもは冷静で無表情。
たまにちょっと意味の分からないことを口走ったり、ダンジョンでは魔物に突っ込みすぎたりすることもあるが、ここまで感情をあらわにしているのは初めてだ。
「あ、ああ……『氷姫』サマか。どうもお初にお目にかかる。俺は元コイツの仲間で、バレットってんだ」
「…………」
「アンタんとこ、まだ二人なんだろ? これからさらに名を上げたきゃ、仲間が必要だ。なんでこんなザコと組んでるのかは知らねーが、俺は『重戦士』だから、それなりにやれるぜ? どうだ、むしろコイツをクビにして二人でうまくやってこうや――」
「貴方に興味はない」
バレットが差し出した手を、ソーニャがバチンと払った。
「……あぁ?」
「貴方が彼よりうまくやれる? 笑止。そんな可能性は欠片も、微塵も、魔素一つ分もあり得ない。それより、ルイ君を侮辱したことを謝って。今日はそれで終わりにする」
「……おいコラ女。下手に出てやってりゃ、調子に乗りやがって」
バレットは今ので完全に頭に血が上ったらしい。
「何が『氷姫』だ! ガキが、『
ついに激高したバレットが本性を現す。
怒りで歪んだ顔で口ぎたなくソーニャを罵り、彼女に殴りかかってきた。
クソ。
なんとなくこうなると思ってたんだよ……!
「《水壁》」
――どぷん。
バレットの剛腕が、俺の展開させた水の膜の阻まれ止まる。
ソーニャは無傷だ。
まあ、バレット程度の攻撃じゃかすることすらないだろうが。
「なっ、なんだこりゃ!?」
よほどびっくりしたのか、バレットは慌てて手を引き抜く。
「今のは、『氷姫』の力かぁ? 舐めやがって!」
「いや、違うな。これは俺の『力』だ」
「……はあ? お前の? ククク……ガハハ……!」
腹を抱えて笑い出すバレット。
「なにがおかしい」
「いや、まさか、『へっぴり虫』のテメーがいっちょまえに魔術なんぞ使えるようになっていたとはな。いや、悪かった。一生懸命覚えたんだなもんなぁ? ……だったら、だ」
バレットは急にニヤニヤといやらしい笑みを浮かべると、両手を広げて見せる。
「ちょうどこの辺は人通りが少ねえ。勝負だ。男らしくいこうじゃねえか。俺が勝てば、俺が『氷炎の灯』に加入する。テメーはパシリだ。一生アゴで使ってやるよ」
「……俺が勝ったら?」
「はあ? んなこと考えても意味ねぇだろーが。……そうだな、俺が負けたら、なんでもいうことを聞いてやるよ」
「……ルイ君。こんな人間につきあうことはない」
ソーニャが心配そうに声をかけてくる。
だが、俺の腹は決まっていた。
ここでコイツをどうにかしなければ、きっと俺は前に進めない。
「ソーニャ、君はそこで見ていてくれ」
言って、俺はバレットの前に立った。
「言ったな? バレット。俺が勝ったら、アンタはもう二度と俺やソーニャに顔を見せるな」
「ハッ! 勝ったら、なァ! いくぜ――《身体強化》ッ!!」
バレットが吠える。
メキメキと筋肉が隆起した。
身体中の筋力を一時的に強化する、『重戦士』の固有スキルだ。
もちろん生身で強化済みの攻撃を喰らえば、人間はひき肉になる。
こんなものを躊躇なく街中で使うとは……イカれてるな。
完全に後先考えてないだろ……
だが。
「死ねやあああぁぁぁッ!!!!」
「《水壁》」
――どぷん! どぷん。どぷん。
もちろんバレットの攻撃が俺に届くことはない。
「オラァッ! ゴラァッ! ウラアァッ!!! ……クソが! なんで『へっぴり虫』ごときの魔術が、破れねえんだァッ!?」
当たり前だろ……雷竜のブレスすらしのぐ《水壁》だぞ。
こんな子供のパンチみたいな攻撃じゃ表面を削ることすらできないぞ。
「オラッ! オラァッ!! クソ、クソオォォッ!! 卑怯だぞ! 妙な魔術なんか使わず正々堂々と戦ええええぇーーッ!」
街中で固有スキルを使っておきながら、どの口が言うんだ……
だいたい魔術師が魔術を使わずにどう戦えっていうんだよ。
まあ、俺の場合は召喚魔術だけど。
……でも、どうしよう。
よく考えたら俺、バレットを攻撃する手段がない。
いや、もちろん攻撃自体はできる。
ただ、その手段が強すぎるのだ。
間違いなくバレットを殺してしまうだろう。
正直、もうコイツの生き死にはどうでもいい。
そもそも俺をダンジョンに放置して殺そうとした時点で、ふっきれている。
だがその結果、ソーニャやギルドに迷惑がかかってしまうのは避けたい。
となれば……
あ、そうか。
《水槍》は、魔力操作によって撃ちだす速度は変えられるし、太さも自由自在だ。
ならば……
「――《水槍》」
ちょうど拳と同じくらいの丸み、太さの《水槍》を生成し、射出。
――メキャアアァッ!!
バレットのわき腹に突き刺さった。
「ごぶっ!? あ……あが……」
どうやらクリーンヒットだったらしい。
バレットが苦悶に顔を歪ませ、膝から崩れ落ちた。
俺を攻撃するのに夢中で、攻撃にまったく気づいていなかったようだ。
しかし俺はそれを見て、ほっと胸をなでおろす。
どうやら力の加減は間違いじゃなかったようだ。
ちょっとでもミスると、バレットが爆散してバラバラのミンチになるからな……
だが、コツはつかんだ。
次で沈める。
「げえぇっ……テメー今何を「《水槍》」おごぽぉっ!?」
どうにか立ち上がったバレットに、今度は顎へ一撃。
完全に脳を揺らせたのか、バレットは地べたに顔面から突っ伏して動かなくなった。
「勝負あり、でいいよな?」
「…………」
沈黙が返ってきた。
終わりだ。
「さすが、私の貴方」
『召喚術師にケンカを売るなど……自業自得じゃな』
『治癒、やっとく~? キツいヤツ』
「……さすがに、前後不覚の相手に追い打ちはちょっと」
しかし、なんともあっけない幕切れだ。
もう少し勝利の余韻なんかがこみあげてくるかと思ったが……
案外何も感じないものだな。
だが、これだけ力の差を見せつけたのだ。
今後、バレットが絡んでくることはないだろう。
「……行こう。もう夜も遅い」
このあと、バレットがどうなったのかは知らない。
ただ、風のうわさでどこかの裏の組織に連れ去られた……と聞いただけだ。
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